2014年12月27日土曜日

わしはこうして詐欺に引っかかった(前編)

 オレオレ詐欺のような「特殊詐欺」の被害額が11月時点で500億円を超え、統計開始以来、過去最悪となることが確実視されています。
 被害者となるのはほとんどが高齢者で、犯人が捕まっても、騙し盗られたお金が戻ってくることはおそらくないでしょうから、せっかく築いてきた財産があっという間に失われてしまった落胆はいかほどかと思います。
 それと同時に、「なんで世間であれほど注意しろと言っているのに、おばあちゃんは騙されちゃったの?」といったような、批判がましい世間の目が向けられることで、いわば二次被害を受けているのではないか、とも心配になります。
 騙された、と分かった時の、その混乱した気持ちは被害者でないとなかなかわからないものかと思います。自分の愚かさを悔やんでも悔やみきれない気持ち、家族や知人への恥ずかしさ、犯人に対するやり場のない怒り、などなど。
 実はわし、職場の元上司だった男(つまり三重県の職員)にお金を騙し取られたことがあります。わしの体験をもって他山の石としていただきたく、年末になって世知辛さも募るこの時期、あえてその顛末を書いてみることにします。

 今から10年ほど前になります。わしはある出先機関に勤務していました。

 ある時、元上司から職場に電話があり、今度そっちへ行くので久しぶりに会いに行っていいか、みたいな話がありました。その当時は県職員も今ほど雑用が多くなく、めちゃくちゃに時間に追われていることはありませんでした。出張に行った際に、元の職場の同僚や上司の顔を見に立ち寄るようなことは珍しいことでは全然ありませんでした。

 わしもそんなことだろうと思い、その日になると、今度は直接わしの携帯に電話がかかってきました。「今、駐車場に来ているから悪いけど降りてきてくれ。」と言うのです。
 駐車場に行くと何年ぶりかで会う元上司が、3ナンバーの大きな自家用車に乗って待っていました。

上司:まあ中に入ってくれ
わし:なんですか、何か内緒の話ですか?
上司:実はなあ、折り入って相談があるんや・・・

 上司はひどく深刻な顔をしており、わしが記憶している明るくて頼れる人という面影はありません。

わし:何ですか。
上司:恥ずかしい話やけどなあ、ヨメが入院してしもてなあ。
わし:えっ、そうなんですか、それは大変ですね。ご容態はどうですか。
上司:入院してるから仕事は今休んでるんやけど、退院しても働くことはどうも当分難しいみたいなんや。
わし:…それは大変ですね。
上司:それでなあ、上の娘が○○館高校に推薦で入ることになってなあ、入学金を期日までに納めやないかんのやけど、入院費やなんやで貯金を下ろしてしもたんで、一時的にどうしてもお金が足りんようになってしもたんや。
わし:(何の用件だろうと心に不安をもたげつつ)それはお困りでしょうね・・・
上司:それでな、悪いけど半年でええから100万円貸してもらえへんやろか?
わし:えっ!?

 それが、正直ちょっとびっくりする額だったので、わしもおかしいなと思うべきだったのですが、やはり元上司の言葉だったのでなかなか反論するとか、深く質問することができませんでした。どうしても心理的に劣勢だったのです。

わし:そやけど、僕も貯金は定期にしてるんで、今そんなお金ないですけど。
上司:そうか、そやったら、県職信(はんわし注:三重県職員信用組合のこと。)で普通ローンっちゅうのがあって、それやとどんな名目でも100万円までやったらすぐ借りられるんや。それ借りてくれへんか。
わし:いやー、しかし、そこまでやってお貸しするっちゅうのも何か変な感じですけどね。
上司:そこをなあ、何とか頼みたいんや。もう君しか頼れる人がおらんのや。どうしても期日までに納めんとせっかくの推薦が取り消されてしまうし、娘がなあ、母親が入院して気落ちしとるうえに、推薦合格まで取り消されたら親として辛いもんでなあ。

 元の部下に金融機関でお金を借りさせて、それを自分に「又貸し」しろなど、普通に考えると超怪しい話で、疑うのが当然です。しかし、車内に二人で座り、つまり密室でサシで話しているので、今考えるとわしを冷静にさせないための作戦だったのだろうと思います。
 頼み、頼む、もちろん借用証を書くし、毎月きちんと返済するから、なあ頼むわ。このとおり。などと懇願され、返済は振込にさせてほしいんで、君の口座番号も教えてくれるか、とも畳み込んできます。
 まだ若かったわしは、こんな胡散臭い話を信じ込んでしまったのでした。

 今から思うと、それでもまだわしは引き返すことができました。実際に県職信に融資を申し込むためには、書類も書かないといけないし、ハンコも押さないといけない、その時にやっぱりこの話はどこかおかしいな、と疑うべきだったのです。
 しかし、元上司はその後も何度もわしの職場に電話してきて「自分のためにあんたに書類を書いてもらうのも手を煩わせて悪いから、手続きは全部自分のほうで代行しようと思うけど、それでいいやろ。」と言ってくるのです。

 言い訳になりますが、当時のわしの職場はすっごく忙しいところで、わしは毎日夜9時10時まで残業していました。お金を借りる、そして又貸しすると心を決めてしまった後は、むしろ書類の手続きは上司で代わりにやってくれるならありがたい、とさえ思ったのでした。
 最終的に、申し込みには県職信の窓口にわし本人が行かなくてはなりませんでしたが、わしは過去に焦げ付きもなく(というか、ローンを組んだことがそれまで一度もなかったので、当然なのですが)、審査はほんの数分で終わったと記憶します。
 1週間後くらいに、わしの口座に100万円が融資されてきました。それをATMで引きだし、元上司に渡すと、彼はわしを拝み倒すようにし、絶対に返すから心配せんでもええ、と言いました。

 彼と会ったのは、それが最後になりました。

(つづく)
 

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