2013年12月3日火曜日

(勝手に抄録)進化するビジネスと中小企業の生き残り戦略

 先日、大阪で開催された「ビジネスチャンス発掘フェア」のセミナーで聞いた、伊藤元重東大教授の講演「進化するビジネスと中小企業の生き残り戦略」の内容をレビューしておきます。

  80分にもわたる長時間の講演でしたが、経済界の第一線で活躍する伊藤教授らしく孫正義氏や柳井正氏などの日本を代表する経営者のエピソードも豊富に交えたお話で、時間があっという間に過ぎてしまいました。

  講演前半は、高齢化やグローバル化、ICTに代表される技術革新など、日本を取り巻く環境が速いスピードで変化しており、しかし日本はそれに対して上手く対応できなかったため20年近いデフレに陥った。企業も消費者もマインドが冷え込み、投資が行われなくなったことが最大の問題で、ようやくアベノミクスによって景気回復の歩みが本格化してきた、という前振りが語られました。

 以下の要約は講演の後半部分で、さらにそれをダイジェストしたものです。わしの主観が入りまくっているので、当然ですが文責はわし個人にあります。あくまで参考程度にお読みください。


   今日特に強調したいのは、アベノミクスによる経済環境の変化である。アベノミクス第一の矢の「金融緩和」、第二の矢の「機動的な財政出動」によって、最悪期は8千円台だった株価は1万5千円台へと70%以上も上昇した。5.5%だった失業率は3.4%に改善し、これからは人手不足の深刻化や人件費の高騰が心配されるだろう。経済成長率も0.5%~0.7%だったものが、今年度の第一四半期は4.1%、第二四半期は3.8%と大幅に上昇した。
  これらを総合すると、賛否両論はあったもののアベノミクスの効果は十分に生まれており、これから来年にかけてアベノミクスは第2ステージに入ったと見るべき。

  ここでポイントなのはアベノミクスの第三の矢の意味である。第三の矢を「成長戦略」と考えるのは正しくない。政府の成長戦略のメインは規制改革や市場開放であるが、これはあくまでもサプライサイドからの政策であり成長には時間がかかる手法である。成長戦略には「民間の投資を促進する成長戦略」という前置きがあ る。つまり政府は民間企業の投資促進こそが最も本質的で、かつ即効性があると考えている。第三の矢は政府でなく民間企業こそが主役である。

  今日の聴衆は中小企業経営者が中心なので、それではどんな分野の投資が有望か、自分の考えを述べたい。
 電力システム改革東京オリンピック関連グローバル化対応の3つがキーワードである。

 1)電力システム改革とは、発送電分離と電力小売自由化の2つ。電力事業の、 発電、送電、配電の3つのプロセスのうち、送電設備は誰もが使える開放インフラとなるので、発電事業、そして下流の配電に近い、スマート住宅やエコ家電といった産業にビジネスチャンスが生まれる。

 2)東京オリンピックとは、開催年である2020年を目標に公共投資、民間投資の前倒しが期待できるという意味。あわせて、日本への外国人観光客のビザ発給が緩和され、海外の観光客が増加する。現在政府の掲げている外国人観光客誘致は目標1千万人だが、3千万人も夢ではないだろう。もちろん、オリンピックを観戦するための4Kテレビも有望であるが、これはテレビだけでなく、通信環境や番組(ソフト)の環境整備が重要となる。

 3)グローバル化が進む中では、企業はビジネスモデルを「スマイルカーブ」の上流と下流に置くことが大事である。(はんわし注:このスマイルカーブの話は、以前もこのブログに書きましたので、詳しくはこちらをご参照ください。)
  スマイルカーブの中流にいる加工産業や組立産業がもっとも儲からない(利益率が低い)のは、日本のように市場が成熟化し、グローバル化している中では仕方がない。上流にいる企業は、ユニークでオンリーワンなモノを作れば伸びる。つまり差別化である。ユニクロが典型で、ヒートテックのような高機能な素材を東レと共に開発するなど、単なる「安売り店」ではない。


  ただし、中小企業では上流にあって研究開発や高度技術で生き残れるのはせいぜい2~3割に過ぎないであろう。多くの企業が目指すべきなのは「下流」に行って生き残ることである。ここでは企業がユーザーとの距離が近いので、ユーザーの変化を先読みして企業もどんどん変わっていくことで、つまり、新しい商品やサービスをどんどん送り出していくことで生き残りが図れる。

  これは「ビジネスモデル開発」と同義であり、経済学でいう「代替と補完」という言葉がヒントになる。紅茶とコーヒーは代替の関係にある。仮に大手企業が紅茶を売っていたら、中小企業がコーヒーを売ってもなかなか太刀打ちはできない。しかし、紅茶と「ケーキ」、紅茶と「クッキー」のように、補完するビジネスをすれば中小にもチャンスがある。高齢化、ICT化、グローバル化は将来避けられないのであって、これらの変化を「補完する」ようなビジネスモデルを考えるべき。

 おおまかには以上のような要旨でした。

  政府(や地方自治体)が行う成長戦略は、特定の産業分野 (成長産業などと呼ばれます)や特定の企業を支援するターゲティング戦略であると世間ではよく誤解されるので、伊藤教授がそれを明確に否定していたのはわし的には同感できました。企業の本来の姿は政府頼みでなく、成長できると自ら信じる分野にリスクを負って投資することであるのは当然です。
  問題なのは、先行きが不透明で企業も将来への確信がなかなか持てないのと、投資しようとしても政府の規制が厳しく思うようにならないことであり、この2つにおいては政府が明確な姿勢を示すことは必要でしょう。

  しかし、くしくも伊藤教授も言うようにグローバル化は否応なく進んでおり、日本企業の投資は政府の姿勢とか政策というより、アメリカや中国の景気動向に負うところが大きいと思います。特に製造業ではマーケットに近い新興国に生産拠点が移るのは仕方がないことで、このような条件の下で、果たして本当にこれから設備投資が伸びるのかは疑問なしとしません。

 また、そもそも、株価の上昇や大企業の業績回復が、本当に金融緩和や財政出動といったアベノミクスの効果であると断言できるのかも、諸説ある中で果たしてどうなのかと思いました。(伊藤氏は、これだけ明確に数字が結果が出ているのだから、もう実態としてカンフル剤の効果はあったと認めざるを得ないというお考えのようでした。)

  わしが最も興味深かったのは、伊藤教授が東京オリンピックの経済効果に大きな期待を抱いていることでした。三重県に住んでいるせいか、これは意外な感じがしました(というか、ピンとこないというべきか。)
 わしの周りではオリンピックはまったく盛り上がっていませんが、東京ではそうではないのかもしれません。

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