2013年11月7日木曜日

薬のネット販売問題について考える


  政府は昨日(11月6日)、懸案であったインターネットによる市販薬(一般用医薬品)の販売に関して、約1万1千品目ある市販薬の99・8%にあたる品目についてはインターネット販売を解禁する一方、安全性に懸念がある28品目は販売を禁止したり、制限するという方針を発表しました。

 ネット販売が禁止されるのは、エフゲン(殺菌消毒薬)など劇薬5品目。また、制限されるのは、リアップX5(発毛剤)など医療用(処方薬)から一般用医薬品に移行して市販後間もない23品目で、これらについては、原則3年間かけて安全性が確認できればネット販売を認める方針です。
 政府は今国会にこの内容を骨子とした薬事法改正案を提出し、来春から制度を開始したい考えと伝えられています。

 興味深いのは、各新聞社の反応です。
 日本経済新聞は今日の社説(薬販売「対面なら安全」は神話にすぎない)でこう書きます。



 ネット販売は危険性が高く、薬剤師などによる買い手との対面販売は安全性が高い。厚労相はこの一点にこだわった。一見うなずきがちだが、対面販売のほうが安全だという根拠は希薄である。
 薬には大なり小なり副作用がある。決まった用法・用量を守らなければ思わぬ事故につながる可能性がある。
 処方薬からの転用から間もない薬は、服薬時の注意を薬剤師が買い手に周知させるのは当然。対面でもネットでも着実にそれを実行させる仕組みづくりこそが、消費者本位の薬務行政であろう。

 つまり、薬剤師が消費者に服薬上の注意・指導をすることは当然ですが、必ずしもそれは対面で行う必要はなく、ネットを通じても可能であるという判断です。

 一方、政府・自民党寄りの論調が強い読売新聞は、今日の社説(薬のネット販売 やむを得ない最低限の規制)

 市販薬でも、数は少ないものの副作用による死亡例はある。特に転用薬は効果も副作用も強い。ネット販売で問題がないか確認するため、一定期間、販売規制を続けるのはやむを得まい。
 と書きます。
 この決定に反発して、政府の産業競争力会議の民間議員は辞任する意向を示している楽天の三木谷浩史会長兼社長については
 「利便性やビジネスを優先するかのような姿勢で疑問」であるとし、
 課題は、いかに副作用被害を防ぐかである。厚労省は、ネット販売を行う業者に対し、薬局・薬店として許可された店舗を持つよう求めている。大量購入を防ぐ手段をとることも必要とした。
 とネット販売専業者へ本質的な不信感と、それへの政府の厳しい姿勢に賛意を示しています。

 別の見方になりますが、わしにとって非常に興味深く思われるのは、今回の厚生労働省が主導した「ネット販売は解禁するが、その一部は規制する」という、「足して二で割る」としか言いようのない折衷案です。
 しかも、99・8%の品目は解禁するが、0.2%は規制するという絶妙のバランス。

 医師や薬剤師などの抵抗勢力をここまで抑えたのに、0.2%の例外までも訴訟でかたを付けるなどと意気込む三木谷氏を偏屈な拝金主義者に仕立てることに見事に成功しています。
 一方で、全面的に抵抗勢力の顔をつぶすことも注意深く避けられました。副作用の危険が見過ごせない医薬品については、消費者の安全のためという誰も反対できない理由で規制を残したのです。実際、薬害で訴訟になれば国は国家賠償を求められますから、そのリスクを最小限にする意味で、この理屈はよく考えられていると思います。
 よく「官僚は賢い」などと言われますが、彼らのスマートさ(小賢しさというべきでしょう)はまさにこういった利害調整のバランス感覚にあらわれています。

 薬事・医事に限らず、今までは政治的な利害調整はこのような折衷案で解決されることが確かに多かったと思います。
 対立するステークホルダーに対して、官僚は公平中立な存在である擬制されており、しかも「無私」だというフィクションすら添えられていました。彼らが下した判断は純粋に理論的でテクニカルなもので、まあ妥当な落としどころであるという社会的なコンセンサスがあったのです。

 しかし、安倍首相はアベノミクスにおいてこういった利害調整を政治が主導して変革し、突破すると公約しています。
 足して二で割る官僚の知恵で課題が先送りされる従来型の利害調整になるのか、それとも当初の首相の公約通りネット販売の全面解禁が断行されるのかは、硬直化している日本社会が本当に生まれ変われるのかの、その典型的な試金石だと感じます。

2 件のコメント:

三碧星 さんのコメント...

薬害で訴訟と巨額の損害賠償に見舞われていたら、
慎重にならざるを得ないのは仕方がないと思います。支払いは血税からですし。


「だから規制必要」と甘利担当相 楽天セール問題を持ち出し三木谷氏にチクリ まとめたニュース様


そもそもの提案側がこれではまだ時代も下地も整ってはいないのではないかと。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 確かに国家賠償法が現行である限り、行政マンとしては薬事をはじめ、一連の規制緩和には慎重にならざるを得ません。
 国民が、発生した事象について何でも行政の監督責任を問うのでなく、当事者同士で解決していく世の中にならないと、永久に日本は何でも行政頼りで、力強い市民社会や経済にならないという危惧はあります。
 ただ、個人的には、やはり何かのきっかけがないと世の中は動かないと思うのですが。