2014年8月28日木曜日

死神型補助金政策は可能か

 一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスのエリア・イノベーション・レビュー・ダイジェスト Vol.105 – Vol.107(2014年7月上旬配信分)に、この「はんわしの評論家気取り」の内容を取り上 げていただきました。大変光栄なことと思っております。
 木下さんのコメントで2つ感心したことがあって、一つはこのAIRに取り上げていただいたために、わしのブログのアクセス数が急増したことです。やはり一流の方の発信力は大きいなあと改めて認識しました。
 もう一つは、わしのように氏素性を詳らかにしないで発信している胡散臭いブログでも、見る人が見ると内容をわかっていただけるのだなあということです。
 つまり、書いている人の肩書とかでなく ~口幅ったいようではありますが~ 中身をきちんと見て評価していただけるのです。ありがたいことです。(AIRダイジェストへのリンクはこちら

 しかし残念なことに、木下さんは「ただこのブログの締めが僕としては納得いかないですね。」とコメントされています。
 木下さんによれば「筋のいい案件や頑張っている企業に行政が金を出せば出すほどに、その案件は筋が悪くなり、企業は競争力を落とします。(中略) お金での支援なんてろくなことにならないのです。将来があったのに、その芽をつむようなことになります。」とのことで、「だから潰れてもいい、どうでもいい企業にこそ補助金を出すようにすればよいかなと思います」と、死神型補助金政策なるものを提唱されます。

 これ自体について良いとも悪いとも言えません。ただわしが確信できるのは、もし地方公務員がこの死神型補助金を職場で主張すれば、まちがいなく「左遷」されるだろうということです。なので怖くてわしは言えません。
 木下さんのコメントを読んで、いささかわしのブログに説明下手な点もあったと思うので、念のために補足しておきます。(あくまでわし自身の備忘録的なメモですので、関心がある方以外は無視してください。)

 せめて筋の良い案件、頑張っている前向きな企業に補助金が行くようにと小さな努力と書いたことに、行政が企業に金を出すとろくなことにならない、とコメントされていますが、これは見解の相違かと思います。
 行政の補助金制度は大変に多種多様なので複雑で、制度全部を理解している人はほとんどいないと思いますが、わしの扱った新商品開発や販路開拓、人材育成といった補助金を活用したことで、企業が競争力を強化でき、業績拡大の一助となった事例は決して少なくありません。これについては以前もこのブログに書いたので、こちらを参照してください。

 問題なのは、その成功体験によって、この「補助金依存の悪循環」の図にもあるように、行政の側も企業の側も、補助金中毒になってしまうことがあることです。(これもまた、決して少なくはありません。)
 余談ですが、かつて、総務省だったか経産省だったか、地域産業活性化の「カリスマ」やら地域おこしの「達人」やらを全国で何百人だか選び、自治体や企業のベンチマークを推奨していたことがありました。
 しかし、メンツを見ると、中には単なる「省庁ロビイングのカリスマ」や「補助金ぶん取りの達人」も(私の見るところ)多く含まれていました。そのカリスマや達人による活性化や再生事例は、今も続いているところもあるし、補助金費消と共に企業も一巻の終わりとなったところもたくさんあるようです。これがまさに、悪循環の実例です。

 その一方で問題となるのは、木下さんの説とは全く逆に、「まだまだ行政の支援は少ない。補助金はもっと徹底的に撒け」という意見 ~特に地方議員や中小企業の経営者の意見~ が少なくないということです。
 彼らの主張は、行政の補助金は「起業・創業だけ」「商品開発だけ」「産学連携だけ」「販路開拓だけ」「製造業者だけ」「商店街の小売業者だけ」「ベンチャーだけ」というふうに細分化されているので、企業が事業を一貫して進められない。なので、全部の用途に使えるような使い勝手の良い大型補助金制度を創設するか、各ステージにスムーズに移行できるような補助金マップを作るべき、というものです。
 この発想には「補助金依存」というような考えは露ほどもありません。しかし何度も言いますが、このような考え方は地方ではかなり有力で、相当強力な政治的圧力となります。

 さらに別の有力な意見は、行政の補助金は「選択と集中が不足している」という意見です。この意見を言うのは大学教授といった現場を知らぬ有識者が多いことが特徴でしょうか。
 選択と集中というのは、たとえば製造業の研究開発補助金なら、どんな開発テーマでもよいのでなく、国が成長戦略で定める成長分野(たとえば、医療・福祉、航空宇宙、環境・エネルギーなど)に限定(=ターゲティング)すべきだ、というものです。

 これに対してはいくらでも実証的な反論が可能です。
 ターゲティング型の、つまり行政がこれから成長するであろう産業戦略を予測し、それに資源を投入することでイノベーションが生まれた例は現実問題としてほとんどないからです。ターゲティング型商工政策が成功するのなら、社会主義国はもっと発展していたはずです。
 
 さらに地方自治体職員から言えば、現場では選択と集中など不可能です。米作が不振でもコメ農家には莫大な支援が営々と続けられました。それが地域にとって重要な産業だからです。
 陶磁器産業が斜陽だからニューセラミックに転換せよ、と言って、皿や茶わんや花器しか作ったことがない小さな製陶業者を切り捨てることなど地方自治体には絶対にできません。地場産業最後のセーフティネットたる自治体にとって、地域住民でもある中小企業の「選択」など不可能なのです。

 冒頭の木下さんの死神型補助金に戻れば、このようなケースにはきっと有用でしょう。つまり、経営不振や経営者が高齢化した中小企業の廃業をスムーズにするために、負債の整理や資産の売却、同業者への顧客の引継ぎなど、時間も金もかかる廃業準備のために補助金を出すのです。
 高齢化した経営者の多くは、債務超過に陥る前に廃業したいと考えていますから、今後この分野で死神型補助金を出したら、企業の新陳代謝は進むかもしれません。

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