2014年9月10日水曜日

世界の基幹工場と地域経済

 半導体製造の世界的大手である東芝とサンディスクが、NAND型(なんどがた)フラッシュメモリの生産を行うため拡張工事に取り組んでいた東芝四日市工場第5製造棟が竣工したことを各紙が報じています。
 工事費用は300億円。この棟では回路の配線幅が15nm(ナノミリ。100万分の15mmに相当)という世界最小のフラッシュメモリが製造されます。

 NAND型フラッシュメモリはスマートフォンやタブレット端末の普及により世界的に需要が増加しており、今後はスマホの高性能化などに伴って、さらなる容量の増加が必須となることは間違いないため、新たに「3次元NANDフラッシュメモリ」を生産するため、平成28年の竣工に向けた新工場(新第2製造棟)も建設が着工されました。
 今後数年間、東芝・サンディスク連合は年間2000億円規模の設備投資を行う予定で、その大部分は四日市工場に投資される見込みとのことです。

 薄型テレビやスマートフォンが壊滅した日本の電子産業において、NAND型フラッシュメモリはほぼ唯一、強い国際競争力がある分野です。東芝・サンディスク連合の世界シェアは韓国のサムスン電子に次いで第二位とのこと。このような先端分野の工場が三重県に立地していることは、県民として素直に嬉しく、誇らしく思います。

 ただ、半導体工場は究極のクリーンさが要求されるため一般人が工場内に立ち入ることはほぼできません。新工場棟の完成を報じる各紙も工場内の様子は詳報していません。
 そんな中、時々このブログにも引用しているGIGAZINEが、竣工式や工場内の様子を伝えているのでご紹介しておきます。

■GIGAZINE  東芝とSanDiskによる最新フラッシュメモリ工場「東芝四日市工場」の竣工・起工式を見学してきました(2014年09月09日)

  クリーンルーム内の写真は、既出の資料の転載のようですが、防塵ウエアとマスク、ゴーグルで完全武装した従業員の様子などは興味深いものです。まるで宇宙船内のような、光も温度も一定で、ひょっとすると音もあまりしない世界なのでしょうか。そんな想像も膨らみます。

 もう一つ、GIGAZINEの中で面白かったのは、竣工式の後で開かれた、東芝の田中久雄社長、サンディスクのサンジェイ・メロートラCEO、東芝 セミコンダクター&ストレージ社社長の成毛康雄氏の記者会見が伝えられていることです。
 日本のマスコミ、特に地方紙では「東芝四日市工場」と紹介されますが、実際には巨額の投資によって作り上げられたこの工場の心臓部は、東芝とアメリカ企業のサンディスクの共同出資によるのであり、ここは完全な多国籍企業であること、つまり「もはや日本ではない」ことが垣間見える気がします。

 それは、記者会見の次のような受け答えからも明らかです。

問)NHK ノグチ
 円安の影響はいかがでしょうか?6年ぶり106円台をマークしたわけですが、経営への影響は?また、四日市では新たな雇用があまり生まれないとのことですが、どのようにして対応しているのでしょうか。
答)東芝 田中社長
 東芝グループ全体ではプラス方向のインパクトがあります。(以下、略)
 新工場のクリーンルームの中はコンピューターの自動制御で生産が行われ、人間のオペレーターは少ない状況です。現場の人間はコンピューターを使って生産計画を立て、機材のメンテナンスを行います。工場での働き方が変わってきており、弊社では現場の自動化を推進しています。今の四日市工場では50%が製造の分野、残りは技術・開発となっており、さらに製造の半分は技術職です。昔の工場とは違う流れになっておりますが、今後もその方向で考えています。

 かつて、生産工場の従業員の大部分は実際の作業者、つまり技能者(オペレーター)でした。工業高校卒で入社し、現場のOJTによって高い技能を身に付けていくキャリア形成でした。
 しかし、技能者の仕事は現場の自動化によって1/4にまで構成比が下がっているのです。多数を占めるのは工業系の大学院卒や学卒、高専卒の高度な技術を持つ技術者(エンジニア)であり、田中社長の表現を借りれば、この「昔の工場とは違う流れ」は今後も続かざるを得ないのです。

 多国籍企業のグローバル競争は激烈で、世界の製造業のこの流れを止めることはできません。大企業の工場が立地していても、雇用という点では地域への恩恵は限られたものになるのです。今後、地域にはここで働こうとする若者への教育(能力開発)の充実と高学歴化が求められ、さらには世界的に高度な技術を持つグローバル人材から、「ここで(この例なら四日市で)働きたい」と思われるような選ばれる地域になることが求められるでしょう。

 このどちらも、厳しい話です。
 高度成長以来続いてきた、工場誘致=雇用確保=地域振興という神話は、今や完全に終焉したと見るべきでしょう。

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