2014年6月8日日曜日

「生業」は経営革新できるのか?

 乗り換えの時間まで間があったので、駅の近くにあったうなぎ屋さんに入ってみました。
 津は「うなぎ」が名物で、人口当たりのうなぎ屋の数が日本一多いのだとかで、行政や観光協会もいろいろPRしていますが、かば焼きなどなにせ高価なので、わしは津でうなぎを食べる機会は滅多にありませんでした。今日はちょっと奮発です。

 店内に入るとお昼時にもかかわらず客は数名で、がらんとしています。
 というか、津は駅周辺自体ががらんとしているので、これもむべなるかなという感じで着席。かば焼きが三切れ入っているという、うな丼の「中」を注文しました。
 で、出てきたのがこれ。お値段1750円也の、うな丼「中」です。

 わしが味の論評などおこがましい限りですが、このうな丼はまずくは決してありませんでしたが特別においしくもなく、まあ普通の味でした。
 近年はうなぎも稚魚の不漁で価格が高騰しているとのことであり、うなぎ屋さんも確保に四苦八苦し、しかも仕入れ値も高いので、一昔前に比べてうな丼に割高感があるのは否めません。
 ただ正直言って、もし1750円払って別の店で別の料理を食べたら、また違った満足感が得られたのではないかとは考えざるを得ませんでした。

 我ながら、つまらない性格なのですが、その理由をつらつら考えてみました。


 このお店は初老のご夫婦が経営されており、奥さんは店番、旦那さんは調理、という役割分担でした。メニューを注文すると奥さんは復唱するのですが、「丼の並いち、特上いち」と奥の旦那に聞こえるように大声で言うので、他のお客さんの手前、わしは「中」を頼んでおいて本当に良かったと思いました。並だったら恥ずかしかったでしょう。(それでも1300円もするのですが。)
 ノドが渇いていたので、お茶のお代わりを頼んでも返事はなく、黙って奥から急須を持ってきて、無言でテーブルにドンと置くのです。わし、何かいけないことを言ったでしょうか?

 そしてこのうな丼。メインの丼、キモ吸い、たくわん2切れ、で構成されている、たぶん日本全国に共通のごくまっとうな定番うな丼です。おそらくこのお店が創業して以来、変わらない構成なのでしょう。いや、正確には変えられないのです。
 この種のお店では、接客も、メニューも、昔ながらのやり方こそが「伝統」であって、それ以外に変えようがないのです。

 これは、このお店だけでなく、津の、三重県の、そして全国の企業の圧倒的大多数を占めている、家族経営の小規模な自営業者に共通しています。
 わしも実家が商売をしていたのでよくわかっていますが、家族経営の店は、そもそも創業のきっかけが修行先(丁稚奉公先)からの「のれん分け」であるケースが多く、顧客はあらかじめ決まっており、扱う商品も、仕入れ先も昔からずっと同じです。
 商売のやり方も同じで、小売店なら問屋が新商品とか売れ筋商品(キックバックが付く)を「これ、おたくの棚に置いてみてよ」という感じで持ってきて、それをそのまま売るだけ。飲食店も同じで、メニュー構成から食材からすべて問屋さんにまかせ、調理方法や味付けや盛り付けは、ご主人が昔修行したお店そのままのやり方、いうパターンが実に多かったのです。

 モノが需要に比べて不足していた時代 ~自営業者が多く集まる「商店街」が黄金時代だった頃~ は、そのやり方で間違いありませんでした。しかし、それが主流ではなくなり、通用しなくなってから久しく年月が経っています。
 若かった商店主たちはいつの間にか年をとり、お客はショッピングセンターやスーパーに盗られ、子供も跡は継がず、今は「生業」として日銭を稼ぐ商売に徹しています。
 おそらく、このご夫婦も、この先、年齢的に厳しくなればお店をたたむことになると知っているでしょうが、それまでは生活のために細々と、しかし堅実にご商売を続けていく、ということなのでしょう。
 もちろん、これはこれで立派なお考えですし、何より自分の才覚と腕で生活できるということは素晴らしいことです。

 しかし、このままでは自営業はどんどん減少していくでしょう。街はコンビニと、ナショナルチェーンのスーパーやレストラン、量販店ばかりになり、地方(田舎)の小学校ではすでにもうそうなっているように、子供たちに「魚屋さん」「八百屋さん」「酒屋さん」「服屋さん」と言っても身近に見たことがないので理解できない、という事態になるでしょう。

 これを防ぐには、小規模な事業者が集客力を持つようになるしかありません。具体的には経営を日々革新していくしかないのです。

 わしもその立場にいるわけですが、「行政」による地域産業振興の目的とは何か、中小企業・零細事業者を振興する目的は何か、を突き詰めて考えると、それは経営者に経営革新(イノベーション)を創発させることだ、となるでしょう。補助金だの、低利融資だの、アドバイザーの派遣だのといった「支援策」も、本来はその目的のためにあるはずです。

 しかし、うなぎ屋さんでうな丼を食べていてあらためて感じたのは、それを実行する難しさです。初老のご夫婦に、今以上の生産性向上をどうやって求められるでしょうか。あらたなアイデアや、商材や、それらをミックスした新しいサービスの発想をどうすれば求められるでしょうか。

 食べ終わっておカネを払い、店を出る時、奥さんは「はい、ありがと。」と、わしの背中にボソッと言ってくれました。 

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