2014年2月22日土曜日

「朽ちるインフラ」講演会に行った

 伊勢市役所主催による「公共施設マネジメント講演会」が皇學館大学で開催されたので行ってみました。
 講師は東洋大学経済学部教授の根本祐二氏。今から2年前に出版された「朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機」(日本経済新聞社)の著者であり、インフラや公共施設の老朽化問題に警鐘を鳴らし続けてきた人物でもあります。

 1970年代、経済高度成長期真っ只中の日本では、いたるところで道路が建設され、橋、高架、トンネルが造られました。上水道、下水道、さらに病院や学校、図書館、公民館、文化ホールといったさまざまな公共建築物も次々と建設されました。
 鉄筋コンクリート製のこれらのインフラの耐用年数は約50年。つまり2010年代後半からは次々と更新時期を迎えることになります。しかし、無秩序に、しかも「右肩上がりの人口増加と経済成長」を暗黙の前提に造られた、これら膨大な施設を更新するには、今後何十年間にわたる莫大な財政支出を伴うことになります。
 少子化と高齢化が進む日本社会は、つまりわれわれ日本国民は、その重い負担に耐えることができるのだろうか、という非常に興味深い内容でした。

 インフラの老朽化に関しては、一昨年12月に起こった中央自動車道の笹子トンネルの天井版崩落事故が記憶に新しいところです。根本さんによると、このトンネルは建築後35年しか経過しておらず、それにもかかわらず日常点検の盲点であった吊り下げ金具が老朽化していたために痛ましい犠牲者を出してしまったのです。
 しかし、これは氷山のほんの一角にしか過ぎません。昨年も、浜松市の吊橋(第一弁天橋)のワイヤー破断、東京都北区の区道陥没、東京都港区の区道崩落など、老朽化が原因の事故が続発しています。これらでは幸いにも人命に至る被害者が出なかったためにマスコミの扱いが小さく、社会全体にクローズアップされることがないのです。足元では「朽ちるインフラ」という事態がどんどん深刻化しているのです。
 
 では、これらをどう更新すればいいのか。
 ここにも大きな問題があります。
 たとえば道路橋は全国に70万ヶ所もあるそうですが、そのうち30万ヶ所は正確な建築年がわかりません。設計や工事の図面や記録が失われてしまい、建築後いったい何年経っているのか、内部の構造はどうなっているのかが全くわからないのです。行政の管理の杜撰さには驚くほかありませんが、対策ウンヌンの前に、とにかくまず、各省庁、各都道府県、各市町村が維持管理すべきインフラや公共施設の現状把握が喫緊の課題になっているのです。

 根本さんの試算によると、現在あるインフラを維持するだけで毎年8.1兆円の予算が必要です。現在の公共投資にかかる予算総額は約20兆円なので、これを4割増額することが、今後50年間必要になるのです。
 ちなみに、インフラや公共施設の修繕を止めて放置することはできません。財政難のために維持管理ができなくなった代表例が、先般、市役所が債務超過となって破産申請した米・デトロイトです。道路は穴だらけ、街灯は点かず夜は真っ暗。治安は極度に悪化し、裕福な市民から市外へ転出してしまい人口は激減しました。この轍を踏むことは避けなければいけません。

 問題は、ではどうやって費用を捻出するかです。日本経済は今後とも低成長が続くことは間違いなく、税収の自然増は期待できません。借金(国債発行)をこれ以上重ねることも、子孫を殺すのと同じことですからできません。どうすればいいのでしょうか。
 根本さんは、公共施設に関しては、3階層で管理していくことが現実的だといいます。公共施設を利用者の範囲によって3つに区分し、機能はできる限り維持しつつ負担は減らしていくという方法です。
 
1層 → 市役所などの庁舎や病院、美術館、図書館、ホール、体育館などは、自前主義を捨て、近隣の市町村と機能分担する「広域化」を行う。
2層 → 学校、保育所、老人福祉施設などは、別々の施設ではなく、同じ敷地や同じ建物の中で一体化した複合施設として整備する「多機能化」を行う。
3層 → 地区集会所、公営住宅は、民間施設を利用することにし、利用料や家賃を補助する「ソフト化」を行う。
 というもので、確かにこのような対応以外にうまい方法はないでしょう。

 実際に、国の政策もこのような方向性となりつつあり、文部科学省の「学校施設老朽化ビジョン」では、学校校舎の老朽化更新に際しては、公民館や老人福祉センターなどを複合した多機能施設にすることを提唱しているそうです。
 また、民間資産を公共用に活用している事例も全国に生まれてきています。これら先進的な自治体では、議論の当初は住民の反対も起こるそうですが、限られた予算の中、老朽化対策に使うか、高齢者福祉に使うか、というトレードオフとなるので、しっかり議論すれば最後は住民の理解が得られるケースが多いそうです。(かなり難しそうですが。)
 
 根本さんのお話では、幸いにも伊勢市ではすでに、朽ちるインフラ対策として公共施設マネジメントの検討に取り組んでおり、官民で対策を話し合うスタートラインには立っています。
 しかしながら、多くの地方自治体では実態把握すら十分に進んでおらず、対策の検討も始まっていないところがほとんどだそうです。
 講演は、「高度成長期の先人は、私たちに健全な財政(はんわし注:バブル崩壊直後まで、日本政府の借金は少なく健全だった。)と豊かなインフラを残した。私たちは未来の子供たちに不健全な財政と朽ち行くインフラを残そうとしている。賢く再編して、胸をはれる地域を残してあげよう。」という言葉で締めくくられましたが、これは非常に重たい問題です。
 気が遠くなりそうです。  

2 件のコメント:

三碧星 さんのコメント...

民間創業者の大半が数年も持たずに起業に失敗するように、
公共事業も採算が合わない、失敗することの方が多いと覚悟しなければなりません。
その覚悟が無ければ、いえ、失敗することを恐れて資産を遊ばせることこそが罪悪です。


しかも事業には、時の運が付きまといます。

美杉村の伊勢八知地区の小学校が廃校になり、統廃合された伊勢奥津の木造小学校が取りざたされましたが、
崖崩れの危険のために太郎生の小学校まで通学を余儀なくされた子供達。

時代とともに、昔は不可能と思われたことがどんどん便利になり、莫大な付加価値を生み出すことを、私達は歴史を学びながら目の当たりにしてきました。

将来は、そんなに悲観的ではないと思いますよ?

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 わしはけっこう暗い気持ちになりましたねえ。国土強靭化法もそうですが、これからの公共投資はそれによって経済的な波及効果が生れるものは少なく(リニアは民間の工事ですし)、現状維持とか、大変大事ではありますが悪く言えばいつ起こるかわからない災害に備えた投資とかが中心になり、費用の割に経済的効果が出ないという面はあると思います。