2014年7月17日木曜日

企業誘致は2度死ぬ

 先日、毎日新聞が報じたところでは、国(厚生労働省)の緊急雇用創出人材育成事業を使って、三重県志摩市が株式会社DIOジャパンに業務委託していた 志摩コンシェルジュセンター が、6月末で事務所を閉鎖し、従業員が5月分の給料が支払われていないとして伊勢労働基準監督署に申し立てを行ったとのことです。(7月12日付け。リンクはこちら

 DIOジャパン(本社東京都。会社名は「ディオジャパン」と発音)は、緊急雇用事業を受託して全国各地に20カ所のコールセンターを設立しましたが、受託期間が終了すると、大量の退職者発生や給料の遅配、さらに事業所閉鎖や業務停止などが相次いでおり、大きな問題となっています。

 厚生労働省が行った実態調査の中間報告などによれば、同社の志摩コンシェルジュセンターは、志摩市においては観光が重要産業であるため、「観光案内等の情報提供などを行う窓口対応業務を行う人材を育成するため、必要な電話対応やパソコン操作などのスキルを身につけるOff-JT及びOJTを通じた基礎研修を行う。」という目的で、市が公募式プロポーザルにより同社を選定し、委託契約。同社は1900万円を使って平成25年3月にセンターを立ち上げ、13名を雇用していました。
 このことは、市民の働く先が増えるいいニュースとして、地元メディアにも大々的に、しかも好意的に取り上げられていたのでした。(たとえば、伊勢志摩経済新聞の記事はこちら

 ただ、この問題がややこしいのは、この中間報告も書くように、緊急雇用創出事業は期間限定の失業対策事業であり、創出される雇用(つまり新規雇用された求職者)が、次の就職に繋げるため
の人材育成であるという位置づけであるため、事業期間終了後(つまり、志摩市とDIOジャパンの委託契約終了後)に雇用が継続されないこと自体は、制度上は、契約違反の問題とはならないことです。



  国は、緊急雇用事業の趣旨にかんがみ、事業が終了した後も、なるべく雇用を続けるよう指導するのが精いっぱいで、あくまで雇用企業者の性善説に立った、悪く言えば業者のやり逃げを黙認するシステムであることです。
 もっとも、思い起こせば、この緊急雇用事業が作られた平成20年は、リーマンショックの影響もあって失業が増加しており、国が雇用機会を創出することは ~必ずしも国が失業者を公務員として直雇いするのでなく、委託金を民間企業に支払って雇わせる方式によってでも~ は、やむを得ない対策と理解されていたことも事実と思います。

 今後、国の調査も継続されるようなので詳細は次第に明らかになってくると思いますが、DIOジャパンのほかにも、同じような構造の「やり逃げ」は案外全国で見つかるのかもしれません。

 わしが思うのは次のようなことです。そもそもこのDIOジャパンの問題は、岐阜県美濃加茂市で6月に発覚したのが全国で注目されたきっかけでした。
 美濃加茂市は、家電メーカーのソニーの経営不振により、ソニーの美濃加茂工場が平成25年3月に閉鎖されるという憂き目に遭いました。市にとって大きな雇用先、税収先を失うダメージは大きく、市当局は直ちに次の企業誘致に動き出します。
 その結果、DIOジャパンが緊急雇用対策の受託事業として、市から失業者を雇用しながら再就職を支援する「美濃加茂コールセンター」として進出し、岐阜県、美濃加茂市と立地協定も締結しています。受託料は2億4千万円で、当初は100人/月を雇用する予定でしたが、実際には月60名程度と当初から予定を大きく割り込んでおり、初年度から1億円余の赤字で、本年度も黒字が見込めず採算が取れない、と説明し、撤退を表明していたとのことです。

 今まで、美濃加茂市のような平均的な地方都市の商工政策の主流は「企業誘致」、なかんずく工場の誘致でした。
 工場は建物や生産設備に大きな投資額が必要で、市にとっては固定資産税が期待できます。しかも、製造業の雇用は比較的安定しており、サービス業などと比べて賃金も相対的に高く、工場労働者が増えれば扶養家族の生活も潤うという好循環が長く続きました。
 さらに、逃げ足が速いスーパーや量販店、飲食店などと違い、工場は少々の不況であっても簡単に閉鎖や事業縮小などしません。こういった「うま味」は行政関係者に浸透しており、工場誘致こそが行政による産業振興の王道だったのです。

 しかし、グローバル競争の激化と新興国の追い上げによって、一般的な日本の工場は次第に優位性を失っていきます。美濃加茂の場合はそこに家電不況(ソニーショック)が襲ったわけですが、市当局は、今までの「工場誘致」、いやせめて「企業誘致」というセオリーから逃れることができませんでした。
 今までと同じように、工場に代わる「事業所」を探し続け、やっと見つけたのが ~今となっては腹にイチモツあったと思えなくもない~ DIOジャパンだったという訳です。

 お気の毒な話です。しかしDIOジャパンの行為は違法ではありません。
 学ぶべき点があるとすれば、行政は今までの発想を変え、ドグマを捨てて、外から企業を連れてくるのではなく、今ある企業の体力を強くすることに施策の軸足を移すべきだ、ということでしょう。
 ただし、このことは痛みを伴います。今、産業構造のトレンドは大きく変わっていて、従来の商工政策は大きな曲がり角を迎えていること、そして即効性のある特効薬などないことは、市民自身にもよく理解してもらう必要があるでしょう。


3 件のコメント:

三碧星 さんのコメント...

頭の痛い話ですよね。
コールセンターなら都市部でなくても出来る。その可能性を潰してしまった案件。

伊勢市のセントレア航路が潰れたのもよく似た構図ですが、円の通貨流通量が少なすぎたことによるデフレ、欧米の日本経済への過干渉、状況が悪すぎました。
あれだけ日本の財政出動を叩いていたアメリカが、QEで空前絶後の金融緩和を行っている。「お前らが今まで言ってきたことは何だったんじゃい!」と怒鳴りたいところですが、
あの時代の日本は地火明夷、「何を言っても信じられず」。状況が悪かったと諦めるしかないかもしれません。

匿名 さんのコメント...

行政が今ある企業の体力を強くする、ことができるのでしょうか。成功事例、何かありますか。

公務員が自分たちの飯の種を創りだす口実ではないですか。

その手段として手を変え品を変え、生み出されるのは補助金漬けや公的融資まみれの企業たち。いつまでやるんでしょうね、こんなこと。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

三碧星さま
 コールセンターの失敗事例が生まれてしまったというのは、これからは工場の誘致だけでなく、サービス業も誘致しよう、などと考えていた自治体には痛手でしょう。二匹目のドジョウはそう簡単に見つからないことが明白になってしまったのですから。
 製造業以上に商業やサービス業はビジネス環境の変化が速いので、行政のスピード感では対応は難しいと思います。

匿名さま
 本質的なご意見と思うので、稿を変えてわしの私見を書くことにします。