2014年5月26日月曜日

【読感】年収は「住むところ」で決まる(その1)

 今話題の、年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 エンリコ・モレッティ著 プレジデント社 を読了しました。

 モレッティさんはイタリア出身で、労働経済学や地域経済学を専門としており、現在はカリフォルニア大学バークレー校教授だそうですが、わしはもちろんこの先生のことなど知る由はなく、ただ単に本のタイトルと、何かの新聞だったかで読んだ書評に惹かれて購入してみたのです。

 結論から言うと大変面白い本で、日本も含めたいわゆる先進国の進むべき方向を示唆するものだと思います。もし時間があれば読んでみて損はありません。

 内容についてはネットを検索するとたくさん出てきますし、ダイジェストはプレジデントオンラインでも読むことができます。はっきり言って、このダイジェストだけでも趣旨の大方はカバーしています(プレジデント社もここまでネットに書いてしまったら本が売れなくなると思うのですが・・・)ので、ぜひそちらの方もお読みいただければと思います。

 この本はまず、80年代まで製造業でアメリカ経済を牽引してきた、デトロイトやピッツバーグといった工業都市が急速に衰退している現状を紹介するところから始まります。

 工業化社会には二つのメリットがありました。
 一つは農村で飽和していた農民たちの新たな働き口に工場がなったことです。二つ目は、工業(製造業)は技術進歩による生産性向上が起こりやすい産業であるため、工場労働者の賃金が相対的に高かったことです。おまけに大量生産技術が進むと自動車やテレビのような耐久消費財は驚くほど安価となり、工場労働者を始めとした大きな市場が生まれました。
 工場が集積し、その労働者や家族を支えるサービス業がさらにその町に集まり、というふうに工業都市は成長したのです。

 しかし、90年代に入ると開放政策に舵を切った中国が「世界の工場」として発展を始めます。アメリカ製造業は雪崩を打って賃金が安い中国に工場を移転し、作るべきものを失ったアメリカ製造業は一転雇用を縮小し始めます。パソコンやスマートフォンなどの製造は、現在その大部分が中国で行われていますが、これはもはや単に賃金が安いからでなく、工員が30万人(!)もいる工場がザラという圧倒的なスケールメリットと、緩い労働法制により頻繁な仕様変更や時間外労働にも対応できる柔軟性を持つためであり、モレッティ教授によればこの「突然の状況変化に柔軟に対応できる強み」だけでも先進国の工場はもう中国に太刀打ちできないと断じます。

 一方、iPhoneのようなハイテク製品は、デザインはアップル(アメリカ)、基幹部品は日本、組み立ては台湾・中国という分業になっています。つまり、現代、そして未来の産業においては、製造は重要なプロセスでなく(世界のどこでもでき)、最も重要なのは今までになかったような新しい商品を考え、デザインし、設計する、という「イノベーション」の部分です。これは純粋な頭脳労働であり、簡単には外国にアウトソーシングする訳にはいきません。
 アメリカは、自動車や繊維製品、テレビなどの従来型の製造業に代わって、iPhoneやWindowsのようなハイテク製品、コンピュータソフトウエアで世界を席巻しています。この産業の主役交代がスムーズに進んだため、製造業で減少した雇用は、な新しい「イノベーション産業」にうまく吸収されているのです。

 ただ、ハイテク製造業やICT産業に代表されるイノベーション産業とは、往々にして「高学歴」「高スキル」な人々 ~スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのような~ にしか仕事がなく、少数精鋭の門戸が狭い産業のように思われがちです。この点はわしも何となくそう思っていました。
 しかしモレッティ教授の研究によると、ハイテク産業関連の雇用が一つ創出されると、その地域では非ハイテク部門で新しく5つの雇用が生まれるといいます。つまり、雇用創出力の点ではハイテク産業はずば抜けて高く、製造業の3倍にも達するというのです。
 従って、ある地域の産業を活性化するには、ハイテク産業などのイノベーション産業を興し、あるいは誘致し、それに従事する人材を地域に定住させられれば、後は乗数効果でおのずと他の雇用も増えていく、ということになります。

 ところが、なるほどと感心するのはまだ早いのです。
 イノベーション産業は工業と決定的に違う特徴を持っているからです。それは、地域における勝者と敗者、つまり大きな所得を得る人と低い所得にとどまる人の格差が大きくなるという点です。
 より深刻なのは、この勝ち組と負け組の格差が地域間にも現れるということです。イノベーション産業はきわめて知的な頭脳労働なので、飛び抜けたアイデアや卓越したスキルを持つイノベーティブな人材こそがビジネスの源泉です。これらの人々は自分を高めてくれる、より優れた人材と一緒に仕事をすることを強く望むような人々です。そしてもちろんイノベーション企業も優れた人材を世界中から求めています。こうした相互補完的な労働市場なため、イノベーション産業は、ある都市、ある地域に一極集中して立地します。(シリコンバレーが好例です。)
 イノベーション産業が集積する地域は爆発的に発展しますが、イノベーション産業の集積が低い地域、そもそも立地していない地域はまったく発展から取り残され、さらに衰退していきます。そして、労働者はスキルや学歴に関係なく、イノベーション産業の集積地に住んでいれば仕事は得られ相対的に高い賃金が得られるし、それ以外の町に住んでいては仕事は見つからず、賃金も低いままだ、ということになります。つまり、収入はその人がどこに住んでいるかで決まるのです。
 これがモレッティ教授が説く、イノベーション産業社会という工業社会の次のステージを迎えているアメリカの地域間競争の恐るべき実態です。

 この部分はまさに本書の核心なので、くわしくはぜひ本かプレジデントオンラインをお読みください。
 要するに、人材の教育と確保、なかんずく初等教育の充実、大学進学を支援する奨学金制度の充実などに注力すべきであるということが具体的な提言になります。
 この点は、わしが激ススメする木村英紀氏の「ものつくり敗戦」(日経プレミアシリーズ)の結論も理系教育の充実、と言う似たようなものだったので、大方のコンセンサスになっているのだと再認識しました。


(次回へ続きます)

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