2014年2月27日木曜日

中日新聞「シャープ亀山工場 稼働10年」が面白い

 早いもので、シャープ亀山工場が操業を開始してから今年で10年目となるそうです。それを記念して?か、中日新聞の朝刊(三重版)に2月25日から3回にわたって シャープ亀山工場 稼働10年 という記事が連載されました。これがなかなか興味深い記事だったので、お読みになっていない方にはぜひご一読をおすすめします。

 わしは、三重県に着任したばかりの新聞記者さんの何人かが異口同音に「三重に来たらぜひ一度シャープ亀山工場や亀山市を取材したい」と言ったのを聞いたことがあります。それほど、「世界の亀山モデル」ともてはやされた工場が、液晶テレビのシェア激減によって、あっという間に凋落した、というストーリーは興味を引くようです。
 実際には今でも(正規・非正規は別として)2千名近くもの方が働いておられるわけですし、第1工場はアップルのiPhone用の液晶パネルを、第2工場は省電力・高精度のIGZO液晶パネルを生産しており、いわばオンリーワンの下請け企業としては着実な稼働をしているので、閑古鳥が鳴いているわけでは決してありません。

 しかし、それほどに強い印象として刷り込まれているのは事実で、四日市公害と並ぶ三重県産業史上の一大反省点、トピックスとして永遠に名を残すことは間違いないでしょう。



 亀山工場の現状と凋落の原因、そして現在の亀山のまちの様子などの詳細は記事に譲るとして、わしが関心を持たざるを得ないのは、なぜ地域の救世主だと思われた世界最大級の、そして先端技術分野の工場が、結果的には地域の繁栄に役立たなかったのか、ということです。
 シャープ亀山工場には、行政の誘致企業に対する立地補助金としては当時史上最高額であった135億円(三重県が90億円、亀山市が45億円)を支払うことが確約されました。これは、企業に対する支援にとどまらず、企業を通じて雇用や物流、付帯サービスといった経済効果が亀山市とその周辺に広く波及していくことが期待されたためです。いわば、まちおこし、地域振興の手段としても支払われたのです。

 その結果、確かにそれ以前は70億円前後だった亀山市の税収は、平成14年の工場稼働後から急増し始め、わずか6年後の平成20年には140億円に倍増します。人口は5万人を突破し、ビジネス客向けのホテルや、従業員向けのマンションが文字通り林立するようになりました。
 しかし、平成23年に入ると、地デジ特需が終焉し、エコポイントが終了したこともあって液晶テレビは急速に供給過剰、値崩れを起こし、主要家電メーカーは次々と赤字に転落していきます。
 安価な韓国製テレビとの世界的なシェア争いも敗色濃厚となり、リーマンショックが決定打となって、シャープは会社自体が存亡の危機に立たされることになります。(昨年度の決算で3年ぶりの黒字転換を果たしました。)

 シャープが不振に陥った要因は様々ですが、なぜ「このように地域振興の目論見は外れることになったのか」という観点のみで考えると、行政は液晶ビジネス、もっと言えば電気・電子デバイスビジネスの激しいグローバル競争と、それゆえの変化のスピードの速さ、振幅の大きさ、そしてそのことが即、企業の社会的な生死を分けるというシリアスな現実をよく理解していなかったことが原因だと思います。
 
 それまでの地方自治体は、おらが街に来てくれた企業へのご苦労さん賃として立地補助金を出していたのであって、その企業が苛烈な死に物狂いの競争の真っただ中にいることは深刻に意識していませんでした。
 製造業の国内回帰だの、知的財産権のブラックボックス化戦略だの、環境に配慮したエコ・省エネ工場だの、といった枝葉が賞賛され、それに気を取られ、あるいは目くらましされて、客観的な企業の立ち位置を理解していなかったのです。

 では、この反省を我々は将来どう生かしていったらいいのでしょうか。
 間違いなく言えるのは、巷間言われる、これからの「成長分野」などという産業は存在しないということです。
 行政が、政治家が、学者が、企業が、こういう業種を振興したい、既存の企業にこういう業種に進出してもらいたい、この産業分野はきっと市場が拡大するに違いない、と信じ、願う「成長分野」はありうるでしょうが、それは主観であって、どういった産業(業種)がどれほど成長するかはだれにも予測不能です。
 したがって、行政が唱える成長分野など、実はまったく当てにならないということです。
 シャープ亀山工場も三重県が作った経済計画「クリスタルバレー構想」に従って立地されたという形になっていますし、安倍内閣も「日本再興戦略」なる成長戦略で、中小企業に対し、環境・エネルギー、医療・健康、航空・宇宙の3つ産業を成長分野として提示し、参入を優遇しています。
 しかし、これは「そうあってほしい」と願望しているだけであって、実現するかどうかはまったく別問題です。成功するかもしれないし、クリスタルバレー構想のようにコケるかもしれません。日本再興戦略の数年前は、次世代自動車やIT産業、バイオ、ナノテク、エコ家電、太陽光発電などが「成長分野」とされていました。来たるべき未来は「低炭素社会」「水素エネルギー社会」などと言われていました。今どうなっているでしょうか?

 企業は投資分野を見誤れば倒産するだけですが、行政は倒産できません。ツケは住民に回り、さらに回りまわって子孫に及び、あるいは自分達で尻拭いできず、結局国が面倒を見ざるを得なくなります。企業は行政を鵜呑みにしてはいけないし、行政も企業に騙されてはいけません。自己判断、自己責任、是々非々の関係しかないのです。これが一つの教訓でしょう。


2 件のコメント:

maro さんのコメント...

少し視点は違うかもしれませんが、某市の深層水事業もそうなのでしょうか?そろそろ10年を迎えます。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 どういう検証をするかということだと思います。
 某市の深層水事業も、漁業の高付加価値化、関連産業の誘致という2つの目的があったと思います。それぞれの費用対効果とか、課題とか展望とか。
 残念なのは、他の市町村でも同じような巨額投資は多かれ少なかれあったはずなのに、その検証がきちんとされていないので、仮に問題があったとしても対応がとられないという点です。