2014年10月14日火曜日

地域特産品は地元住民に愛されるべきか

 先日の中日新聞朝刊に “外貨”脱し地元を狙え という興味深い記事が載っていました。(10月12日付け 三重版)

 三重県熊野市が、平成16年から約5400万円もの予算を投じて地域特産品として栽培や加工品の開発を進めていた高機能かんきつである「新姫」(にいひめ)について取り上げていたものです。

 新姫のことはこのブログでもたびたび取り上げてきました。
 熊野市内で偶然発見された新種のかんきつで、ヘスペリジンなど抗アレルギー性を持つといわれる物質を多く含む、いわゆる香酸かんきつの一種です。
 果実はピンポン玉よりも一回り小さいくらいの可愛らしいもので、青いまま収穫して、スダチのように果汁を絞って使います。香りは非常に良いため、料理に調味料として使うほか、ジュースで飲用したり、キャンディーやアイスクリームなど加工食品の原料にも使われています。
 熊野市固有の品種であり、栽培は市内の農家に限定して行われ、まさに熊野市の「ご当地産品」として、魅力的なストーリーを持っています。消費者の関心が「モノ」よりも「モノガタリ」に移って久しい今日、地域の特産品を大都市部に売り込むには、まさこのようなストーリー=モノガタリは非常に重要です。
 新姫の生産量は現在35トンまで拡大し、まさに順風満帆なサクセスストーリーとなるはずでした。


 しかし、この記事も書くように、新姫はポン酢、サイダー、ドレッシング、ジュース、などさまざまな商品が開発され、生果も一部の高級スーパーなどで販売されるなど、関係者の努力が結実しつつあるものの、これといったヒット商品が生まれていません。
 新姫のビジネスモデルに先行するものとして、和歌山県上北山村で栽培され、ある種のアレルギー症状に効果があるという噂が立って爆発的に大ヒットしたかんきつ「じゃばら」や、沖縄県で官民挙げた特産品化が進められ、今や全国区となったかんきつ「シークワーサー」などがあります。
 これらと新姫の違いは、記事の中で熊野市ふるさと振興公社の職員も語るように、消費者への認知がまだまだということに尽きます。つまり、知名度が低いのです。
 しかし、知名度を上げるには、消費者に訴えかけるポイントが強くないと響かないのは当然のことです。さきほど、新姫は熊野市生まれ、熊野市限定生産というストーリーがあると書きましたが、実はこれは ~厳しい言い方ではありますが~ 地域産品にとっての必要条件に過ぎません。ヒットの十分条件ではないのです。
 全国の産地間競争、特産品開発競争は熾烈、苛烈で、少々の個性など吹き飛んでしまします。ここで勝ち残れる訴求ポイントを磨き出さないと、せっかくの高機能性かんきつの看板も、全国似たり寄ったりの品々の中で埋もれてしまい、忘れられてしまうでしょう。

 記事の中では、熊野市役所の担当者が「(これまで新姫は)健康志向と高級志向の商品として“外貨”(はんわし注:熊野市外の消費者による購入)を稼ごうとしてきたが、地域の人に愛されなくては成功しない」と話していることも取り上げられています。
 年間売り上げが(おそらく)数千万円台に乗ってきた、まさに今のこのタイミングが、「地域特産品は地元住民にも愛されるべき」という一種の定説と言うか、ジレンマと言うか、状況にはまってしまうタイミングなのでしょう。

 わしが知る範囲、結論から言えば、地域特産品は地元に愛されることが望ましいけれども、その頃がヒットの決定打にはならない、ということではないかと思います。
 もちろん、これは私見なので、読者の異論反論をお聞きしたい点でもあります。

 たとえば、志摩地域特産の真珠。これは海の宝石で、高級品はとてつもない値段です。地元の女性が皆、高級真珠で着飾っているかと言うと、そんなことはありません。
 ほかにも、志摩、鳥羽の伊勢えび、あわびとか、松阪の松阪牛とか、いわゆる高級品に関しては、 ~産地であるがゆえに品質の高いものからそれなりのものまでラインナップが広く、あるレベル以下なら安価なことも事実ではありますが~ 地元住民との接点はほとんどないと言えると思います。

 もちろん、これは高級品の例なので、もっと安価で庶民的な新姫と同じにはなりません。しかし根っこは同じで、全国ヒットを狙うために地元にも普及させようというのは、いささか順序が逆なのではないかと思います。

 これは、工場誘致による地域産業振興と同じと考えればいいでしょう。瀬戸や美濃は陶磁器産業が盛んですが、これは陶土や焼成用の薪がこの地でしか入手できなかったからです。多くの地場産業と言われる産業は、このような地域性ゆえに成立した経緯があります。
 一方、戦後盛んになった工場誘致は、今まで何の縁もなかった地に、オートバイ工場だの、弱電部品工場などを持って来て、地域とは木に竹を継いだような関係のまま一大地域産業に発展します。これは生粋の地場産業とは異質ですが、現代ではもはや人材にも、生産技術にも、原材料にも地域性は関係なく、したがって現代風の標準化した生活様式で暮らす以上、産業に地域性はほとんど関係ないのです。

 すでに地域の産業がこのような状態の21世紀に商品化が本格化した新姫は、この流れと逆のことを地域で広めようという訳ですから相当な困難が予想されます。ここで熊野市民を説得できる材料は、熊野市生まれ、熊野市限定生産というストーリーではなく、おそらく、これを食べると血圧が下がるとか、花粉症にならない、といった類でのストーリーであり、それを実証する科学的な根拠です。
 この部分のブレークスルーがないと、新姫の地域産品としての大ブレークも、まだしばらく時間はかかるのではないかと思います。

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

熊野には自分が良いと思ったものを商品として提供してお客に喜んでもらおうとの思いを持った人が多いように思います。
熊野市民が新姫は良いものだと思わないと生産量は増えず、流通量が少ないから知名度も上がらないと言うことではないでしょうか?

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 コメントありがとうございます。
 わしもよくわからないのですが、実際のところ、熊野市民の「新姫」への関心はどれほどなのでしょうね。観光とか地域おこしに関わっている方には十分浸透しているし、地域特産品としてのモノガタリ性の強さも認知されているのは間違いないですが、一般市民の方は?
 これとよく似た話なのが、尾鷲市の海洋深層水です。特産品開発(ひものとか)に深層水を使うことは産業関係者には浸透していますが、尾鷲市民の認知とか支持とかはまた別問題と言えそうです。

匿名 さんのコメント...

「新姫がどんなものかは知っているけれど、どこで買えるの?」と言う感じですかね。
ジャバラ飴はコンビニで売っているのですが新姫サイダーは売っていなかったような。