2014年3月2日日曜日

【読感】巻き込み型リーダーの改革

 三重県松阪市の市長選から1年余りが経ちました。

 わしが松阪市在住の知人・友人から聞いていた話では、山中光茂市長(平成24年1月の選挙で再選され現在2期目。)の評判は、
・いい人はいい(沈滞する松阪市政のムードを変えてくれた、国や県に正論を直言し、松阪市が注目を浴びた、など)
一方で、
・悪い人は悪い(自分で決めない、逆に、自分で決めた結論に持っていくまで議論を延々と続ける、人の言うことを聞かない、など)
という両極端に分かれており、選挙はどうなるかなーと思ったのですが、結局は山中氏の圧勝でした。

 しかし、残念ながらというか、あくまでわし個人の私見ですが、中小企業振興に関しては、松阪市役所はあまり存在感がなく(失礼ながら)、商工業の振興や、創業・起業の促進などに、どのようなビジョンを持ち、実際にどんな施策をされているのかを不勉強ながらよく知りませんでした。
 この、山中市長による著書、巻き込み型リーダーの改革 独裁型では変わらない! (日経BP社)も、何かの書評で見た時は関心を持ったものの、じっくりと読む機会を失していました。
 しかし、最近になってRDF発電問題がクローズアップされてきていることもあって、先日たまたま図書館で見かけたので借りて読んでみました。

 刊行時期から当然のことですが、この本は、山中市長が全国で一番若い市長(当時33歳)として初当選した一期目のことが中心に書かれており、エッセンスは日経ビジネスオンライン(元歌舞伎町のすご腕スカウトが挑む新しい行政 リンクはこちら)や、週プレNEWS(“永遠の偽善者” 37歳の若き市長、山中光茂が挑む市民改革 リンクはこちら)などで読むことができます。
 しかし、著書をものす「自称改革派」の地方政治家は割と多い中、これだけ各メディアに注目され、今もWEB検索の上位に残っているのは、それだけ山中市長の人柄がユニーク(魅力的)であり、政治姿勢や取り組んできた市政改革を、多くの人は評価しているということなのでしょう。

 本の中で心に残ったのは、過去40年間の中で市長選が3回しか行われていないという松阪市の膠着した市政勢力図をほぐしていくために、松阪市の運営を市長だけが一身に負うのではなく、市民全員が役割と責任を負う姿勢に変くべきであるという政治的な信念が明確であることです。
 そのために、いかに市民に良かれという「動機の純粋性」から発したことにしろ、市役所が何もかも事前に決めてしまって結果だけを市民に事後報告するのではなく、現在の課題は何か、それに対処するにはどんな方法があり、それぞれどんなメリットとデメリットがあるのかを市民に洗いざらい情報公開して、市役所と市民が対等に草の根の議論を積み重ねていく、という手法が取られます。

 これは、言うは易しなのですが、実際には途方もない時間と手間がかかります。
 地方自治体がこの手法を嫌がるのは、よく邪推されるように、特定の利権が絡んでいるからオープンにしたくないということではなく(そんなこともあるのかもしれませんが、すべてではなく)、多くの市町村は財源を国や県からの交付金や補助金に頼っているので、その期限までに事務手続きしないと財源を得ることができず、事業そのものができなくなってしまうからです。
 これは、箱モノのような短期的な成果を求めたがる首長には何よりも避けたいことであって、議論はともかく、これができればトータルではわが市、わが町にプラスになることは間違いないのだから…という理由で、よらしむべしで粛々と事業を進めたいのが本音なのです。
(余談ですが、なので、全国の地方自治体で現在一番頭の痛い問題は、建設コストが上昇して公共工事の入札が続々と不調になっていることです。これではせっかくわが市に内示をもらっていた交付金が国に吸い上げられてしまうではないですか!)

 しかし、山中市長は駅前の再開発事業、市民病院への高額医療機器の導入などの懸案を、この対話手法によって次々と良い方向に解決していきます。(これを「シンポジウム・システム」と名付けています。)
 また、民主党政権下の子ども手当への痛烈な批判、三重県知事による震災瓦礫受け入れ要請(捏造疑惑?)への反論など、国や県に敢然と物申す姿勢を貫きます。
 この本の副題にもあるように、その際留意していることは、市長が地位に乗じて下僚を抵抗勢力に仕立てるパフォーマンスに酔う「独裁型リーダー」になることではなく、シンポジウム・システムや、地域におけるまちづくりを実現するための「住民協議会」システムなど、市役所職員も含めて市民を市政に「巻き込んでいく」ということです。
 このあたり、地方自治体の職員には興味深い内容でした。実際に大きな成果を出しているので、第5回マニュフェスト大賞の首長部門最優秀賞を受賞されているのだと思います。

 本の後半は山中市長の個人的な経歴や、市長に至るまでの職歴が紹介されています。週プレNEWSのタイトルにあるような「歌舞伎町のスカウト」もこの部分で語られます。
 山中市長は医師でもあり、医療ボランティアに従事したアフリカで見た修羅場も言える究極の貧困が大きな政治的動機になっていることもわかります。
 わしが関心を持ったのは、山中市長が「自分は偽善者だ」と公言していることです。(これも週プレNEWSに少し出てきます。)
 本の中では、物心ついた時から自殺志願だったとあって、、しかし同時に欲望の誘惑にも弱い人間なので、せめて他人には「平和な世界を作りたい」「誰もが笑顔で生きられるような世の中にしたい」といった「偽善者」のふりをしつづけ、それに沿って自分の行動を縛らなければ、生きることへの執着を失ってしまうのではないか、という思いがあった、ともあります。
 このへん、内面の告白なので本人の言葉を信じるしかないのですが、やや屈折したというか、奥が深いというか、独自の人生観と政治姿勢がシンクロしているのかな、とも思った部分でした。

はんわし的評価 ★★☆(おすすめ)

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