2014年5月27日火曜日

【読感】年収は「住むところ」で決まる(その2)

(承前)【読感】年収は「住むところ」で決まる(その1)

 今回は補足として、わしが読書中に感じた疑問と、それに対する記述をメモしておきます。
 マニアックな内容なので、関心がない方は無視してください。また、わしの独解力が不足しており、あるいは誤読、勘違いしているかもしれません。ご指摘いただけると幸いです。



1 イノベーション産業とは何か?その定義は?
 モレッティ教授が例示するイノベーション(関連)産業とは
 IT、ソフトウエア、オンラインサービス、ナノテクノロジー、クリーンテクノロジー、バイオテクノロジーをはじめとするライフサイエンス
 ですが、コンピュータとソフトウエアが深く関係している分野だけではなく、新しいアイデアと新しい製品を生み出していれば、その産業はイノベーション産業とみなせる、とのことです。具体的には、
 エンターテインメント、環境、マーケティング、金融サービス
 などで、要は「他の人がまだ作っていない製品やサービスを生み出していること」が要件のようです。

2 インターネットの普及で世界はフラット化しないのか? なぜ一極集中が起こるのか?
 経済学者のT・フリードマンは、インターネットの普及によってコミュニケーションの障壁が低くなった結果、世界はフラット化し、地理的にどこにいるかは重要な問題ではなくなったと主張しました。これは確かにその通りですが、現実として、世界のイノベーションの中心地であるシリコンバレーはますます集中度が強まっています。
 この理由をモレッティい教授はイノベーション産業は次の3つがあることで、いっそう企業競争力が向上するため、企業はイノベーションの集積地にますます集中するのだと説きます。
1)労働市場の厚みが増す
 高い技能を持つ人材がイノベーション関連の職を求め、イノベーション企業も高い技能を持つ人材を求める結果、企業の集積と人材の集積が相互補完的に安定して持続される。つまり、企業が多いから人材が集まり、その人材を求めてさらに新しい企業がやって来るという循環が生まれる。
2)ビジネスインフラが整う
 研究所、大学といった研究開発機関、ベンチャーを起業するための情報網や支援専門家、ベンチャーキャピタル(投資家)といった環境が一気に調達できる。
3)知識の伝播が促進される
 高いスキルを持つ人材や企業が集まると、フェイストゥーフェイスの交流が進み、ここが持つ知識がぶつかり合い交じり合ってさらなる創発を生み出す。

3 地域内のサービス産業振興には意味がないのか?
 イノベーション産業は今やアメリカ経済を牽引するエンジンですが、実際にイノベーション産業で働いている人の割合は全就業者数の10%程度に過ぎません。現実には雇用の大多数はウエイターや配管工、看護師、美容師、スポーツジムのトレーナーといった地域のサービス業が占めています。
 イノベーション産業は生み出す商品(製品やサービス)の輸出が可能で、地域に外貨をもたらします。これに対して地域サービス業は地産地消型の非貿易部門であり、モレッティ教授によれば国の経済的な繁栄の牽引役にはなりえません。
 その理由は、地域サービス業には生産性向上の余地が少ないのに対して、イノベーション産業は技術革新による生産性向上が可能であり、そのように高い生産性が達成できる産業はまずその部門で労働者の賃金が上昇し、次に他の産業部門でも労働者の賃金を上昇させる効果があるからです。また、イノベーション産業が新たな雇用を作ると、同じ地域でそれ以外の産業(サービス産業)の新たな雇用を生み出す効果が大きいからです。
 このようにモレッティ教授の主張は、まずはイノベーション産業を振興することが大事で、そうすれば副次的にその他の雇用も生まれてくる、ということです。
 ただ、これはマクロ的には正しいと思いますが、地域産業振興の観点から見ると疑問なしとはしません。地産地消型のサービス業は顧客が地域の住民であるがゆえに、地域住民の生活の質や豊かさと直結しており、まさに地域コミュニティの活力を体現している側面があるからです。
 地域にICTやハイテク製品の事業所があり、他の産業はそれにぶら下がっているのは良くも悪くも「企業城下町」的な産業構造であり、やはりそれなりの脆弱性があるからです。
 地産地消型サービス業の生産性を向上していくこと、さらに、新商品の開発や新市場の開拓といった経営革新を促すことも現実的には重要であると思います。

