2014年10月29日水曜日

観光地化しないのがいい、奈良・今井町

 先日、奈良県橿原市にある、今井町(いまいちょう)に行ってきました。
 今井町は至徳3年(1386年)の興福寺の記録にはその名が見えるという非常に古い町で、戦国時代の天文年間(16世紀中ごろ)には一向宗の門徒たちによって周囲に濠をめぐらせ、武装した寺内町(じないちょう)という都市構造となりました。
 江戸時代になると商都として繁栄し、「大和(今の奈良県)の金は今井に七分」と言われたほどに豪商が集積していたそうです。
 今も、江戸時代のたたずまいが色濃く残っており、平成5年には重要伝統的建造物群保存地域に選定されました。

 今井町散策のスタートは、最寄駅である近鉄京都線の八木西口駅です。


 駅の西出口から、歩いてすぐに飛鳥川が流れており、橋を渡るとそこから今井町の町並みが始まります。


 寺内町を示す看板です。江戸時代には周囲に濠をめぐらせ、9カ所ほどの門からしか町内に入ることができませんでした。


 町並みはこんな感じです。
 ありきたりな表現ですが、まるでタイムスリップしたような錯覚に襲われます。


 もし電柱と電線がなく、道路も未舗装であれば、町の光景は数百年前とほとんど変わっていないでしょう。

  整然と続く家並の中に、かつての豪商たちのひときわ大きな家屋が交じって建っています。


 白壁が印象的な中橋家住宅は重要文化財です。幕末まで代々、米や肥料を商っていたとのこと。「つし二階」という天井の低い二階部分は19世紀になって改築されたもので、町家建築が平屋建てから二階建てに移行する過程が知られる貴重な民家です。

 これは、今井町の中心とも言える称念寺です。真宗本願寺派の拠点で、町並みはこのお寺を中心に形成されています。
 残念ながら本堂(写真の右側)は工事中で、拝観することはできませんでした。 


 これは見事な破風屋根を持つ豊田家住宅。やはり重要文化財です。
 豊田家は材木商で、壁に「木」という字の意匠が描かれています。福井藩の御用商人でもあったそうで、1階の壁面には馬をつないだという「駒つなぎ」の金具が残っています。

 今井町には、このほかにも今西家、上田家、高木家など重要文化財に指定された多数の商家が残っています。この密度は、京都や奈良の比ではありません。
 ただし、多くは非公開なので外観しか見ることができません。無料、予約なしで内部が見られるのは旧米谷家住宅と、18世紀初期の町家である今井まちや館の2軒くらいしかないので留意が必要です。

 三重県の関宿(せきじゅく。亀山市)でもそうですが、伝統的建造物群保存地域になると、住宅の新築はもちろん、改築や修繕もままなりません。外装や看板にも制限があり、もちろん、そのような厳しい制約が課せられているからこそ町並みが美しく保存されているわけですが、実際にそこに住み、現代の生活を送っている住民の方にとっては、正直言って痛しかゆしの面はあると思います。


 今井町にも、もちろん商店や飲食店は点在していますが、ファサード(外装)は伝統家屋風の木造で落ち着いた色調に統一されており、景観に配慮している意気込みが強く感じられます。
 それにしても不思議なのは、これだけ文化財だらけで、ここまで景観に配慮している今井町が、あまり観光地化していないことです。
 何軒かのお店の方に聞くと、昭和50年代に町並み保存の問題が起こり、町内で話し合いがもたれた時、一つの方向性として「観光地化しない」という合意があったとのことです。
 これは、今井町町並み保存会のホームページにも、「静かなたたずまい」として町並みを保存し、住環境を整備していく方向を打ち出して活動している、という趣旨の説明があるので、町の総意ということなのでしょう。

 ただ、別の方の話では、道が狭く、これといった観光拠点があるわけでもなく、観光バスがどんどんやって来る観光地でもないので集客力は決して大きくなく、たまにレストランや土産物店が新しくできることはできるのだが、結局は続けられなくなってしまうことが多いとのことです。観光客の多くがリュックを背負ったシニア層で、あまりお金を使わないという声も聞きました。


 美しい町並みの一方で、空き家となり荒れ放題の廃屋が散見されるのも事実です。母屋と離れと蔵が渡り廊下で結ばれているような大きな建物は、やはり維持管理に相当なおカネと手間暇がかかるのでしょうから、一個人ではどうしようもないという事情も垣間見えます。
 また、ご多分に漏れず、今井町でも高齢化、独居化が進んでいるそうで、伝統的な和建築の場合、土間があったり、段差があったりして、高齢者にとって使いづらい状況になっていることが大きな問題のようです。

 このような問題ははらみつつも、やはりそれでも今井町は魅力的です。
 細い路地裏まで丹念に歩いていると、時間があっという間に経ってしまい、わしのような建築マニアなら一日でも足りないほどです。
 数年前に比べると、それでも休憩スペースなどは徐々に整備されてきていると感じます。秋の行楽シーズン、お出かけになってみてはいかがでしょうか。

■橿原市観光協会   http://www.kashihara-kanko.or.jp/

■今井町町並み保存会   http://www3.kcn.ne.jp/~imaicho/index.html


0 件のコメント: