2014年7月26日土曜日

伊勢で唯一の浅沓師が廃業

浅沓(伊勢伝統工芸保存協会HPより)
 三重県ホームページによると、三重県指定伝統工芸品のうち、平成6年に指定した「浅沓(あさぐつ)」について、本年7月10日をもって指定を解除する旨が公表されました。
 解除の理由は「廃業」となっています。(リンクはこちら

 浅沓とは、写真のような漆塗りの木沓のことです。
 主に伊勢神宮の神職などが用いるもので、この写真を引用させていただいた一般財団法人伊勢伝統工芸保存協会ホームページの浅沓の解説を見ると、

・神宮の門前町として栄えた伊勢には神職の調度類の製作、補修の仕事が数多くありました。
・その一つ、浅沓は代々神官の浅沓師として仕えた伊勢市桜木町の久田家(ひさだけ)が担っており、現在は後継の西澤利一氏が伊勢でただ一人の浅沓師としてその伝統を守っています。
・西澤氏が仕上げる浅沓は気品あふれる漆黒の塗りと深みのある光沢が身上。木型に和紙を柿渋・蕨粉(わらびこ)で幾重にも張り合わせ、塗りと磨きを繰り返していきます。
・二十超の工程を経る丁寧な仕上げのため一般の漆塗りと違い刷毛痕は見られず、漆を塗り重ねるため湿気にも強く、頑丈です。
 とあって、手作業で、かつ非常にクオリティの高い仕事であったことがわかります。(リンクはこちら

 しかしながら、今年になってから廃業されたとのことで、これにより伊勢の地では浅沓の製造技術の継承が途絶えてしまうことになるようです。大変残念なことです。

 かつては日常生活に不可欠であった製品も、使用する側(消費者)の生活様式が戦後、特に高度成長期の昭和30年代後半から大きく欧風化したため、漆器や着物、履物、提灯などといった類は多くが姿を消し、このうちのごく一部が商品というよりも工芸品として細々と生き残ったことは周知のとおりです。

 四日市を中心とした萬古焼(ばんこやき)や、伊賀地域の伊賀焼といった、規模が大きく陶磁器産地を形成していた業種は、国による伝統的工芸品産業の指定を受け、産地の組織化(協同組合化)、技術伝承や新商品の開発、販路の開拓などに一定の支援を受けることができました。

 しかし、作り手が一人二人しかいない零細な工芸産業の場合は、仮に県指定の伝統工芸品になったとしても、競争力強化のための抜本的な対策はなかなか講じられることがありません。
 もちろん日永うちわや松阪木綿、伊勢春慶のように、自らイノベーションに取り組んで新商品をリリースし、新しい市場を創造している事例もなくはありません。このように、伝統的な製法や製品スタイルは尊重しつつも、デザインや用途などを外部の知恵も借りて作り直し、今の生活様式にマッチした形で製品化していくことは、伝統工芸の伝承のためには必須とも言えます。

 この点で、浅沓のように用途が極端に限られ、いわば一社(伊勢神宮)の「御用達」になっていると、新商品の開発なども後手に回らざるを得なかったのかもしれません。
 いずれにしろ、伊勢の地で育まれた、誇るべき産業が姿を消すのはさびしい気がします。

■三重県ホームページ 三重の伝統工芸品
 http://www.pref.mie.lg.jp/CHISHI/HP/dento/index.htm


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