2013年10月9日水曜日

【読感】里山資本主義


 発売後わずか2か月で10万部を突破したという、
里山資本主義 ~日本経済は「安心の原理」で動く~(角川oneテーマ21)
をレビューしてみます。

 わしはこの本を8月に書店で見つけ、著者名がわしが敬服した名著「デフレの正体」の藻谷浩介さんだったので、あまり内容も見ずにぱっと買ってしまったのですが、よく見るとNHK広島取材班との共著であり、藻谷さんが実際に書いているのは「中間総括」「最終総括」とあとがきだけで、2/3はNHKのディレクターが書いているので、その意味ではオビにあるように「デフレの正体」のあやかり商法とも思える作りです。

 実は、この違和感は冒頭の「はじめに」の部分でも強く感じます。
 アメリカが中心となった強欲資本主義がグローバリズムの名で世界を席巻した。それは金融工学という疑似科学を駆使したマネーゲームに過ぎず、リーマンショックによって破綻した。これからは経済成長を志向してカネで買える幸福を追う「マネー資本主義」のではなく、身の丈に合ったもう一つの資本主義「里山資本主義」を追求していくべき、といった、よくありがちな内容です。こういう問題設定の仕方が日本人は大好きです。

 しかし、グローバリズムとは世界の圧倒的多数の人口を占める後進国の人民が、経済的な豊かさと繁栄を追い求めることであり、すでに十分豊かになった先進国の国民が忌避できるものではありません。



 また、アメリカ流マネーゲームの典型としてよく取り上げられるサブプライムローンも、通常ならローンが組めないような低所得の人々でも、金融資産の価値が上がることによって家が買えるようになるという、まさに金融工学の応用で豊かさが実感できる一種の福祉政策だったのです。それを忘れていはいけません。

 本書の多くの部分はNHKのディレクターが執筆している、彼らが言うところの「マネー資本主義の競争からはドロップアウトした」日本や外国での地域おこし活動の取り組み報告です。
 岡山県真庭市の木質バイオマス発電の事例、広島県庄原市のエコストーブの事例。さらには(ヨーロッパの)オーストリアにある木質バイオマスを活用した都市エネルギーの管理システムの事例、などは確かに参考になるし興味深いのですが、山深く豊富な森林資源がある街でうまくいっているとしても、それと日本の多様な田舎、あるいは近郊都市で、それをどう応用すべきなのかが今ひとつピンとこないのが正直なところです。

 やはり、一番の読みどころは、藻谷さんの執筆部分の「中間総括」、そして「最終総括」の部分です。
 今までの日本経済の牽引モデルであった加工貿易立国が、輸入エネルギーの高騰によりもはや成り立ちにくくなっていること。日本の産業競争力は低下したと言われるが、実は輸出の絶対量を見るとバブル期に匹敵するほどの規模になっており競争力は強さを維持していること。疲弊する地域経済を活性化するための三種の神器(高速道路の整備、工業団地の造成、観光振興)は各地で失敗しており、経済の発展にはほとんど寄与しないこと。などが実証的に説明されます。
 この部分は、たとえばわしが勤務している県庁などでも多くの幹部職員は誤解しているか無知なので、藻谷さんのこの説はよく熟読し理解するべきだと思います。

 それを前提として、藻谷さんが主張するのが「里山資本主義」という概念です。
 詳しくは本書をお読みいただくとして、ごく簡単に説明すると、
・「マネー資本主義」の典型が、遠い外国から石油や食料、原料を購入する加工貿易システムである。それは大きな富を生むが、往々にして食糧やエネルギーを確保するためという目的を離れ、貿易で儲けることが主目的になる倒錯を生む。しかも需給ショックによって機能不全に陥るリスクもある。
・「里山資本主義」とは「マネー資本主義」の経済システムの横に、おカネに依存しないサブシステムを再構築しておこうという考え方。おカネがなくなっても水と食料と燃料は手に入り続ける仕組みをあらかじめ用意しておこうという実践である。
・これは今の生活を江戸時代の自給自足に戻せと言うのではない。おカネで買えるものと同じようにおカネで買えないものも大事であり、森林とかコミュニティといったおカネで買えない資産に、最新のテクノロジーを活用することで、おカネ以外の安全安心のネットワークを構築しようという考え方である。
 ということになるかと思います。

 これは、よく理解できる考え方です。
 三重県でも、鳥羽市の離島や南勢・東紀州地域の中山間地域は、「若い人が働く場所がない」「所得の低い」、つまりは経済力の弱い地域です。しかし、住民たちは驚くほど豊かに生活している。これは貨幣価値に換算できない、近所の人がくれた畑の余り野菜とか、濃密な近所づきあいとか、といった、まさしく里山資本主義的なソーシャルキャピタルがサブシステムとして機能しているからです。

 では、この里山資本主義を普及させていくにはどうすればいいのか。
 藻谷さんの鋭いところは、政府の経済政策で、これほど多くの利点がある里山資本主義的な政策が執られてこられなかった理由を「里山資本主義の根底に、マネー資本守護の根幹に逆らうような原理が流れていること。これが政府内の経済運営関係者に、何とも言えない違和感を覚えさせているから。」という解説からも感じることができます。
 したがって、政府が「成長戦略」で主導し、補助金をじゃぶじゃぶ投入する手法で里山資本主義を普及させることはできません。藻谷さんによれば、ブログの普及と同じことで、「参加することが面白い」「参加することで満足が得られる」といった、価値観に共鳴し、自ら行動する人が徐々に増え、ついには静かな大きなうねりとなることで普及していくのです。

 このことが理解できると、ふたたびNHKディレクターたちが書く、山口県周防大島のU・Iターンの事例や島根県などでの農業の活性化事例なども、実に興味深い活動であることがわかります。

 国のくだらない「成長戦略」をいかに忠実に実践するか、ロビイングして予算を獲得するかという負の方向にではなく、地域に入り込み、住民や生産者、企業家と一緒に知恵を絞って地域活性化を目指す正の方向への努力は、多くの地方公務員がそれを願いながらもなかなか実践できないことです。意識の高い公務員、地域おこし関係者は一読の価値があると思います。

はんわし的評価 ★★☆(おすすめ)

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