2014年11月25日火曜日

中小企業の誤ったシグナリング

 選挙モードのリップサービスなのか、政治家が「アベノミクスの成果が中小企業にまで行き渡っていない」と言い立てる声が喧しくなってきました。
 安倍政権の経済政策であるアベノミクスは、毀誉褒貶があり、過剰な金融緩和は長期金利上昇のリスクを高めるとか、政府の財政出動は公共投資に偏っている、といった声も大きいですが、客観的な事実として、民主党政権時に比べ、景況のバロメーターである株価は大きく回復し、各種の生産指数も雇用状況も改善しています。
 もちろん、これにはアメリカや中国の旺盛な需要とか、リーマンショック後の日本企業が体質改善に努め、筋肉質になってきたこと、など複合的な理由はあるでしょう。しかし、一定の成果を収めたことは紛れのない事実と思います。
 このような中で、中小企業が取り残されているというのは本当でしょうか。
 このブログでは、中小企業問題は、一律、一括りにして捉えるべきではなく、多種多様であるという実情に応じた理解と対策が必要であることを何度も書いてきました。
 日本には、農林水産業を除いて、約385万もの事業所(企業や個人事業主)があります。このうち99.7%は中小企業なので、生業に近い個人事業や家族経営の企業から、従業員が数百人、資本金が何億円もある企業まで、千差万別なのが中小企業の実像です。

 このように、政治家が「中小企業は困窮している」というキャンペーンを始めると、マスコミの報道もとたんに情緒的になります。マスコミが取り上げるような「困っている中小企業」とは、商店街の小売業者であったり喫茶店であったり、大手メーカーの3次4次下請けの町工場だったりします。
 商店街はコンビニやフランチャイズチェーンに押され、アベノミクスの恩恵どころではない。町工場は円安で原料高が深刻なうえに人手不足で、納入価格も一向に上がらない。アベノミクスの波及効果がないと日本からモノづくりのDNAが絶えてしまう。

 本当なら大変です。

 しかし、言うまでもなく、商店街のじり貧化や、町工場の苦境は今に始まったことではありません。よく見れば、商店街の中でも繁盛しているるお店は必ずあるし、全国には活気あふれる商店街も実在します。多種多様なのです。
 製造業も同様です。先日来、大企業の9月期決算が続々と公表されていますが、営業利益が2兆円となり過去最高となったトヨタ自動車を始め、少なくない大企業は大幅な増収増益になっています。
 中小企業の多くはこれら大企業と取引が連なっているので、川下だけが大儲けして、川上に全く恩恵がないことなど常識的にあり得ません。実は自動車関連、家電関係、日用雑貨・生活用品関係などの製造業の中小企業で、売り上げがリーマンショック前に回復したとか、最高利益となったというところは決して少なくないのです。つまり、中小企業も景気は良いのです。
 しかし、マスコミは「中小企業は困っている」と刷り込まれているし、儲かっている企業は自分は儲かっているとはなかなか口外しないので、伝わらないだけなのです。このバイアスは株式が公開されておらず財務状況がオープンにならない「中小企業という世界」全体の問題点でもあります。

 円安もそうで、原料高、エネルギー高で苦しんでいる企業が多いのは事実です。日本が輸出立国というのは間違いで、GDPに占める輸出の比率は先進国の中で突出して小さいのですが、輸出型企業は利益を生み出す力が大きいので、国内に好影響が波及してきました。
 しかし、これらは「生産拠点の現地化」(かつては国内産業空洞化と呼ばれていました。)が進む中で、輸出企業に依存していた中小企業は「下請け」というビジネスモデルがそもそも成り立たなくなってきていました。これは円安とは無関係で、グローバル化の宿命、もっと言えば、製造業(モノづくり)という「適地生産志向」と「コスト最小化志向」を内包した産業自体の宿命です。

 その一方で、円安は、明らかに外国人観光客を増やしています。輸出型製造業が少なく、建設業と観光業が主力だという地域(それは、日本のいわゆる中山間地域の多くの部分を占めています)にはその方が恩恵が大きいのです。
 
 このような側面を軽視して、まだ「輸出立国」的な時代錯誤に陥っていると、過度な円安を是正しろといった無茶苦茶な政策がまかり通る危険性があります。

 しかしながら、わしが個人的に最も心配なのは、このように政治的争点としてダシに使われがちな「中小企業」という存在への誤ったシグナルが、これからの中小企業を背負う若者たちに伝わらないかということです。
 中小企業は経済的な弱者。円高になると円高が悪い、円安になると円安が悪い、と誰かのせいにする。もっと中小企業を手厚く保護しろ、と政府に要求ばかりする。
 これらは、ありていに言って、「中小企業」の一般的なイメージとして確立していると思います。もちろんこれは誤解で、多種多様な中小企業には、頑張っている、魅力的な、儲かっている企業はたくさんあるのですが、これらは総体としてイメージ化されていないのです。

 このような中小企業に、若者が魅力を感じるでしょうか。
 もしくは、子供を持つ親が、中小企業に就職させたいと思うでしょうか。

 中小企業弱者論は罪深いのです。サボり、怠ける企業を助けるという点で、そして、次世代の若い可能性も遠ざけるという点で。
 

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