2014年8月25日月曜日

自治体における弁護士職員の積極的活用(マニアック)

 法律時報の2014年8月号の特集は、「法曹養成改革と職域拡大の現在」という非常に興味深い内容でした。
 いわゆる法曹養成改革によって、司法試験に合格し法律の専門家(法曹)の資格を得る者が急増しています。特に弁護士数の伸びは目覚ましく、日本弁護士連合会が発行している弁護士白書(2013年版)によると、平成13年3月末現在の弁護士数は33,624人と30年前に比べ3倍も増えています。
日本弁護士連合会HPより
 わしのように三重県の地方都市に住んでおり弁護士が決して多くはない環境にいると、まだまだ弁護士が身近な存在とは思えないので、弁護士が増えるのは良いことのような気がしますし、この感想は以前このブログにも書きました。(はんわしの評論家気取り「弁護士は余っているんじゃないのか?」2011年9月25日

 法律時報では、弁護士が増えすぎる弊害を説く論者とともに、弁護士の職域の拡大についていろいろな論点から論じられており、法律関係者のみならず、地方自治体で政策法務や規制行政に従事する職員にもぜひ読んでいただきたいと思いました。

 まず、弁護士の纐纈和義氏の論稿「法曹人口抑制論(適正化)の根拠と背景」を見てみます。
 纐纈氏によると、法科大学院修了生のみに司法試験受験を認める、いわゆる法曹養成改革により弁護士が毎年2千~3千名も増えることにより、必然的に一部に質の低い弁護士を生み出している。また、弁護士の急増に比べ一般社会の弁護士へのニーズは増えないため、就職難に陥る新任弁護士も少なくない。
 弁護士の使命が「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」にある以上、専門家としての質を担保するためには一定の所得水準は必要で、いたずらに過当競争となって所得の低下を招くことは、弁護士の質を低くし、結果的に国民の幸福にはつながらない、とのことです。

 しかし、これは弁護士側からのステレオタイプ(というと失礼ですが)な意見であり、弁護士が多いと過当競争になるから合格者を減らせ、というのは既得権益を保護し、経済競争原理を軽視ないし蔑視するものと言わざるを得ません。

 これに対し、弁護士にはもっと多様な職場(職域)がある、と説く論者による意見(藤井範弘氏「司法過疎の克服 ひまわり基金法律事務所とスタッフ弁護士の活動」、山本晋平氏「国際領域における法律家の職域」など)がいくつか続きますが、詳しくは法律時報をお読みいただくとして、わしが興味深く思ったのは、兵庫県明石市長であり弁護士資格も持つ泉房穂氏の「地方自治体における弁護士職員の積極的活用」という論稿です。

 近年、県や市町村などの地方自治体でも、職員に法曹資格者(弁護士)を雇うケースが増えてきました。(最近では、松阪市が弁護士を任期付職員に任用するとのニュースが報じられました。)
 泉市長の言うように、地域主権の時代にあっては、市も国や県の言うとおりにしていればよいわけではなく、自己責任を伴う自己決定を日常業務で迫られています。しかも、行政課題はいっそう専門化、複雑化しており、法的な専門知識は必要不可欠になっています。
 そこで、明石市も平成24年度、弁護士を市職員として採用しました。しかし三重県庁でもそうですが、弁護士を雇っている自治体でも、人数は一人というケースがほとんどだと思います。

 ところが明石市が雇った弁護士は何と5名。その理由を、泉市長は「専門職は一人ではなく、複数が同じ職場にいることで能力が磨かれる」という持論で説明します。

 さらにユニークなのは、これも三重県庁がそうですが、自治体に在職する弁護士の職務の多くが組織内の法令順守(コンプライアンス)や、法的紛争の相談にとどまっているのに対して、明石市では一般市民の法律相談への対応や、市職員の法律相談対応、さらに同じく市職員として採用された臨床心理士や社会福祉士と弁護士ががタッグを組んで、いじめや児童虐待といった、家庭、地域、教育、貧困といった複数の問題が絡み合った行政課題に対して、総合的な取り組みを行っていることです。
 
 泉市長によれば、地方財政が厳しい中で、多くの地方自治体は行財政改革の一環として職員の削減や予算の縮小を行わざるを得ません。これは行政サービスの低下も招くため、明石市では弁護士のような専門職員を積極的に活用することで、「真の行政需要」に応えられる質的行政改革に取り組んでいる、とのことです。これは大変に炯眼であり、まさに地方自治体が進むべき方向性の一つの形だと思います。

 わしが思うに、わし自身が関わっている産業振興、地方経済の活性化といった行政ジャンルにおいても、予算を国から分捕ってきて、補助金や助成金でばら撒くという施策は、成熟している現代日本ではもはやほとんど効果はありません。
 そうではなく、今必要なのは経済活動の主体である企業や組織が、自由に活動できること、それと同時に自己責任を適正に負うこと、それらが担保される健全な経済競争環境を作り、維持することです。
 それには、私的独占の禁止、税法、会計法といった、競争環境の確保のための法知識が必須であり、ともすると企業誘致(工場誘致)や中小企業・商店街の保護育成に中心が置かれてきたスキームは、見直しが求められます。
 あくまで一例ですが、産業振興分野にも弁護士資格を持つ自治体職員は活躍の場があるはずで、冒頭の論のようにもし仮に弁護士が「余っている」のであれば、普通の給料でいいので、専門知識が活かせるような職種を地方自治体もどんどん募集していくべきだと思います。

■明石市における専門職を活用した取り組み  ~発信編 ~(PDF

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