2014年10月28日火曜日

記者の命令を聞かないと、イジめられる

 この前、実家が購読している毎日新聞を読んでいたら、プレスルーム:「丸投げ」モデル事業? という記事が載っていました。しかし、これが実に不可思議、わしにとって理解不能な記事だったので世に問いたいと思います。
 ネット版の毎日JPにもあるので、原文はこちらをお読みいただきたいのですが、要するに
1)生活困窮者を支援する国(政府)のモデル事業を、伊勢市役所がNPOに委託した。
2)毎日新聞の記者が、市役所の課長に事業内容を質問すると、「把握していない。NPOに聞いてほしい。」という回答。
3)記者が「後でいいから調べて回答してほしい」と求めても、メモすら取らず、返事もない。
4)生活困窮者の自立支援は伊勢市の重点事業なのに、担当窓口がまるで人ごと扱いである。市にとっては「丸投げ」モデル事業ということのようだった。
 と、市役所を批判しています。

 しかし、少なくともわしの常識では、この批判はまったく的外れです。この記者は、毎日新聞社という権力をバックに、小役人と見下している市役所職員にさも当然のように居丈高に要求したところが、逆にピシャリと跳ねのけられたので、よほど驚き、逆上したのでしょう。少なくとも健全な常識を持つ社会人であるのか、わしは疑わしく思わざるを得ません。

 まず、事業を「委託」していることの意味は何でしょうか。
 委託とは、文字どおり、本来は自分がやるべき作業や事務を、他人にゆだね、託すことです。つまり、委託をした時点で、作業や事務を完了させる責任はそれを受託した人(この場合はNPO)に移ります。
 極端な話、市は委託料としておカネを払っているのですから、あとは受託したほうできちんと仕事をやり通すのが当然のことです。何らかの事情で市はその事業をすることができないので、実務に精通しているNPOに委ねたほうが、効率的に仕事が進むと考えて、委託するわけです。

 たとえば、あなたが工務店に家の建築を委託したとする。(法律上は、建築を他人に任せるのは「委託契約」でなく「請負契約」ですが、この話の本質ではないので無視します。)
 建築確認の申請をちゃんとしているのか、壁や建材にはどんな素材を使っているのか、水回りの作業はいつごろに完成しそうか、といったような細かい(実務的な)話を、施主のあなたがいちいち知っている必要はありません。そのためにおカネを払ってプロの工務店や大工さんに頼んだのです。
 もちろん、設計に不備があって塀が隣家に倒れてきそうだ、というようなときに施主が知らん顔はできませんが、その場合も原因を探り、対策を取るのは一義的には受託した(請け負った)工務店です。それが「契約」という約束だからです。
 この記事のような場合、仕事の内容の細かいことのいちいちは、受託したNPOが詳しいに決まっているのですから、「そっちで聞いてくれ」と答えた市の課長の対応はまったくもって正当です。

 しかし記者は食い下がります。資料を後からくれ、と言うのです。
 地方自治体に勤めている公務員は、多かれ少なかれ、このような嫌な体験をしているはずです。自分は記者という、真実を世間に伝える崇高な職業だから、役所が記者の命じるままに資料を作り、提供するのは当然であるという特権意識です。
 新聞社とて営利事業の金儲けですが、そんな口ごたえをしたら、巨大なペンの権力を持つ新聞記者、後でどんな陰湿な「意趣返し」をされるかわかりません。本当なら市民住民のために仕事をしたいと願っているのに、新聞記者のために時間を割き、資料作りに追われることは役所にとって珍しいことではありません。こんなこと、本当に税金でやらなくてはいけない仕事なのでしょうか。

 従って、記事の結論の(4)もまったくナンセンスです。
 要するに、新聞記者は無理な要求(時には恫喝)に立場上従わざるを得ない公務員には強気ですが、一般市民に近く、マスコミなど意に介していないNPOには取材する勇気がないのです。おそらく自立支援の専門家であるNPOから話を聞き出すだけの専門知識も取材術も持ち合わせていないでしょう。
 なので、自分が取材をサボろうと市役所に資料を要求したが出てこないので、やれ人ごとじゃ、丸投げじゃだと、公器である(はずの)紙面で意趣返ししているのです。

 もちろん、公務員であれば取材に誠実に対応するのは当然のことです。しかし、それがアホらしくなるくらい「残念」なレベルの記者が実在するのも事実です。
 なぜ自分で取材しないのでしょうか。現場に食らいついて、夜討ち朝駆けで真実を探り当て、書く。それが記者の本来の仕事ではないでしょうか。
 それに今はインターネット社会です。なぜ自分で直接、統計を調べ、資料を読み込み、それをもとに多くの人から話を聞いて、記事にしないのでしょうか。

 先日、このブログで 田村秀新潟大教授の著書「改革派首長は何を改革したのか」を取り上げました。(リンクはこちら
 その本の中で田村先生は、地方のメディア、マスコミの弱体化がポーズだけの地方制度改革を跋扈させる一因だと主張していましたが、まさにその良い例が(悪い例というべきか)、この毎日新聞のチンプンカンプンな記事でしょう。
 

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

たたでさえ迷惑なのに、夜討ち朝駆けされたらたまりません

縞 さんのコメント...

このように地方支局駐在の記者が行政機関の対応が悪いと書いているタレコミ記事は時々地方版のコラムに乗ります。どことなく違和感はありましたが、はんわし様の意趣返しという表現が大変にしっくりきました。記者は自分の影響力を自覚してほしいですね。ただし某紙役所のこのケースはどっちもどっちだと思いますけれど

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 コメントありがとうございます。
 記者クラブというのは先進国では日本だけの制度だそうです。記事の基となる資料の提供のほかに、記者が仕事をするスペースも提供されているなど丸抱えです。
 他の国ではそのへんどうなのでしょうね。やはり一定の緊張関係にあると思うのですが、そういった関係性にあって市役所が情報を出さないと書くのなら理解できるのです。毎日新聞にはそのようなものはないではないですか。