2012年3月12日月曜日

一票の格差と産業構造

 今週の週刊東洋経済に載っている、野口悠紀雄早大大学院教授による連載コラム「震災復興とグローバル経済―日本の選択」がめちゃ面白いのでメモっておきます。

 日本の製造業が急激に競争力を低下させているのは誰の目にも明らかです。しかし、震災、ヨーロッパ経済情勢の悪化、円高、電力不足といった諸条件 ~製造業にとっての逆風~ が顕在化する前から、日本の製造業企業はサービス経済化に乗り遅れ、コモディティ化やファブレス化といった新次元への進化にも遅れていたことは数年前から識者に指摘されていました。

 その代表格が野口先生だと思いますが、今回の「あまりに政治的な製造業向けメッセージ(1)」の巻も非常に示唆に富みます。

 iPhoneなどを提供するアップルが、自社では生産工場を持たないファブレス企業であることは有名ですが、野口さんはニューヨークタイムズの記事となった、こんなエピソードを紹介します。

 2007年、最初のiPhone販売開始予定の1カ月前。「天才」スティーブ・ジョブズは突然、ディスプレイの仕様をプラスチックからガラススクリーンに変更することをスタッフに命じた。  到底不可能と思われたこの命令に、中国でiPhoneを生産しているフォックスコンは見事に応えた。
 ガラススクリーンが工場に到着し始めたのは真夜中。その30分後には8000人の従業員がガラス製スクリーンをフレームにはめる作業を12時間シフト体制で開始。96時間後には、工場は1日1万台のiPhoneを生産。1カ月後にはアップルは100万台のiPhoneを販売。それ以来フォックスコンは、2億台のiPhoneを生産した。
 このような想像を絶するスケールの生産規模と生産体制はアメリカでは到底不可能。いまや、サプライチェーン全体が中国の中にある。
はんわし注:しかしながら、フォックスコンはその過酷な労働条件で従業員の自殺が相次いだブラック企業としても有名です。

 問題はここからです。
 このようにアメリカの製造業は中国に太刀打ちすることが不可能なのは誰に目にも明らかなのに、今年の一般教書演説で、オバマ大統領は「製造業をアメリカに呼び戻そう」と訴えました。なぜでしょうか。

 それは大統領予備選挙と関係があります。そこでの勝敗が結果に大きな影響をもたらす、ミシガン、イリノイ、ペンシルバニアなどの州(スウィングステート)は旧来型製造業が非常に多く、ここで勝つためには製造業を保護する公約をせざるを得ないからです。
 アメリカ経済を牽引しいているのは金融業や、シリコンバレーなどのICTですが、政治を動かしているのは旧来型の製造業なのです。

 野口先生は、この構造は日本でも同じだと言います。
 日本の、いわゆる「一票の格差」としての参議院議員(選挙区、09年)1人当たり選挙人名簿登録者数を見ると、東京、神奈川が100万人を超えているのに対して、製造業の比率が20%以上の県のうち山形、富山、長野、岐阜、福井、福島は50万人未満。

・(つまり)首都圏で一票の価値が低いことは、サービス産業の声が政治に反映されにくいことを意味している。それに対して、一票の価値が低い地域で製造業の比率が意外に高いのだ。
・ 「一票の格差」は、これまで、「都市地域対農村地域」の問題と考えられていた。(しかし、これは)「サービス産業対製造業」の問題でもあるのだ。
・今後地方都市で工場閉鎖の動きが進むと、さらにその傾向が強まるだろう。

 なるほど。それで三重、愛知といった製造業の盛んな県では、政治や行政に露骨なまでの製造業への利益誘導があるのか。思い当たることばかりです。
 まさに目からウロコの論稿です。地域産業の振興に関心がある方にぜひご一読いただきたいと思います。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

TPPの議論でも、製造業VS農業のような構図がよく取り上げられます。しかし、製造業も農業と同じく行政依存になりつつあるようです。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

そうなんです。TPPの本質はドメスティックなサービス業の市場開放にあるのでしょうが、工業対農業というフレームが膾炙しすぎて、わかりにくくなっています。
 余談ですが、3月21日に、津市で政府主催のTPPフォーラムがあるそうですよ。