2013年12月29日日曜日

乾杯条例に意味はない

 三重県名張市と伊賀市で、相次いで「宴会などの乾杯は地元産の清酒(地酒)で行おう」という趣旨の、いわゆる「乾杯条例」が制定されました。

 伊賀の情報誌YOUなどによれば、名張市の12月議会で可決・制定されたのは「伊賀名張の酒・名酒で乾杯を推進する条例」というもの。条例案は名張市議会が今年9月に、市内の地域づくり委員会や名張商工会議所、市内にある4社の酒造場、の3者からの要望を受けて審議してきたたそうで、市内の酒造業や関連産業の発展などを図ろうと、地酒による乾杯の習慣を広めることが目的で議員提案されたものです。(YOU 平成25年12月4日付け

 一方、伊賀市の12月議会で可決・制定されたのは「伊賀市乾杯条例」というもので、中日新聞によれば、蔵元や小売店でつくる伊賀酒類連絡協議会と伊賀焼振興協同組合が市議会に乾杯条例の制定を求める要望書を提出していました。条例の趣旨は、伝統産業である伊賀酒と伊賀焼(陶器)の普及が狙いで、市民に協力を呼び掛け、市や事業者には普及に努めるよう求める内容です。罰則はなく、個人の好みや意思に配慮すること、交通ルールや飲酒マナーを守ることを記したことが特徴とのことです。(中日新聞 平成25年12月26日付け

 これらの乾杯条例、さて、どれくらいの効果があるものなのでしょうか。

 はんわしの意見としては、大変残念ながらほとんど効果はないと思います。すなわち、この条例の制定によって両市の市内にある醸造元の生産量が増えることはないでしょう。

 なぜか。
 両方の条例とも、いわば生産者側の論理のみで作られているからです。名張市では地域住民や商工会議所も参画していますが、それぞれ生産者(供給者)に近い立場からの推進意見であって、なぜ日本酒が退潮傾向なのか、そしてその対策をどうすべきか、そのためにどうやってファンを増やしていくのか、という議論の掘り下げはほとんど感じられない気がするからです。

 「気がする」という持って回った言い方になるのは、わしが実際にこれらの条例文を読んでいないからです。
 奇妙なことに、両市の市役所、市議会ともホームページには「乾杯条例が可決された」というアナウンスはあっても、それが具体的にどんな条文なのかの記載が一切ありません。
 つまり、外部(市民も含めて)に周知する必要はないと考えていることは明白で、これだけでも「内向き」の論理であることが見て取れます。三重県で名張市が初、伊賀市が二番目という県内のトップランナーで、全国的に見てもまだ数が少ないということであるなら、先進的自治体として条例内容(条文)を具体的にどんどんアピールするればと思うのですが。


清酒製造業の場数及び清酒製成数量の推移
国税庁 「清酒製造業の健全な発展に向けた調査研究」に関する報告書
より
なので、これから以降は推測ですが、日本酒の消費が減少しているのは、名張市議会の議論の中であったように「(神戸の)灘や(京都の)伏見などの大量生産の清酒に押されている」という理由もなくはないでしょうが、第一の理由としては飲酒の習慣が失われてきていることです。
 まず、食事が無国籍化して、お酒もビールやチューハイ、ワインが主流になっていることは明らかです。食習慣や食文化が多様化している中で、清酒が今までと同じ製法で、今までと同じマーケットに販売していてもじり貧になるだけです。
 次に、かつてほど社会も飲酒に寛容ではなくなりました。昔は、家の建て前とか、地域の祭りや会合、法事には必ずお酒が出てきました。25年くらい前の話ですが、新年の消防出初式の時、団員たちが警察署や消防署、県庁や市役所の幹部も含めた中で酒で乾杯して景気をつけ、消防車でパレードしていたことをとがめる人はいませんでした。今では絶対にあり得ないことです。

 このような環境の変化に対応するのに、「乾杯は地元の酒で」ということも全く意味がなくはないでしょうが、ごく普通に合理的に考えれば、食事の欧風化・中華化に合った清酒の新製品を作る、女性など飲酒の層が広がっていることを踏まえ、それらのニーズに合った製品を作る、さらには、たとえば「ノンアルコールの清酒」など社会的な要請に応える製品を作る、つまりはイノベーション(革新)を起こすことしか根本的な対策はありません。

 考えてみれば、清酒の醸造業界は、実は非常に保護された業界であることに気づきます。酒にかかる酒税は明治のころから国にとって重要な税源で、それゆえに酒造業界と国税庁の結びつきは強く、深く、新規参入もほとんどない業界です。
 市場が狭まっているから新規参入もないのではありません。おそらく、新しい清酒の商品化を目指しているような人々は少なからずは存在するのですが、事実上参入が規制されていて新たに酒造業を起業することはできないのです。
 新陳代謝が滞るので、結局は今いるプレーヤーだけによる消耗戦となります。新規参入可能であれば、倒産・廃業した蔵元もM&Aによって生き残っていたかもしれません。

 消費者のニーズに応えられず、新規参入もできない業界が沈滞化するのは当然です。これを地場産業と捉えて本当に活性化したのなら、無意味な乾杯条例でなく、蔵元の新商品開発支援や新市場の開拓、新規参入者の促進を市は支援すべきなのです。
 もっとも、これらの取り組みは困難です。ぬるま湯につかった酒造業界を叩き直すのですから血が出るでしょう。市や市議会議員が正面から見たくない気持ちはわからなくもありません。

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