2014年7月23日水曜日

カネならじゃぶじゃぶある

 政府が「成長戦略」である、日本再興戦略の改訂版を公表しています。
 昨年度、アベノミクスの「金融緩和」、「財政出動」に続く第三の矢として日本再興戦略が策定されたわけですが、景気回復の一定の成果を受けて、より実効性のある内容に修正されたという位置づけとなっています。
 この中には、
 一.日本産業再興プラン 
 1.緊急構造改革プログラム(産業の新陳代謝の促進)
 ii)ベンチャー支援
 という項目があって(日本再興戦略改訂版の33ページ)、目標数値(KPI)として
「開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率 10%台(現状約5%)を目指す。」
 と掲げられています。
 
 日本が欧米先進国や新興国に比較して、開業率が低い、すなわち、新規に事業を始めたり、会社を興して自ら経営者となる人が少ない、ということは際立った特徴です。
 これは日本人が基本的に保守的・安定志向であること、連帯保証人制度などの特有の厳しい商習慣によりビジネスの失敗がリカバリーできないこと、など様々な理由があると考えられます。
 一方で、新規創業・起業が活発であることと経済成長には強い相関関係があるので、自動車や家電に代わる新しい主力産業がまったく生れてこない、閉塞感漂う日本にとって、創業や起業を増やすことは意味のあることではあります。



 しかし、このブログではたびたび書いているように、10年ほど前、平成15年ごろにも、日本ではベンチャーブーム(というか、ベンチャー支援ブーム)が国の旗振りによって沸き起こったことがありました。
 官民連携による支援組織の立ち上げや、投資ファンドの充実が図られ、大学発のベンチャー企業を1000社起業させよう、などと文科大臣がブチ上げたこともありました。
 その頃の主体は、国(経産省)や都道府県、そして都道府県の外郭団体である産業振興センター(公益法人)が中心で、それにアクティブな支援者たち(コンサルタントや銀行家、投資家といった専門スキルを有する熱い人々)が取り巻いているような絵柄だったと記憶します。

 ただ、結論から言えば、この施策は大成功だったとは言えません。起業や創業が一般的になり、実際に成功した起業家も多く輩出したのは事実ですが、当初、国が目論んだように、それまでの産業に変わるような新しい産業はほとんど生まれず、真に革新的(イノベーティブ)な商品を生み、しかも経営的に成功する企業もごく少なかったからです。

 三重県はと言えば、今でも画期的な奇策か大愚行か議論が止まない「まるごしで来い 三重」というキャンペーンをやり、優れた起業プラン(ビジネスプラン)を起業家から公募してコンテストを行い、最優秀者が三重県内で新規起業した場合には、最大で1億円の懸賞金を支給する(マジです!)施策を始めました。ポスターに三重出身の俳優 椎名桔平さんを起用していたので、ご記憶の方も多いと思います。

 この「まるごしで来い」(つまり、1億円懸賞金をあげるから、自己資金などなくてもアイデアひとつで三重県に来ればよい、と言うくらいの意味でしょう)は、数年間続きました。
 しかし、これもそう言い切って差支えないとは思いますが、受賞者からビジネス的に大成功した起業家は生まれませんでした。そこそこ健闘している人はいるのかもしれませんが、とにかく三重県発のビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグが生まれたという噂も聞きません。

 そしてまたまた、今度の「日本再興戦略」です。
 今回は、大企業からスピンアウトしたエンジニアの企業を支援するとか(悪く言えばリストラされた技術者の救済策。これはこれで意義はあると思う。)、ベンチャーと大企業をマッチングするとか、10年前とは少しく味付けは変わっています。

 特にわしが大きく前回と違うと思うのは、今回は、都道府県よりも市町村や商工会議所、商工会の役割がより重視されているように見えることです。たとえば、産業競争力強化法による「創業支援事業計画」の認定が、市町村を対象に実施されるようになった、などの制度的な違いがあります。
 これは良い意味で市町村の切磋琢磨になりますが、悪く考えると、抜け駆け、競争のゆがみを生むおそれもあります。

