2014年11月27日木曜日

日本人はどれほど鳥獣戯画が好きか

 前の連休、京都国立博物館で開催されていた特別展「国宝 鳥獣戯画と高山寺」に行ってきました。
 連休の中日、しかも紅葉シーズンの真っ最中ということで、始発に乗って伊勢を出、ほぼ開場時間の朝9時に到着したのですが、入館までの待ち時間は何と90分とのこと。

 わしは基本的に気が短い ~中年の日本人男性ならほぼそうだと思う~ ほうなので、評判のレストランにしろ、話題のアトラクションにしろ、バーゲンにしろ、何せ行列と言うものはことごとく大嫌いなのですが、ここまで来て帰るわけにもいかず、仕方なく行列の最後尾に並ぶことにしました。

 それでもまだスタートダッシュが効いたのか、待ち時間の表示はどんどん伸び、30分後には120分になっており、わしの後ろにも人が続々と並んでいました。

 この特別展は24日までだったのですが、計43日間の会期で20万3753人もの入場者があったということです。
 日本人って、いったいどれだけ鳥獣戯画が好きなのでしょうか?


 幸い、この日は風もなく温かい日差しだったので、待っていてもそれほど苦にはなりませんでした。行列は遅々として進まず、自然とお隣や前後の人たちと言葉を交わすようになります。
 わしの前のご夫婦は横浜から、隣のグループは広島からとのことで、たまたま京都旅行に来ていて偶然この特別展を知った人や、これ目当てに前泊してきた人などいろいろでした。ただ、わしも含めてNHK Eテレ(教育テレビ)の「新日曜美術館」を見て、無性に実物が見たくなった、と言う人が多かったのは面白く思いました。

 けれどもしょせんは見も知らぬ初対面の人たち。会話が弾むのは最初の30分くらいで、だんだん話題もなくなり口数が減ってきて、お互いバツが悪くなってきた頃。
 博物館のほうも、そう配慮していたのか、行列が鳥獣戯画の複製が展示されているテント通路に差し掛かるようになってきました。

 かなり大きなコピー画であるうえに、ウサギだの、カエルだの、サルだのが楽しく遊んだりイタズラしている場面に、いろいろな注釈がされていて、大変興味深く鑑賞することができます。昔は当たり前の仕事や遊びや所作だったものが、今ではこれは何をしているところなのかがよくわからないシーンも多くあります。それに注釈がついており、歴史的な背景も説明されていました。
 ただひたすら待っているだけで他にやることもないので、おそらくこれほど真剣に鳥獣戯画を隅々まで見たことは、わしの生涯にとって初めてのことでした。

 ほぼ表示どおり1時間半待って博物館の館内には入れたのですが、鳥獣戯画の展示室前でさらに行列がありここでも30分待って、ようやく、やっとのことで国宝鳥獣戯画の実物を見ることができました。
 鳥獣戯画は、正式には鳥獣人物戯画といい、甲、乙、丙、丁の4巻があります。
 このうち、最も有名なのは、ウサギとカエルが相撲を取ったり、弓矢比べをしている「甲巻」で、乙巻と共に平安時代に描かれたもの。また、ウサギやサルが人のマネをしている仕草が描かれる丙巻と、人間が舞をしたり、労働したり、遊びや博打をしたりする様子が描かれている丁巻は鎌倉時代に描かれたものだそうです。
 わしが学生のときは、鳥獣戯画の作者は鳥羽僧正だと習いましたが、史実としてはそれも定かでなく、洛北にある栂ノ尾高山寺の寺宝となって今に伝わっている経緯も不明とのこと。
 生き生きと、楽しそうに描かれている絵の内容とは裏腹に、その誕生や伝承については謎に包まれているようです。

 つごう2時間以上待って、いよいよ鳥獣戯画甲巻と対面できました。巻物の長さにあわせた細長いガラスケースに入っています。しかし、無数の学生アルバイトと思われるスタッフが配置されており、「多くの方がお待ちです。立ち止まらずに御覧ください。」「立ち止まらないでください、歩いたままでご鑑賞ください。」と、しつこくしつこく声を掛けてきます。
 わしなど真面目なので、ああそうなのか、立ち止まって見たら迷惑なのか、と思ってしまい、必要以上にそそくさとガラスケースの前を通り過ぎてしまったので、どうでしょうか、ものの30秒くらい見られただけでした。
 というか、入館前のテントの中でコピー画をお腹いっぱい見た後だったので、これが1000年前に描かれた国宝だと思っても ~思い返すと異常な心理状態ですが~ それほど感動が沸き起こりませんでした。これまた博物館の作戦だったのかもしれませんが。

最も人気がある甲巻を見終わると、乙、丙、丁は行列もなく、見たい人が勝手に見る方式だったのですが、それほどの混雑はありませんでした。丁巻などは、わしは初めてゆっくり見ましたが、ささっと筆で描いたスケッチ(まさに戯れ絵=戯画)なのですが、表現が洒脱で、この作品が現代の漫画やアニメーションの原型だといわれるのも納得できます。

 本当にこの巻物、誰が何のために描いたのでしょう。また、誰が高山寺に寄託し、高山寺の歴代の僧侶達も、どんな時にこの絵を見ていたのか、それとも寺宝で見た人はほとんどいなかったのか、などなどいろいろ想像をめぐらせました。

 結局、2時間待って、見たのは1分、という大病院での診察のような顛末でした。
 ほかにも高山寺の仏像や厨子といった寺宝、高山寺の名僧 明恵上人の肖像画や愛玩品なども数々展示されていましたが、もう何だか疲れきってしまいほとんど流し見しかできませんでした。

 しかし、まあ、貴重な経験ではありました。
 もう二度と実物を見る機会はないでしょう。
 

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