2012年12月7日金曜日

実際に結果を出す経営者の哲学に触れる本


今、話題の書となっている モノづくりこそニッポンの砦 伊藤澄夫著(工業調査会)を再読しました。

 三重県四日市市という一地方の中小企業でありながら、今や時代の兆児といった感さえある、株式会社伊藤製作所、そして伊藤社長ですが、注目されている理由は、10年以上前から「日本の製造業は早晩、海外展開が避けられない」と見抜き、当時の常識に抗って、中国でも韓国でもなく、フィリピンに進出し工場を建設したという先見性でしょう。

 今になって尖閣問題などを契機とした中韓での反日運動が激化し、現地に進出した日系企業の多くがカントリーリスクを再認識せざるを得ない状況に至って、結果的にその慧眼があらためて認められるようになったのです。



 はんわしは数年前に伊藤社長に初めてお目にかかりました。
 その時は企業アンケートが目的で、予備知識もないままの訪問でしたが、初対面のわしに対して1時間以上にわたって熱弁をふるってくれたことを思い出します。
 その後、何度かお目にかかりましたが、その都度、たいへん興味深いお話を聞かせていただきました。(たぶん、先方は覚えていないだろうけど)

 今思い出すその一つは、県が知識集約型産業構造への転換などと称して、ある特定の先端的技術の研究開発に予算も人材も相当入れ込んでいたころのことです。
 その話をすると、社長は、その技術は主要な特許をすべて海外企業に押さえられており、技術も非常に高度であって中小企業には参入が極めて難しい分野であると教えてくださり、「このような技術を税金で推進する県には、技術が本当に分かっている職員がいないのか!」と言われたことがありました。
 その後の進展と客観的な技術動向を見ると、そのコメントはまさしくごもっともでした。

 二つ目は、大企業の海外展開が進み、産業空洞化の危機をマスコミが叫んでいたころ、某大手家電メーカーが自社技術をブラックボックス化し、国内に大規模工場を建設したことが「製造業の国内回帰」と称賛されていました。
 しかし伊藤社長は、グローバル経済の下では技術の囲い込みなど不可能で、日本が勝つためには勝てる分野に資源を集中して徹底的なコストダウンを図るほかなく、そのためには生産コストが安い海外への展開が不可避だと言っていました。
 この当時は、経営者の中でもこのような意見は浮いていたと思いますし、もちろん県庁の中で県内中小企業の海外展開を行政が支援すべきだなどと言ったら上司から大変な暴言を吐かれた時代です。
 ところがこれも、ここ数年で状況が一変し、行政は今ではむしろ海外進出を支援しています。
 このような行き当たりばったりの「戦略性の不在」は、伊藤社長から見ると歯がゆく思えるに違いありません。

 本書は、製造業でも、その根幹をなすと言える「金型」技術の重要性や、中小企業の海外展開の必然性、そして、海外に進出するなら「反日国」ではなく「親日国」への進出でなくてはならない理由など、非常に興味深く、洞察に富んだ内容となっています。
 また、中小企業は何より社員を大事にすべきだとか、技術力を維持するため日本人社員も外国人社員も分け隔てなく技能の向上に全社を挙げて取り組んでいることも触れられます。

 伊藤社長の見解に関しては、もちろん異論・反論もきっとあることでしょうが、今日本で一番元気があり、かつビジネスの結果も出している経営者の生の声です。
 政治や経済に関心があるすべての方に、ご一読を強くお勧めします。

 本書のダイジェスト版ともいえる記事が日経ビジネスオンラインに掲載されています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121030/238785/?rt=nocnt

■株式会社伊藤製作所  http://www.itoseisakusho.co.jp/

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