 その悪い方の予感が的中するニュースが報じられています。
 新潟県の長岡市が、日本一起業しやすいまちを目指し、長岡市内で新たなビジネス需要や雇用を創出し、事業成長が見込める起業家を対象に、人件費や設備購入費などの経費の3分の2以内(上限1000万円)を補助する「未来の起業家応援事業補助金」なるものを創設するというニュースです。(毎日新聞の記事はこちら
 わしは思うのですが、これは「起業家を集めることで雇用が増えて、市外からの若者の定住が促進される。人口減少対策の決め手にしたい」と意気込んでいる市長がそう思い込んでいるだけで、実際の起業家には1千万円の補助金にはあまりニーズはないと思います。
 スタートアップ時のイニシャルコストへの補助がありがたいのは本音でしょう。けれどもビジネスは1年後、3年後、5年後という節目節目で、販路開拓、設備投資、人材確保と育成、新商品開発などの難しい課題に次々とぶつかるようになるので、資金ショートを防ぐ意味でも運転資金の融通が最も重要な課題に、言い換えると最も必要な支援策になるからです。
 長岡市当局は、起業家や実際の起業経営者の声を聞いておらず、さらに三重県のような失敗例のベンチマークもしていないように見受けられます。

 恐ろしいのは、このような軽はずみな支援策が、次々次々と全国の市町村で生まれてくることです。来年度はローカルアベノミクスとやらで、統一地方選対策のための地方へのバラマキ予算となるのはほぼ確実な情勢なので、長岡市に追随する愚かな首長が出てくる可能性は十分にあります。
 
 

4 件のコメント:

三碧星 さんのコメント...

「では、どうしろと?」

同じような論調のページが多いのですが、連帯保証人や追加融資、日本の商業的な問題は数多あれど、海外に比べてハードルが格段高いとも思えず。
 ワールドワイドな個人事業主を求めたらキリが無いわけで、むしろ食うに困らない個人商店に幅広い知識を与える機会を設けようとしても、
結局は商工会青年部のように単なる飲み会で済んでしまう例も数多く。

 コミュニケーション障害の新規事業主さんや引き際を誤る社長さんも多いことですし、新規融資が辛いのは
 安西先生「もう諦めたら?」
 という、ある意味慈悲深い引導でもあると思います。10年後に生き残っている起業家は少ないものですし・・・・

 市場のニーズから外れれば事業は無理に延命させるべきではありませんし、
この世で最もハードルの高い「起業する決断」を後押しできるなら、
他に数多ある無駄な事業にこそ矛先を向けるべきだと思うのですが。
 健全なバラマキとそうでないバラマキの定義をまずきちんとしなければ、不満を未来永劫述べていくだけに終わると思います。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 起業家に1千万円補助金を出して支援することが市の役に立つのでしょうか。もっと言えば、こんなことが市の仕事でしょうか。わしは疑問です。その一つの証左が、三重県が1億円出しても成功例1つ出ていない事実です。
 日本の起業環境やビジネス環境が厳しいのはご指摘の通りで、行政はそういった競争環境の整備を整えたほうが良いのではと思います。
 たとえば、長岡市がベンチャーにも公共調達の門戸を開く、業務の委託先に選定する、市が債務保証する、などを率先してやればアリの一穴に必ずやなるでしょう。しかし、このような政治的なイシューになることには決して取り組まないのです。補助金を撒くほうが後腐れがなくラクだからです。

三碧星 さんのコメント...

一昔前は学校給食への納入で細々と暮らしていた八百屋さんや鮮魚店があったり、
学生服やシューズの納入、教科書の納入で生き残る呉服店や書店がありました。
 流石にそれではやっていけず、飲食店に転業した事業所もあります。

 かつてのような役所や小中学校にべったりの商業形態を復活させたいのか? 新規事業主に納入させるにしても既存事業主が妨害するでしょう。公共工事が激減して土木会社が県下でもかなり減りましたが、暴力団のフロント企業のようなところも多かったですよね。もう一度、あの時代に戻りますか?

 高速道路網も広がり、インターネット環境も完備され、商工会に会員登録していないものの、細々とそれなりの収益を上げている事業主さんは多いでしょう。そしてパーソナルユーズで高速道路でドライブを楽しみ、ネット販売でほしいものを購入している消費者も増えました。私は消費者として現状に満足していますし、満足している消費者がいるなら、そこから儲かっている事業主も必ずいます。

 『LUZの熊野古道案内』のje2luzさんのように、「数百万を花火で燃やすのは止めよう!」という主張の方が、ベンチャー企業への投資を止めよう、というよりも遥かに緊急性は高いでしょう。この世は無駄なことがあまりにも多すぎる。子供の通学バスを廃止するより無駄な花火や採算の取れない観光事業をストップしよう、そういった主張の方が受け入れやすいはずですが、有権者はなかなかそこまで関心が無いようで・・・・

匿名 さんのコメント...

成果がでないんだから「撒かない」という選択肢がないのは、公務員の組織防衛本能でしょ。
やっぱり公務員は、税金の無駄遣いの主犯か共犯ですよ。