2014年6月22日日曜日

「ありがとう」と私感

***今回はわしの個人的なメモなので、関係ない人は無視してください***

 東紀州からある人が去ることになりました。(フェイスブックで知りました。)
 去るといっても生まれ故郷に戻って、今までの東紀州での経験を地域のために活かしたいというポジティブな動機によるものです。これまで彼女の生き方を見ていて、きっと故郷でも立派な活躍をされると確信できますので、まずはエールを送りたいと思います。

 わしが彼女と知り合ったのは、わしが東紀州に勤務している頃でした。高齢化、少子化、そして農林水産業や建設業などの地場産業の低迷が続いていた東紀州でわしに与えられたミッションは、「産業の振興」、特に実質的に地域経済を支える産業の、商工業と観光業の振興でした。
 日本の「地方」、つまり東紀州も含めた田舎の地域において、商工業を支えているのは家族経営などの中小企業です。ご承知の方も多いでしょうが、中小企業に対して国や県は過去から一貫して強力な支援をしてきており、新規事業や運転資金のための低利融資や信用保証、新商品開発などへの補助金、展示会への出展など販路開拓の支援、経営スキルやノウハウのためのセミナーや勉強会の開催、専門家の派遣などなど、数えきれないほど多くの支援ツールを設けています。
 わしも当初は中小企業の経営者を訪ね、それらの支援策を紹介することに熱心でした。多くの経営者は日々に忙しく、せっかく行政が作ったこれらの支援策の使い方がわからないに違いない。だからそれを教えてどんどん使ってもらおう、という意識でした。

 しかし、それはやがてすぐに壁に突き当たりました。東紀州の多くの経営者から出てきたのは次のような言葉だったからです。



 せっかく来てくれてありがとう。そやけど、もう子供も都会に出て行ってこちらには戻ってこんし、商売も続けられるうちは続けるけど、それもそう長くはないやろう。今さら補助金をもらったり、金を借りたりしてまで商売を大きくする気はないんよ。

 これはショックでした。行政による中小企業支援は、「企業とは利益を極大化する目的の組織であり、すべての経営者はビジネスを大きく活発にしていこうという動機を持っていて、そのために経済合理的に行動する」という大前提があるからです。
 
 現実を目の当たりにすると、東紀州の産業における最大の問題は人材の不足、特に経営に参画できて、組織をマネジメントできる人材の不足であることに気づきました。
 東紀州には大学がなく、多くの若者は高校卒業後に都会へ出てしまい、Uターン者はごくわずかに過ぎません。家業はともかく、一定規模の中堅企業や、数少ないやる気のある経営者 ~ここで言う「やる気」とは、新商品や新サービスを開発して大都市などに売り込み外貨を獲得しようという意欲を持つという意味~ にとっても「片腕」になるような若手がなかなか見つからない悩みが共通していることを知りました。

 そこで、わしの職場である東紀州観光まちづくり公社において新たに行うことにしたのが「東紀州長期インターンシップ事業」です。
 岐阜市のNPO法人G-netの助力を得て、地域振興に興味を持つ学生を名古屋などから東紀州に呼んで、1か月近く、東紀州のやる気のある若手経営者に、いわば「弟子入り」させるような形でインターンシップを行うものです。
 交通不便地ゆえに学生は当然、東紀州に住み込みになりますし、インターンなので無給。しかも取り組む業務は「新規事業の立ち上げ」とか「新規顧客の開拓」などであり、掛け値なしのハードワークになります。

 G-netにコーディネーター役を務めていただけ、学生を受け入れる東紀州の経営者も何人かを口説いて協力を取り付け、あとはどんな学生が来てくれるか・・・というか、そもそも学生が東紀州に来てくれるのか?という悩みで悶々としていたわしにとって、なんと大学を一年休学して、柑橘農家で新規プロモーション開発をテーマにインターンに飛び込んできてくれた彼女は、まさに女神のように思えたものです。今からちょうど6年前のことです。

 実際、彼女は非常に優秀で、積極的で、たちまち地域に多くのファンができて、ネットワークを作り上げていきました。インターン終了後も縁あって東紀州に残り、最後の2年間は地域内にある別の会社に就職し、新規事業の立ち上げをはじめとしてマルチな才能を発揮してきました。

 思い起こせば長かったような、短かったような年月です。わしは自分の稼業の常として、インターン事業が軌道に乗った時に人事異動で業務を外れてしまい、それからは彼女のがんばりを遠くで見守ることしかできませんでした。

 今回、東紀州を離れることはあくまで前向きな理由とのことなので安心していますが、あらためてこの場を借り、お礼を言いたいと思います。
 ありがとう。これからもお元気で。そしてまた、一緒に何か楽しいことをやりましょう。

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私感ですが、行政の「人材育成」は難しいものだと思います。
 東紀州の長期インターンシップは間違いなく彼女の人生を変えてしまいました。(おそらく東紀州と縁がなければ、大学院に進学して大企業か官庁に就職し、順風満帆な人生を送っていたことでしょう。)
 しかし、その張本人の一人であるわしは途中でいなくなってしまいました。さらにこの数年後、予算の確保が難しくなり東紀州長期インターンシップ事業そのものがなくなってしまいました。
 もちろん、その後の人生は本人自身のものですし、人生経験も周りの環境も変わるわけなので、すべてが誰かのせいになるわけではありませんが、わし自身、中途半端な関わり方であったなあ、という後悔は若干感じざるを得ません。
 また、行政が税金を使って事業をやる以上、目標は何か、何をもって成功と定義するか、成功しない場合はどうするか、といったコンセンサスを関係者で共有しておく必要がありますが、ことインターンシップのような人材育成に関しては、その評価が非常に難しいと思います。

 今、アベノミクスの効果か景気が上向いており、人材難も言われ始めています。インターンシップもすっかり「地域おこし」の手法として定着してきました。
 わしら地域振興や地域産業活性化に関わっている者が、再び「地域における人材育成」のあり方について議論をやり直すべき時なのかもしれません。
 

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