2013年11月2日土曜日

テレビはすべてを収奪する

フジテレビHPより

 フジテレビ系で放映され人気を博していた「ほこ×たて」の放送が終了される(打ち切られる)ことが決定されました。

 フジテレビのホームページによれば、10月20日に放送した「どんな物でも捕えるスナイパーVS絶対に捕えられないラジコン」の中で、収録の順番や、対戦の運営などにおいて不適切な演出があったとのことです。

 この事実は出演者の一人がテレビ局に指摘をして発覚しましたが、この出演者は2011年10月16日放送分「どんな物でも捕えるタカVS絶対に捕らないラジコンカー」、2012年10月21日放送分「どんな物でも捕える猿VS絶対に捕えられないラジコンカー」においても、不適切な演出や動物への配慮を欠いた撮影が行われていたことを指摘しており、これらについても事実であったことが確認されたとのことです。

 正直言って、わしはこの番組がけっこう好きで、楽しく見ていました。このことはまず、前置いておかなくてはいけません。

 どちらかというと地味で、部外者にはなかなか伝わらない、製造業における優れた加工技術とか、それらの技術を積み重ねて作られる素晴らしい機械や装置を、「対決」をテーマにしてバラエティショー形式で一般視聴者に伝えることは面白いアイデアだと感心しましたし、出演する企業やエンジニアは技術屋魂を持つユニークなオンリーワンが多いとも思いました。さらに、対決テーマをよくこんなに次々と新しく探し出してくるなあ、とも感じたのでした。


 そしてまた実際、登場した企業に対して番組を見た就職希望者が殺到するとか、取り上げられたメカへの見積もり依頼や商談が急増するといった、いわゆる「ほこ×たて効果」なるものまで生まれて、マスコミに大きく取り上げられていたのも記憶に新しいところです。

 しかし、わし個人的には ~今となっては言い訳かもしれませんが~、長い時間にわたる勉学や現場での習得を通じて身に付けた技術や、会社組織にしっかりと根付いた品質本位、技術本位といった組織風土が、バラエティー番組の本質とはいえ、スタジオで受けを狙ってガヤガヤと騒ぐだけの芸人や、放送作家の台本を棒読みする素人のタレントごときにあれやこれや突っ込まれ、おちょくられているのは、あまり気分のいいものではないように思うことがあったのも事実です。

 これがテレビの恐ろしいところなのですが、番組は実際には下請の制作会社が現地でロケをして作り、キー局のスタジオではそのVTRを見てタレントがあれこれ好きなように品評する(品評しているように見える演出がされる)という二重構造になっています。
 現地での製作スタッフの不適切行為を東京のタレントは知るはずもなく、したがって彼らは番組打ち切りという有限責任によって免責されます。番組下請のプロダクションなど零細企業だし、同業他社はいっぱいあるので、親テレビ局から発注を打ち切られて倒産してしまってもなんら社会に影響はありません。

 残ったのは、ほこ×たての内容を真実であり事実だと思い込んでいたものの今回の件でその信憑性に疑問を持っってしまった視聴者たちと、テレビ局に翻弄された形の技術屋さんたちです。

 このブログには何度も書いているように、日本の製造業は1990年代までは世界をリードしてきたし、今でもそのような製品や技術は少なくありませんが、現実には量産品は新興国にキャッチアップされ、そのうえICTや金融・保険、医療といった付加価値の高い産業は欧米諸国に遥か先を行かれ、進むべき方向が見つからずウロウロしている状態です。
 日本の企業や技術者が優れている技術は、今ある製品を改良する技術や、早くたくさん作る生産技術であり、世の中になかった、まったく新しい商品やサービスを生み出す(既存の技術を組み合わせて新しい価値を生み出すことも含めて)、いわゆる「イノベーション」の技術は優れているとはいえません。
 また、技術や製品によって利益を生み出す「稼ぐ力」も諸外国の企業に比べて信じられないほど低く、売れれば売れるほど企業としての体力が消耗していくという残念な姿になっています。

 そう考えると、問題は個々の「素晴らしい技術」や「卓越した職人技」、「固いチームワーク」なのではなく、いかにしてイノベーションを生み出し、いかにして技術や商品をカネに換えるかということです。技術ではなく発想、技術ではなく経営、のほうがよほど差し迫った重要な課題なのです。
 その意味では、「ほこ×たて」はあくまでバラエティーであり、あるべき産業の姿や企業の姿を考える上では、そもそもミスリーディングな番組だったのです。

 

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