4 イノベーション産業振興を「産業政策」によって人為的に実現することは可能か?
 政府が産業を活性化させるために公共投資をしたり、補助金のような奨励措置を設けて企業を誘致したりすることはよく見られます。モレッティ教授によれば1930年代にアメリカ政府が行ったTVAが好例で、これによってそれまでほとんど工業がなかったアメリカ南部は急速に工業化が進みました。
 しかし、そのような例はあるにせよ、現実的な問題として、どういった企業を誘致するべきか、つまり、どのような産業が将来成長するかを政府が見極めることは困難です。実際、アメリカのイノベーション産業集積地の中で、政府による誘致策によって誕生したものはほとんどありません。
 最近ではカリフォルニア州フリーモントが再生可能エネルギー産業の振興を掲げ、太陽光発電関連企業の誘致を進めましたが、2011年、その太陽電池メーカーは経営破綻した例があるとのことです。
 これらのことからモレッティ教授は2つのことを指摘します。
1)政府が産業に補助金を支給うる政策は成功していない。
2)民間企業を支援するために税金を用いる前に、それが経済的に理にかなった選択かを問うべき。
 地方政府による企業誘致は、政治的アピールのためにコストを度外視した誘致合戦に陥りやすく、国単位で見るとゼロサムゲームに過ぎない場合さえあります。

 一方、より地域の実情に即した施策として、ある都市全体を対象にするのでなく、その中でも特定の貧困地域に対象を絞り込んで支援を行う「エンパワーメントゾーン・プログラム」が注目されています。貧困地域の居住者向けの職業訓練と雇用促進、企業向け支援、地域再開発等のために資金を投じ、その結果、対象地区の雇用は目覚ましく増加しました。
 荒廃した地域の経済が復活することで、廃墟だった建物に小売店ができ、それによって来街者が増え、そのためにごみのポイ捨てや犯罪も減る。貧困層の雇用が増え、その結果、公的支援の必要性が減るといった社会的恩恵が生まれる。つまり、経済開発によって「外部性」が改善する。これが公的な産業振興策の秘訣だとのことです。 

 

2 件のコメント:

三碧星 さんのコメント...

イノベーションが重要とされる産業って、
「一人の神の啓示を受けた起業家が、従業員達に託宣を授けて世界を変える商品を生み出していく」というイメージがありますが、
 本質的に言えば「こういう商品がほしい、そのために、同意してくれる仲間が多い都市に行きたい」という流れでシリコンバレーみたいな夢の都市ができるんでしょうね。

 金持ちや資産家は偏屈でとっつきにくい人が多いと思われがちですが、彼らほど仲間を、優秀な人材を心から求めるものです。
 インターネットは確かに、スマホさえあれば世界中の人々が繋がり、風変わりで斬新な着眼点を持つ人物を探し出すツールではあります。しかし、やはり人と人は、出会い、直接語らってみなければお互いの魅力は通じないもの。
 文章をつづるのも得手不得手がありますし、相手の持つ理想も100%通じるものではない。誤解で友人を失うこともあるでしょう。

 貧困地域を活性化させる、ローカル路線沿線を観光地に変える。それも名松線や紀勢本線を見つめてきた私には、
 「気脈が通じる人材がそこにいなければ難しい」と思い知らされてきました。
 三重県、伊勢志摩も南紀地方も、イノベイティブに満ちた人物が失望してこの地を去る前に、一堂に会してお互いのヴィジョンを開陳する機会があればと思います。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 シリコンバレーとは全く別次元で「イノベーション」以前の話ですが、そもそも人と人の交流とか衝突が物理的に少ない地域では、コミュニティ活力の維持すら次第に困難になっていくのはわしも体感したことが何度もあります。
 行政は弱者の見方なので衰退し人口減少していく地方に手厚い保護を続けるでしょうが、交流人口を含め人口の一定数が割り込むとほとんど施策効果はなくなるでしょう。
 イノベーション産業が発展すると、地域間格差が拡大するという本書の予言は、この意味でも心配です。