2012年1月27日金曜日

起業家の発想、役人の発想

ここ何週間か、中小企業の経営者とお目にかかる機会が増えています。中でも特に、自分自身で事業や会社を立ち上げ、大きく発展させた創業経営者、いわゆる「起業家」の方々の発想には驚かされ、今さらながらその慧眼に敬服することがしばしばです。

 先日の貿易赤字のニュースに象徴されるように、工業製品を輸出して外貨を獲得するという発展途上国型の「貿易立国モデル」がほぼ破綻している我が国ですが、役人はどうしても「現状維持」と「今の延長線上」の発想から抜け出すことができません。
 その典型が、いまだに地域商工政策の柱が企業誘致、なかんずく「工場の誘致」であって、莫大な税金を投じて道路や工業団地を整備し、誘致企業に補助金を出す手法が踏襲されていることです。
 さすがにこれでは先がないとわかってきたので、最近は「撤退阻止」、つまり他の生産コストが安い地域に企業が流出することを防ごうと、なんやかんや税金を投入しています。

 しかし、合理的に考えて、設備投資や労働投入が生産性向上に直結する、装置型産業や労働集約型産業が海外に移転することは経済の力学的必然です。このことを ~「産業空洞化論」のような良い悪いの議論ではなく~ 具体的でリアルなイメージで捉えないと対策の立てようもありません。
 そのことは、わしもわかっていると自分では思っていました。

 しかし、ある起業家から「四日市から石油コンビナートが全部撤退した後のことを考えたことがあるか?」と問われたとき、わしも、はたと困ってしまったのです。
 数千人の従業員が雇用され、大量の原油が輸入され、大規模な装置と高度な技術で原油を精製して多様な化学製品を大量に作り出す石油化学コンビナート。
 これはいわば三重県産業にとって重要すぎて、あるのが当たり前になっているのがわしも含めて多くの役人の認識なのだと思います。これが数年後に撤退してしまうかもしれないなどとは想像することもできません。

 絶句しているわしに対して起業家が言った言葉は、これまた予想外のものでした。
 「そんなの簡単や。四日市からコンビナートがなくなることは、長らく積もり積もった公害の街という負のイメージが払拭されることでもあるんや。本来の豊かな自然や環境が取り戻せることで、農業や食品製造業や観光業にはずっとプラスになる。アンチエイジングのような医療サービスも可能性が出てくる。こんな発想が新しいチャンスの芽になるから、時代の変化を読んで、それに合わせてどう事業を作るかを考えるのが経営者の仕事なんや。」
 
 よく、中小企業の強みは、組織が小さいがゆえの柔軟性とか機動力とか言われますが、そのことはこのお話のような超ポジティブな発想から生まれるものであることを再認識しました。
 同時に、どれだけアンテナの感度が高く、時代の先を見据えられるかの能力が、優れた起業家と、その他の凡百の経営者や役人との(残酷なほどの)違いなのだということも思い知らされたのでした。

3 コメント:

maro さんのコメント...

四日市は実はお茶、酪農などの農業都市なのに、工業都市=公害都市のイメージがいまだ完全に払しょくできていません。(生産額としてははるかに石油化学が大きいわけですが…)今しばらく、耐える時期かもしれませんが、持続可能な事業として、今後重要性が増していくかもしれません。

匿名 さんのコメント...

ブログを拝読しています。このポストに対してはご教示をいただきたいと思いコメント致します。文中、貿易立国モデルの破綻とあり、<工業製品を輸出して外貨を獲得するという発展途上国型>という形容詞が付いていますが、貿易立国とは日本は必要なエネルギー資源とか食料資源を輸入せねばならず、原料を加工して行う輸出とがセットになっていることが貿易立国という概念と理解していましたが、半鷲さんにとってはこれは発展途上国型なのでしょうか。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

maro様
 意外なことですが、工業地帯というのは農業生産が活発な地域でもありますね。広大な土地とか水資源とか、農業に適しているところは工業にも好適なのでしょう。その意味で、いわゆる工業地ほど農業の可能性も大きいと思います。
匿名様
 貿易立国にはおっしゃるような、必要な資源を輸入せざるを得ないという意味ももちろんあると思います。ここで発展途上国型と書いたのは、今の日本は輸入に必要な以上の、「外貨を稼ぐ」ことだけが目的となってしまっているという意味です。