2012年3月20日火曜日

朝日新聞「企業誘致、実らぬ高額補助」は本当か

 昨日(3月19日付け)の朝日新聞「企業誘致、実らぬ高額補助 10年内の撤退・縮小23件」という記事が大きく掲載されました。

 47都道府県が、平成14年度~22年度の間、1億円以上の補助金を支出して誘致した企業の件数は863件、補助金総額は約3928億円であった。
 しかしこのうち、誘致から10年以内に撤退・縮小したケースが、製造業を中心に21社の計23件に上っており、この誘致のために使われた補助金は200億円あまりにもなっていたそうです。

 このブログでは何度も書いていますが、都道府県の行う商工振興政策の柱は長らく2つありました。

 一つは中小企業振興です。地方にある企業の圧倒的大多数は中小企業であって資金や人材、技術などの経営資源が見劣りしており、かつ、競争上も不利な条件を強いられていたため、中小企業の近代化、高度化、協同化の推進や下請け取引の適正化などが大きなテーマだったのでした。
 もう一つは企業誘致です。企業でも特に、多くの雇用と設備投資を行う「工場」(製造業)の誘致が、地域雇用を確保し、労働者の収入を安定化させ、自治体にとっても固定資産税などの税収が得られるという目論見から、率先して工業団地の造成や、道路、工業用水道などのインフラ整備を行いました。
 地方部は都市部に比べて余剰労働力があり、賃金も相対的に低かったので、工場を誘致すればすぐに生活が豊かになることが実感できたのでしょう。

 この傾向はオイルショック、円高不況を経ても基本的に維持されましたが、バブル景気の終焉と共に新しい方向性が生まれてきます。

 まず、中小企業政策の見直しです。中小企業を一律に弱者と捉えた護送船団式の振興策(保護策と言うべきか)が見直され、ベンチャーなど創業の促進や、中小企業による新事業の創出など経営革新の支援に軸足が移されるようになります。
 次に企業誘致ですが、これは支援策がますます強化され、全国での誘致競争が激化する方向になりました。バブル崩壊後の長引く景気低迷と新興国の追い上げにより、大手製造業の海外展開が顕著になってきたころです。
 この事態を受けて、「産業空洞化を防ぐため、国内に大企業の工場をとどめるべし」、「高度技術の海外流出を防ぐため、製造工程を国内で内製化すべし」という2つの大義名分が声高に叫ばれるようになります。

 その先鞭をつけたのが、わが三重県が平成14年、当時の北川正恭知事のもとで決断した、シャープ亀山工場に対する90億円という破格の立地補助金でした。これを契機として道府県間の企業誘致補助金は一挙に高額化競争に突入します。

 そして今、シャープ亀山工場は大型液晶テレビの不振にあえぎ、生産設備の縮小を余儀なくされています。全国の立地済工場でも似たような話が多く発生し、補助金を返す返さないで企業と自治体がもめているそうです。わずか数年でこのような社会経済状況になることは誰にも予測できなかったことです。

 しかし、このような全国の地方での製造業の苦戦は、朝日新聞の記事の中で北川元知事がコメントしているような、円高の急激な進展が地方の工場を直撃したことが原因ではありません。
 日本は税負担や賃金などが高コスト化しているうえに、市場が成熟化して大量生産型のコモディティ製品では利益を上げることができなくなっているからです。
 地方の工場に多い自動車や家電などの輸出型製造業は国内に立地するメリットがほとんどなくなっているのです。
 これはアメリカやヨーロッパ諸国も同じような歴史を歩んでおり、日本だけが例外ではあり得ません
 さらに、多くの実証的な研究が示しているように、自治体や地元にとっての企業誘致のメリットも、実は当初予想されたほどには大きくないことがほとんどです。(たとえばこちらをご参照ください。)

 従って、この記事の中で小出宗昭f-Bizセンター長が言うように、地域産業の活性化は企業誘致に頼ることなく、地元の中小企業を地道に支援していくことが必要なのです。
 20世紀型の企業誘致という手法は終焉を迎えつつあります。問題はもはや、補助金頼みの誘致競争からいかに早く降りるかにあると言えます。

 しかし同時に、わしが思うのは、全国で863件も誘致があって、縮小撤退が23件ならば、まだまだ製造業は善戦しているのではないかということです。
 これら頑張っている工場は、余力があるうちにしっかりした経営戦略を立て、新しいビジネスモデルを模索していくことが必要なのだと思います。

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