2013年10月28日月曜日

1992年、マクドナルド・コーヒー事件の真実(マニアック)

 GIGAZINEに、「マクドナルド・コーヒー事件の真実」という記事がアップされています。(リンクはこちら
 この事件(訴訟)は、特に、「製造物責任」とか「消費者問題」に関わっている人の間では非常に有名な(おそらく世界的に有名な)事件です。
 わしも、このような事件があったということは報道で知っていました。その内容はおおむね次のようなものだったと記憶します。

 20年くらい前、アメリカのマクドナルド(もちろん、ハンバーガーの)のドラブスルーで、ある女性がコーヒーを買った。
 しかし、コーヒーを受け取った後、誤って自分の太ももにこぼしてしまい、結果的にやけどを負ってしまった。
 女性は、自分がやけどをしたのはコーヒーが熱すぎたからで、マクドナルドには過失があるとして損害賠償を提訴。
 裁判では女性が勝訴し、被告のマクドナルドから巨額の賠償金を得た。

 この「巨額の賠償金」というのが、この話のポイントです。

 アメリカの法律は、州によってかなり違うそうですが、大企業などが起こした民事法上の不法行為に対しては、懲罰的賠償という制度があります。この制度は日本にはないので、米・日の法律での、大きな違いということができます。

 日本では不法行為(たとえば製造工程で異物が混入して、食べた消費者が体調不良になった。製品の設計や製造に不良があったため、使った消費者がけがを負った。など)によって生じた損害は、実際にそのために発生した金額に限定されます。
 具体的に言うと、被害を負った人の治療費とか、仕事を休んだための休業補償、病院や職場までの交通費、などに限定されます。損害賠償の中には精神的な苦痛に対する慰藉料も含まれますが、日本の裁判所が認める精神的な苦痛の対価が、驚くほどに微々たる少額に過ぎないものであることは皆さんお聞き及びの通りです。

 このように厳密に「損害」の範囲を限定していくと、消費者(被害者)に賠償されるべき金額は、実は意外に少額です。たちの悪い企業や経営者であれば、不法行為をかましてもこれだけのコストで済むなら、少々違反しても、利益を優先しようというところが出てきても不思議ではありません。

 そこでアメリカは、企業への一種の罰金として、被害を受けて不法行為を提訴した消費者に、「実際に自分が受けた損害以上の、企業を懲らしめるために必要な額」も損害額に含めることを認めています。一市民が起こした民事訴訟によって社会正義を実現するのです。ものすごく簡単な説明ですが、これが懲罰的賠償と呼ばれるものです。

 相手がマクドナルドのような大企業の場合、100万円や200万円のはした金では懲罰にならないでしょう。なので、勝訴すればもっと巨額が認められますが、この額は、おそらくごく普通の市民である被害者にとって、一生かかっても稼げないような金額です。彼らはいわば「事件(訴訟)というトラブル」に乗じて一攫千金したとも見られるわけで、やはり「たちの悪い消費者」にとっては、これは「おいしい話」とも映るでしょう。

 この当時、日本は欧米などの先進国に比べて圧倒的に遅れていた分野として、企業の製造物責任とか消費者保護などがありました。先進国では常識の、欠陥商品から消費者を守る、企業の不十分な情報提供による契約などを制限する法律が日本にはなかったのです。
 国際的に見て日本を人並みの国にするために、企業の行動を規制し、消費者の責任を軽くする法律を制定しようという動きがようやっと始まった時、これに反対の声を上げた大企業や中小企業、政党、経済団体などがよく引き合いに出したのが、このマクドナルドコーヒー事件です。
 アホな消費者が自分の不注意でやけどをしたことまで企業が訴えられ、(アメリカほどではないにせよ)賠償を求められたら、そして、もし仮にこのような訴訟が頻発したなら、企業はその対応に追われて経営危機に瀕する、そして日本国内では事業が続けられないくなると言うのです。
 
 しかしGIGAZINEによると、このマクドナルド・コーヒー事件の実態は、巷間伝えられている内容とは少々違っているようです。


原告(やけどをした老婆)は、他の類似のコーヒーテイクアウトサービスに比べても、マクドナルドのコーヒーは高温であり、もしこぼしてしまったらやけどの危険性が高いものであったことを実証的に訴えていたのでした。そして実際に裁判の焦点も、この部分だったようです。
 敗訴した後、結果的にマクドナルドは、コーヒーの温度を下げて提供するようになりました。事実として、原告の主張は正しかったのです。同時に、巨額の賠償金が企業の行動を正す、「懲罰効果」も確かにあったと言えるのかもしれません。

 しかし、本意か不本意かはともかく、結果的に270万ドルもの巨額の懲罰的賠償金をマクドナルドから手にした原告は、マスコミの注目、世間からの妬み、経済界からの批判を一身に浴びることになってしまったのでした。
 話が広まる間に尾ひれ羽ひれが付いてどんどんセンセーショナルになり、その結果、わしのように聞きかじりで早合点してしまったような輩も多いのではないかと思います。反省します。

 何かにつけ、不法を世間に訴える「告発」は勇気がいるものですが、その結果の何とも言えない後味の悪さも、少なくとも日本でこの種の告発が少ない原因なのかもしれません。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

現在ならネットで消費者側が詳しい状況を訴えることも出来ますが、
当時はマスコミやニュースでどうとでも印象を変えられますからね。
携帯電話のカメラ、ネットにアップも簡単になった今、
コーヒーおばさんや宗教団体の圧力、マスコミの情報操作も難しくなったといえるでしょう

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 確かにインターネットの普及と、SNSの普及はこの事件の時と大きな違いですね。
 このような問題についてのマスコミ対ミニコミの影響力の相似や相違は非常に興味深い点です。コメントありがとうございました。