2014年11月10日月曜日

小規模企業振興基本計画を読む

 ばたばたしていてチェックし忘れていたのですが、一ヶ月ほど前の10月3日に「小規模企業振興基本計画」が閣議決定されました。
 小規模企業振興基本計画とは、今年6月に公布された小規模企業振興基本法の規定に基づき、政府が策定する計画です。
 中小企業の中でも、個人事業主や家族経営といった小規模事業者の振興については、安倍政権が誕生した直後から、地味ながら政府の一つの検討課題となっていました。国(経済産業省中小企業庁)は、小規模企業の経営者や、その支援者(商工会議所のような)との意見交換会を全国各地で開催し、現場の意見も聞いたうえで制定された、というのが小規模企業振興基本法の売りというか、大きなセールスポイントでした。
 その法律を現実に執行していく上で、政府の基本的な方針とか、具体的な施策を示す小規模企業振興基本計画については、少なくとも中小企業振興業界の関係者の間ではそれなりに注目されていました。
(小規模企業基本法については、未来の企業☆応援サイト ミラサポ に関連記事があるのでこれを参照してみてください。リンクはこちらです。)

 しかし、その一方で、政府が基本計画を作り、その計画に従って企業(小規模事業者)の経営力を引き上げていこうというやり方は、良くも悪くも、もはや限界が見えていることは事実でしょう。
 経済活動が多様となり、インターネットによる情報化も進んでいる現在、経済産業省がこれまで進めてきたような ~戦後復興から高度成長期までは大成功したものの、バブル崩壊以降は失われた20年を何ら回復させることができなかった~、政府が企業や市場を誘導していくという行政手法は実効性が疑わしいからです。

 三重県を例にとると、県内には中小企業が55694もあります。このうち、製造業なら従業員が20名以下、商業・サービス業なら5人以下という、小規模事業者は48614もあって、三重県全体の企業と個人事業者の数55791のうち、87%は小規模事業者が占めています。
 業種の構成も多様で、これは全国統計になりますが、建設業なら全建設業者のうち94%が小規模事業者。製造業も約80%。不動産業やリース業なら95%、小売業や運輸業などでも約65%が小規模事業者です。
 これをみると、たしかに「小規模企業振興基本計画」が言うように、小規模企業(小規模事業者)は、地域の特色を生かした事業活動を行い、地域に就業機会を提供することで、地域の需要に応え、地域住民の生活の向上や交流の促進に寄与する重要な経済主体であることは間違いありません。
 ただ、逆に言えば、このように多種多様であり、主として地域の需要に対応している事業形態であることは、全国一律の振興方針では対応しきれないという矛盾を内包しています。
 小規模事業者の大多数は生業であり、身の丈を越えた事業の発展をそもそも望んでいません。また、お客さんがいる限りは、いかに採算性が低かろうと(たとえ赤字であっても)事業を継続しないわけにはいきません。
 冨山和彦さん流に言えば、このような「L(ローカル)の世界」は、拡大志向・利益最優先・国際競争を是とする「G(グローバル)の世界」とはまったく異なった原理で動いています。経済学が前提とするような経済合理的な行動をあえてとらない小規模事業者を、どのように政府が「きめ細かく」支援するのか、いや、そもそも支援なんてできるのか、という問題もあるわけです。

 そのような目で「小規模企業振興基本計画」を読んでみると、やはり、今までの中小企業庁による中小企業施策を焼き直し、あるいは現代風にお化粧し直した、けれども中身は古い、という印象を持たざるを得ません。もちろん、コミュニティビジネスの推進において、事業者としてのNPOを支援すると明記した(重点施策8)など評価できる部分もありますが。
 しかし、地域資源を活用した事業を促進するとか、ビジネスプランの見直しを支援するとか、新事業展開を支援するとかいうものは、今までもすでに営々と続けられてきたものであり、それ自体にまったく新味はありません。これをやり続けてきたにもかかわらず、小規模事業者は減少しているのです。国による小規模事業者支援が袋小路に陥ってしまっているのです。

 いくらこのような施策を準備し、補助金を出したり、専門家を派遣したり、社内人材の育成を手伝うといっても、小規模事業者は従業員が少ないから小規模事業者なのであって、そもそも施策を活用できる余裕もなく、セミナーや研修会に人を出す余裕もありません。問題の本質はここで、いくら行政や商工会議所・商工会・政府系金融機関による支援を手厚くしても、それを使いこなせるような小規模事業者は現実にほとんど存在しないのです。

 唯一、新しい中身は、と言うよりドラスティックな中身は、重点施策5の「事業承継・円滑な事業廃止」というものです。
 小規模企業の経営者や個人事業主は、あまり儲からないし、先行きは見通せないし、といった理由で子供に仕事を継がせません。後継者がおらず、本業は順調でも廃業してしまう企業は相当な数にのぼると見られています。そこで、10年ほど前から事業承継の支援が本格化しており、相続時の株式評価方法の見直しといった税制優遇などが整えられています。(ただ、それでも廃業は増えているわけですが。)
 しかし、ここでは「事業の継続が見込まれない場合には、廃業することも選択肢の一つとして検討できるよう、事業の廃止に関する相談窓口の整備を進める。」とあって、スムーズな廃業を支援するものとされています。これは重要です。

 Lの世界、Gの世界を説く冨山和彦さんの著書の書評は、このブログでも書いています。(【読感】なぜローカル経済から日本は甦るのか 2014年8月15日

 冨山さんによれば、グローバル競争に打って出て、利益を外国から日本へ持ってくるGの企業は、日本の経済成長にどうしても必要です。一方でLの企業は、多くが内国型(非輸出型)の商業やサービス業であり、苛烈なグローバル競争をしなくて済んでいるので、結果的に生産性がGの企業と比較して著しく低いという問題があります。
 実は、日本の非製造業の生産性の低さは諸外国と比べても突出していて、その理由の一つは、日本人特有のおもてなし精神による時間消費型のビジネスモデルが多いこともあるでしょうが、諸外国に比べてICT化が遅れているとか、設備投資が遅れているとか、作業手順の標準化や従業員のスキルアップが遅れている、といったような、全般的な差が大きいと考えられています。

 このため、非製造業の生産性の向上は、日本経済にとって最大の、かつ喫緊の課題と言ってよく、冨山さんは、それには起業や創業を促進して、どんどんビジネスにプレーヤーを新規参入をさせ、それによって生産性の低い事業者を市場から退出(廃業、倒産)させることが、新陳代謝の唯一の方法であり、生産性を向上させる最も有効な方法だと主張されています。

 この意見はドラスティックですが確かに一理あります。
 社会主義的な「小規模企業振興基本計画」が冨山さんの見解に全面的に賛同しているとは考えにくいですが、国でさえ、この点については無視し得ないことを示しているとも言えます。

■小規模企業振興基本計画(PDFファイル)  経産省ホームページより
 

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