2013年12月18日水曜日

「上書き」という行政の無責任文化

 最近、三重県内のある尊敬すべき経営者と、ある地方政治家が対談している記事を、ふと目にしました。三重県南部、特に和歌山県や奈良県に接している東紀州地域(三重県の尾鷲市、熊野市、紀北町、御浜町、紀宝町の2市3町からなる地域)の経済振興についての意見交換で、興味が湧いたので、何の気なしに斜め読みしてみると、

・東紀州は農林水産業しか産業がなく、しかもそれは「素材提供」にとどまっている。
・素材を卸しているだけでは利益が出ないので、それを商品に加工し、付加価値をつけて都会に販売することが不可欠。
・しかし、生産者は往々にして独りよがりの商品開発をし、とても売れそうにないものを作っては、結果的に在庫の山を作っている。
・そのためには行政や、ノウハウを持つ企業が積極的に参画し、商品づくりや販路開拓を支援しなくてはいけない。
  というようなニュアンスのことが書いてありました。
  じっくり読んだわけでなく字面を流しただけなので正確ではありませんが、だいたいこんな内容だったと思います。

  この議論の内容は、おおむねは正しいと思います。(不正確な部分は後述します。)
  東紀州に限らず、全国の離島や山間部などの条件不利地が経済的に疲弊している理由は、産業が昔ながらの素材提供にとどまっていて、輸入品や国内他産地との価格競争に負けてしまうこと。そして、付加価値を高めるような加工業がないことです。これは確かにそうです。

  しかし、このことはもう何十年も前から一貫して言われていたことです。そのために、行政では地元主導の「農林水産物を使った商品づくり」、「オンリーワンの特産品づくり」、「首都圏への販路開拓」に対して補助金を激注し、さまざまなマンパワーの支援もしてきました。
  国、県、市町村といった行政は縦割り組織ですが、地域経済活性化に対しては商工部局、農林水産部局、地域振興部局、はては土木部局までが寄ってたかって、実に様々な支援メニューを用意し、手厚く支援してきました。
  行政のほかに、商工会議所や商工会も支援をしてきています。農業や水産業の関係団体とか協同組合による支援もあります。おそらく人口一人あたりに対する産業関連の支出は都市部と比較してかなりの巨額に上るはずです。

  ところが、このように手厚く盛られてきたにもかかわらず、地域経済は活性化しないのです。問題はここです。
  地域経済活性化の一つの理想は、かつての(高度成長期ごろの)人口と賑わいを取り戻すことですが、少子化、高齢化には歯止めがかからず、主要産業の退潮は止まりません。なぜでしょうか。
  2つ理由があります。
  1つ目は、活性化策が実現すべき使命や目標があいまいなことです。
 先ほど高度成長期(昭和40年代)の活気を取り戻すと書きましたが、人口全体が減少していくトレンドの中で、このような独り勝ちは不可能です。
  人がやることである以上、目標は現実的なものでなくてはいけません。人口減少、少子化高齢化、住民自身さえコミュニティに無関心になっていく、などといった、目標の前提となるべき所与条件は、それを認めることが心情的につらいものであるがゆえに目標設定から注意深く排除されてきたのです。
  その結果、特産品づくりの目標は生産者や加工業者の利益確保や事業拡大といったアウトカムでなく、予算の消化とか、関わった人の生きがいといったアウトプットにすり替えられていきます。

  2つ目は、行政が事後検証をしないことです。
 目標があいまいなので、果たしてその手法が最適だったのか、そして成果があったのかが厳密に検証されることはほとんどありません。
  国や県や、日本商工会議所や全国商工会連合会は、次々と新しい施策を作り、予算をつけてくるので、地元はそれを獲得し、なんとか事業消化するだけで手いっぱいになってしまうのです。国から予算を少しでもたくさん獲得することが地域のためになると信じている、怪しげな「スーパー公務員」とやらも現れる始末です。
  特産品づくりは、なんたら開発委員会を立ち上げ、「有識者」を招いて開発会議を開き、試作品を作ったところで時間切れになります。
  本当ならその試作品を受けて、商品化のために必要となるマーケティングや改良の積み重ねをすべきですがその間もなく、次の補助金を取ってきて新しいことに消化しなくてはいけません。(補助金は同じテーマで二年以上続けて採択を受けることができません。)

  その延長線上にあるのが、実は冒頭の対談のような論理です。たぶんこの二人は善意に満ちています。自分達ががんばらねば、と思っています。そしてたぶん、この人たちはまた1と2の二つの間違いを犯すのでしょう。事業をもっと作れ、予算をもっと増やせ、もっと東京に売りに行けと。

  こういった、今までの取り組みを検証しない「上書き」の文化は、行政、特に産業振興系、地域振興系の行政に顕著です。過去から地元の生産者や商工業者が、誠実に、営々と取り組んできた商品開発や販路開拓をすっ飛ばして塗り潰し、木に竹を接いだような新たな施策を作っては自己陶酔している姿。こんな商工行政や地域振興行政がいつまで続くのでしょうか。
  そうではなくて、今まで営々とやってきた施策の検証をして、その反省点を改善すればいいだけの話なのです。何も、今から真新しい施策を自分達が始めるなどと気負う必要はありません。

 この無駄遣いのツケを払うのは子供たちです。面目ない思いです。二人は善意なだけによけい悩ましいのです。

 (注)三重県市町民経済計算などでも明らかなように、東紀州地域の産業別生産額が最も高いのはサービス業、小売業、製造業、建設業などであり、農林水産業は数パーセント程度に過ぎません。従事者数も全産業のうち10%以下です。

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