2013年11月24日日曜日

精密農業とは何か

 先日、伊勢市産業支援センター主催のセミナーに参加してきました。
 「衛星測位システムの現状と更なる利活用について」というタイトルで、日立造船(株)精密機械本部 電子制御ビジネスユニット 事業推進室 の神崎政之主任技師の講演があったのですが、そこで、はんわし、初めて「精密農業」というコトバを知りました。

 神崎さんは、衛星を利用した位置測定システムGPS(Global Positioning System)の研究開発に長らく従事されてきました。
 衛星による地理情報システムは、アメリカ国防省によるGPSが有名ですが、最近はヨーロッパやロシアなども独自技術でこの分野に参入しており、日本も2010年に準天頂衛星「みちびき」を打ち上げています。
 当初は軍事や航法を中心に技術が応用されてきましたが、その後の民間開放により、防災や気象観測、さらに農林水産業、建設業、工業・サービス業など産業分野でも利用も進んできたとのことです。

 セミナーは、主に伊勢市内の企業や個人経営者を対象にしていたので、産業分野でGPSを利用して新しいビジネスやサービスを始めてもらおうという趣旨でしたが、その産業応用の事例として紹介されたのが「精密農業」だったのです。



 精密農業とは、農水省(農林水産技術会議)のホームページによれば
「農地・農作物の状態を良く観察し、きめ細かく制御し、その結果に基づき次年度の計画を立てる一連の農業管理手法であり、農作物の収量及び品質の向上を目指す」
 というものです。

 農作業には、圃場情報、栽培情報、収穫情報の3つの情報がありますが、これらについて
1)フィールドサーバ、衛星リモートセンシングなど農作物の生育状況を把握できるシステム(観察ツール)
2)肥料などの投入量を場所ごとに自動調整できる可変作業機(制御ツール)
3)米の収量や籾の水分を自動測定できる収量コンバイン(収穫ツール)
4)収量等をマップにより視覚化し、営農計画に活用できる情報解析ツール(解析ツール)
 などの技術を開発し、農業を効率化するというもののようです。

内閣府ホームページより
神崎さんは、農機(トラクター、コンバインなど)のIT自動走行を目標として、準天頂衛星「みちびき」からの補強信号を利用した高精度リアルタイム測位を行い、低速移動体である農機のアシスト走行を実証しました。
 要するに、GPSの誘導でトラクターを無人走行させる実験に成功したのです。
 ちなみに、これにより準天頂衛星の利用を促進したということで、内閣府による平成25年度の宇宙開発利用大賞・内閣府特命担当大臣(宇宙政策)賞を北大とともに受賞されています。

 人間がトラクターを操作すると、運転作業上どうしても耕作区域の重複などが生じたりしますが、高精度リアルタイム測位を使うと1~2センチの誤差内でトラクターを自動運転できるため、そのような無駄がなくなります。また、夜間も連続運転できるので作業も大幅に効率化できます。
 
 神崎さんによれば、これにより農作業の経験のない作業者でも、トラクターをガイダンスの指示に従って操縦することができるため、農業従事者の確保が容易となるとのことです。
 確かに、日本の農業の一番深刻な問題は高齢化と後継者不足です。今まで様々な対策は取られてきましたがほとんど成果はなく、もはやはっきり言って時間切れです。このままでは10年以内に国内の農地の多くは自動的に耕作放棄地になるでしょう。
 そのダメージを少しでも和らげるには農作業の省力化は避けられませんし、同時に、耕作者個人個人が持っていたノウハウは失われるので、それをデジタル化してデータベースにし、誰でも共有でき、IT技術に応用できるような社会的な仕組みを作っていかなければいけません。

 この実証実験は、北海道の広大な畑で行われました。このため、わりと作業条件は良かったのですが、中山間部のように、狭くて不整形な農地が多いところではさらなる運転制度の良さが求められます。また、作業中の安全確保も必要になってきます。
 このため、将来的には自動走行に向けて農業作業機械や付属機器・センサー類の技術拡充が課題となるとのことでした。
 いずれにしても、非常に興味深く、夢が持てるお話しでした。

 農業はTPP交渉の進展に伴って、ようやく減反補助金の見直しなど産業としての競争力の強化が始まりました。
 これをさらに加速するには、この自動運転農機のような技術革新が重要です。そのためには巨額の設備投資が必要であり、この意味でも、資金力がある企業(大手資本)による農業参入は不可避です。理想論や零細農家への同情論に溺れるのでなく、産業として強くするための冷静かつ前向きな議論を期待したいと思います。

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