2013年9月20日金曜日

半導体漫遊記を読んで考える


 このブログでも時々ネタに、いや、情報源に活用している伊勢新聞ですが、その連載コラムの一つに、湯之上隆氏による「半導体漫遊記」というものがあります。

 湯之上氏は日立で半導体の開発や製造に従事した経験をお持ちで、退社された現在は微細加工研究所の所長に就任しておられます。日本の半導体産業が国際競争力を失っていく現状を描いた「日本『半導体』敗戦(光文社ペーパーバックス)」などの著作をはじめ、雑誌、新聞などでも経済や技術開発をテーマにした論評をよく見かけます。

 さて、その伊勢新聞の半導体漫遊記ですが、平成25年9月17日付けの第67回は「無駄に多い研究開発費」というものでした。

 三重県四日市市には東芝の半導体工場があります。現在でも国内最大級の規模であり、NAND型のフラッシュメモリを生産しています。先月は、アメリカ半導体製造大手のサンディスク社と共同で、4000億円を投資して新しい工場を増築することも発表しています。
 エルピーダメモリを筆頭に苦境が続く半導体産業の中で、唯一気を吐いているのが東芝四日市であり、巨額の設備投資は多くの雇用も生み出すでしょうし、地元ではいいこと尽くめのように思われていますが、湯之上氏はまったく別の視点で興味深い指摘をしています。


 半導体漫遊記の要旨は以下のようなものです。
・東芝はNANDで韓国・サムスンと激しいシェア争いをしている。何かサムスンの弱点はないか財務データを分析していたら奇妙なことを見つけた。
・半導体メーカーは設備投資のほか、巨額の研究開発費を必要とする。サムスンに比べて東芝は設備投資が1/3程度と異常に低く、その反面研究開発費がサムスンの倍以上と異常に多い。
・同じく日本メーカーのルネサスエレクトロニクスも同じ傾向が見られる。つまり、無駄に研究開発費が多く、製品を量産するのに必要な設備投資が極端に少なく、両者の割合がアンバランスになっている。
・日本は官民合わせてGDPの3.67%に相当する17兆円もの研究開発費を使っている。問題は研究開発が事業化に結びつかないことで、研究開発費の6割は無駄に消えている。
・これは十分な市場調査やマーケティングを行わずに研究開発のテーマを決めているためで、研究が相当に進んだ段階で「これは売れそうにない」とわかるのだろう。
・東芝は研究開発の効率化を進めて、無駄な研究開発費を設備投資に回すべきである。

 これは、よく「日本は技術で勝つがビジネスで負ける」と言われることと共通する問題です。
 研究シーズをたくさん持つことは悪くはありませんが、その研究成果を製品にしていくプロセスや、技術を生かしてビジネスモデルを作り上げていくプロセスが日本は弱いとはよく指摘されます。
 また、設備投資、つまり生産設備の増強などには昨今のデフレ景況下で企業も慎重にならざるを得ず、いわゆるアベノミクスによる金融緩和の促進や、設備投資のための補助金の創設、さらには設備投資減税の検討などは、なんとか企業の設備投資を増やそうという願望の現われでもあります。

 
 しかし、もう一つ重要な指摘もあります。それは、一般的に日本の企業は先進諸国の企業に比べてROA(総資産利益率)がおしなべて低いということです。設備など企業が持つ資産のわりに生み出す利益が低いということで、つまりは「収益力」が低いのです。
 このことは、たとえば今年の経済財政白書にも書かれています。(というか、ほぼ毎年このことは書かれています。)

 ニュースの教科書というブログから、ではなぜ日本企業はROAが低いのかを経済財政白書はどう説明しているかを引用すると、
「白書では、その理由として、日本は資本コストが低いことや、企業活動環境が整備されていないこと、製品の差別化が進んでいないこと、さらには企業間の資源配分が非効率であることや、原価率が高くコスト体質であることなどをあげている。
 このように書くとスマートだが、もう少しベタな言い方をすると、要するに日本の大企業は規制で守られ、まともな競争をしておらず、過剰な人員を抱え、下請け会社を圧迫することだけで利益を得ているということを主張しているのだ。もしこれが本当だとすれば、この状況を改善するためには、徹底的な構造改革が必要ということになる。」

 ということです。

 昔、竹中サンが経済財政改革大臣(だったか)をやっていた時、日本企業には3つの過剰がある。負債の過剰、人員の過剰、設備の過剰である、と言っていたことを記憶されている方も多いでしょう。
 その後、日本の企業は損金の処理による負債のカットや、リストラによる人員カットを進めたことも記憶に新しいことですが、ROAが低いということは、分母である資産が多いということでもあり、つまりは設備の過剰は実はまだあまり解消されていないのだと考えることも可能です。

 以前、このブログでも取り上げた「成長戦略のまやかし(PHP新書)」の著者、小幡績氏もこの考え方であり、日本企業はまだ過剰な設備であって、経営危機に陥ったシャープやパナソニックも市場の成長性に限界が見えた時点でまだ薄型テレビの生産設備に投資を続けたことが原因だとしています。しかしながら、設備投資に消極的なことが日本経済が停滞する原因だと勘違いしているエコノミストや政治家はいまだに多く、国が「成長戦略」の中で企業の設備投資を促進させるのは最悪の経済政策だと断じています。(東洋経済オンラインにも記事があります。)

 で、ホントのところはどうなのか。
 経済学は感情を持つ人間(社会と言うべきか)を対象としているので正反対の説があったり、あるいは説の通りに実態が動かないことはよくあるようなのですが、設備投資をすべきかすべきでないか、もうちょっとしっかり論争してもらい、ちゃんと決着をつけてもらえないでしょうか。これで東芝とサンディスクがコケたら(縁起でもないけど)今度こそ、三重県経済は相当厳しくなってしまうわけで。

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