2014年8月3日日曜日

皇學館大学が日経新聞に全面広告

 今朝の日本経済新聞を読んでいてビックリしました。
 文部科学省が公募していた「地(知)の拠点整備事業」に、皇學館大学が採択されたという内容の全面広告が載っていたからです。(名古屋支社発行版だけかもしれませんが。)

 この広告によれば、平成26年度のこの事業には文科省に対して全国の大学・短大・高専から237件の申請があり、採択されたのはわずか25件でした。
 10倍近くもの狭き門を突破したわけですから、(もし全国版なら)2千万円かかるという日経への全面広告掲載も、度を越したはしゃぎぶりとは言えなくもないのかもしれません。

 では、皇學館大学の採択テーマである「伊勢志摩定住自立圏共生学」教育プログラムによる地域人材育成とは、いったいどのような内容の事業なのでしょうか。
 そもそも、あまり聞きなれない「地(知)の拠点整備事業」とは一体どんなものなのでしょうか?

 まず、地(知)の拠点整備事業について、文科省のホームページを見てみます。
 文科省に限らず、国や地方自治体が行う事業にはにぎにぎしい「大義名分」が掲げられているのが定番です。ホームページによると、日本は急激な少子高齢化やボーダーレス化に晒されており、このような中で我が国の発展や国際競争力の強化していくには「日本全国の様々な地域発の特色ある取組を進化・発展させ、地域発の社会イノベーションや産業イノベーションを創出していくこと」が必要だとのことです。

 そこで、大学などが、都道府県や市町村など地方自治体を中心に地域社会と連携し、全学的に地域を志向した教育・研究・社会貢献を進める「地域のための大学」として全学的な教育カリキュラム・教育組織の改革を行いながら、
①地域の課題(ニーズ)と大学の資源(シーズ)の効果的なマッチングによる地域の課題解決
②さらに自治体を中心に地域社会と大学が協働して課題を共有し、それを踏まえた地域振興策の立案・実施まで視野に入れた取組
を進めるというのが、地(知)の拠点整備事業というものだそうです。
 この事業の狙いとしてもう一つ、「これにより、③大学での学びを通して地域の課題等の認識を深め、解決に向けて主体的に行動できる人材を育成するとともに、④大学のガバナンス改革や各大学の強みを活かした大学の機能別分化を推進し、地域再生・活性化の拠点となる大学を形成する。」というものもあることには留意が必要です。つまりこれは、東大や京大のような研究型の大学というより、教育中心型の地方大学を念頭に置いた制度と言えそうです。
(なお、この地(知)の拠点整備事業は平成25年度に創設され、昨年度は全国から319件の申請があり52件が採択されています。)

 では、具体的に大学は何をやるかというと、「自治体と連携し、全学的に地域を志向した教育・研究・社会貢献を行う事業」を行うことが求められます。例として
・教育 地域に関する学習、地域が求める人材を育成 等
・研究 地域課題解決の研究実施、研究成果還元、技術指導 等
・社会貢献 子供の学び支援、高齢者・社会人学び直し、商店街活性化 等
 が挙げられています。

 こんなの、もう地方大学はとっくに取り組んでいるではないかと思われるでしょうが、くどいようですが大義名分、すなわち「自治体と連携している」「全学的に取り組んでいる」ことが求められているのがミソです。一教員、一研究室が自治体の特定の部署や職員と結びついているのではなく、自治体のお墨付きをもらい、いわば「学是」として取り組むことが必要なのです。
 めでたく採択された大学には、最大5年間、年間5300万円が補助金として交付されます。ただし、年度ごとに事業進捗が評価され5年間の途中でも打ち切られたり、補助金が減額されることもあり得るとのことです。(平成26年度「地(知)の拠点整備事業」公募要領より。リンクはこちら。)

 それでは、皇學館大学はどのような申請内容で採択を受けたのでしょうか。
 同大学のホームページによれば、「伊勢志摩定住自立圏共生学」教育プログラムによる地域人材育成なる事業は、
・伊勢市、鳥羽市、志摩市、玉城町、度会町、大紀町、南伊勢町及び明和町の3市5町と連携し、これらの市町が参画して今年6月に策定された「伊勢志摩定住自立圏共生ビジョン」踏まえて、圏域の歴史文化観光資源、自然環境定住資源、地域経済・産業等を活かした総合学修プログラム「伊勢志摩定住自立圏共生学」(4科目)を開発する。
・学部の学生が主体的に地域資源や圏域の現況と課題を学び、その中で圏域内自治体職員や職業人と協働して、新事業創出(6次産業化)の方法等について学修できる新たな教育課程の構築を目指す。
・また、現在、同学の1年次全学必修である「伊勢学」なる科目を改め、圏域の資源や課題を学ぶ「伊勢志摩共生学」(2単位)に拡充も行う。
・さらに「地域課題学修支援室」を整備し、圏域をフィールドにした実習科目(1単位)の新設実施、および、各学科専門科目と圏域の課題解決学修の総合化を図る「プロジェクト研究Ⅰ・Ⅱ」(4単位×2/3・4年次)を開設する計画である。
 とのことで、今年度から平成30年度までの5年間実施する予定です。

 ここで出てきた「伊勢志摩定住自立圏共生ビジョン」というのがまたややこしい感じです。
 これは、総務省が創設した「定住自立圏構想」という施策に則って、希望する市町村が策定したものです。
 日本はこれから人口の減少が進み、今までのように山野を野放図に開発して市街地を拡散させることは財政的にも持続が困難です。道路や水道、ガス、電気、病院、福祉施設などを効率よく配置するには、これらのインフラを複数の市町村単位で共有するとともに、一定の区域に立地を集中させていく「コンパクトシティ化」が避けられません。
 そこで、人口5万人以上の地域の中心となる「中心市」を定め、まわりの連携市町村とが相互に役割分担し、連携・協力することにより、圏域全体で必要な生活機能を確保し、地方圏への人口定住を促進することを目的としているもので、伊勢志摩定住自立圏共生ビジョンは上記の3市5町により策定されています。(伊勢市ホームページ 定住自立圏構想 を参照してください。)

 わしは、このコンパクトシティの考え方自体は理解できますし、将来の国力を考えれば、この流れは不可避だと思います。各自治体が生き残り競争をやって全員が貧しくなるよりも、中心市と周辺市町を区別して都市機能は中心市に再編していくのは、良い悪いの価値判断は別として、地域生き残りのためのトリアージとして、これしか方法はないと言い切れるでしょう。

 しかし問題なのは、このように広域市町村でインフラを共有するという考え方は以前にも広域市町村圏のような制度があったし、今回「朽ちるインフラ」が注目されコンパクトシティが霞が関でブームとなると、国土交通省でも、経済産業省でも独自で同じような制度を作り、二重三重の重複行政となり機能不全に陥る予感が現場に蔓延していることです。

 その意味で、大学が参画する定住自立圏構想は、いわゆる「お国自慢」的なご当地学が求められている場ではありません。過疎化高齢化が確実で、生産性の高い産業も少ない伊勢志摩地域で、今後の道路や港湾などのインフラ整備、介護福祉サービスの展開、急性期・慢性期医療の分担、迷惑施設の分担などなど、切れば血が出るような生々しい、地域利害が激突する修羅場です。
 本当にこの中まで踏み込めるのか、そして大学ならではの学問と知恵で、こういった課題を解決できるのかが注目されます。


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