2014年9月14日日曜日

おわせマハタに見る、地域産品展開のむずかしさ

 たいへんな美味であるものの、そもそも漁獲量が少なく高価なことから「幻の高級魚」と呼ばれているマハタ。
 このマハタを人工養殖するため、マハタの成魚から精子と卵子を採取して、受精、孵化させ、稚魚(種苗)にまで育てる技術の研究開発に打ち込んだとして、三重県水産研究所の土橋靖史さんが、今年3月に日本水産増殖学会の奨励賞を受賞したとの記事が朝日新聞に掲載されていました。
 この記事によれば、養殖用マハタの稚魚は、尾鷲市にある三重県尾鷲栽培漁業センターで種苗生産され、県内の尾鷲市、熊野市、紀北町、南伊勢町の漁業者に販売されています。
 県水産研究所のまとめでは、平成21年が7万匹だったのに対して、平成25年は13万4千匹と倍近くに増加しています。三重県は平成21年から養殖マハタ出荷数で全国一となっており、同年で2位以下の香川県(4万4千匹)、長崎県(2万9千匹)、愛媛県(2万2千匹)、大分県(2万1千匹)を大きく引き離しています。(朝日新聞デジタル 養殖マハタの量産技術 学会、研究者を表彰 9月13日付け リンクはこちら
 三重県立の研究機関が地域産業の大きく貢献している非常に良い事例であり、今後、マハタの養殖をどう拡充し、市場の開拓と、高い価格をいかに維持していくかという流通戦略も重要になってきます。


 マハタの養殖に関して、県内で熱心に推進しているのは尾鷲地域で、三重県尾鷲農林水産事務所では尾鷲産の養殖マハタを尾鷲の代表水産物とするため、漁協、養殖組合、観光物産協会、海産物商業組合等からなる「おわせマハタ協議会」を設立しています。
 ブランド化のため出荷時におわせマハタのタグを付けているほか、飲食店などからおわせマハタ登録取扱店を募集し、認定した取扱店に対してPR支援などを行っています。(尾鷲農林水産事務所の関連資料ダウンロードはこちらから)

 一方、新たに水産業に参入した企業もマハタの養殖を行っていることは、以前このブログにも書きました。(はんわしの評論家気取り 「企業に漁業ができるわけがない?」2014年4月20日
 この、エフティアクアLLPは、伊勢神宮へ奉納するなど独自のPRに取り組んでおり、いずれにしても尾鷲地域のマハタのブランド力が徐々に広まりつつあるのは事実のようです。

 ただ、伊勢えびとかアワビ、さざえといった、三重県を、なかんずく「伊勢志摩」という地域を代表するようなネームバリューのある海産物かというと、残念ながらそれほどの知名度はありません。
 尾鷲をはじめとする三重県東紀州地域は水産資源が豊富で、季節に応じて多種多様な魚介類が獲れ、食卓に並びます。このため、相対的にマハタだけが珍重されているわけではないような気がします。要するに、尾鷲では美味いのはマハタだけではなく、他の魚もすべて美味いので、地元では特段の優位性がないのです。
 地域外の一般消費者の側も、まだまだマハタになじみがなく、グルメ、食通の世界から一般大衆に降りてこない食材です。マハタの成魚は1m近くもあり、しかも顔がデカく胴体にも縞模様があって、一般家庭で調理するにはビジュアル的にもハードルが高いので、一般家庭の普段の献立に登ることも考えられません。
 やはり、専門の料理人が調理する市場、つまり高級飲食店や宿泊施設などに売り込んでいくしかありません。

 難しいのは、まさにここの部分です。
 マハタを売り込みたいのはやまやまですが、今は全国の産地間競争が激しく、各地の特産品が(それも高級路線で市場開拓したいと狙っている産品が)目白押しであり、東京など大消費地に立地する飲食店の料理人にブランドや料理法が認知されないと、まったく販路が開けないからです。

 マハタを養殖する技術は、土橋さんのような研究者の努力によって徐々に確立してきており、生産サイド(供給サイド)の問題は解決されつつあります。(もちろん、細かいところでは課題は山積しているのでしょうし、それらがすべてクリアーされることはないのでしょうが。)
 問題は、販路の開拓に移っています。
 そこでの方法や、アイデア、ひいては戦略が何かあるのか、と考えると、現状、少々厳しい点があるように思います。これはマハタに限らず、そして尾鷲など東紀州地域に限らず、地元産品を世に広めていこうとする地域にとって、共通の ~そして、ブレークスルーが実に困難な~ 最大の問題であるように感じます。
 

1 件のコメント:

まろ さんのコメント...

ハマチ、タイと続いてきた県南部の養殖業に高価格帯を維持できる魚種の養殖技術が確立されたのは素晴らしいことです。
おっしゃるように、日常の天然魚が美味しい地域柄、天然と遜色ないといわれる魚種であっても、地元では積極的に利用されにくい状況でもあります。それは、ごくわずかな差であっても香りの点などの風味や、価格について(タイも同じですが)天然と養殖の隔たりがあまりないこともあります。
ご存じ、紀北地域でタイの加工業者がわずか1軒(フィレなどの簡易な加工を除く)であり、マハタについてはまだ確認していません。協議会が立ち上がったころに比べると、売り込みもトーンダウンしているように思います。
食のまち?で市の再生をかけている尾鷲市では、都市部の高級店に売り込めるアイテムの一つですが、そのあたりの動きもいまいち見えてこないのが現状です。