2014年12月28日日曜日

わしはこうして詐欺に引っかかった(後編)

(承前) わしはこうして詐欺に引っかかった(前編)

 さて、このように元上司からの、よく考えてみるとわけの分からない理由による無心に応じてしまったわしですが、現金を渡したときには引き換えに借用証(というか、返済することを確かに誓約します、という類の誓約書みたいなものでしたが)を出してきたので、まあいいか、みたいな感じでした。
 実際に最初の何か月かは、月1回、お金が振り込まれてきました。ただ、決まった額ではなく、多い月は2万円くらい、少ない月は5千円くらいで、つまりは決まった返済額というものもなく、これもよく考えれば怪しい話なのですが、わしは「ああ、よほどお金に困っているのだな」と思っていたほどでした。
 
 おかしいと思ったのは、数か月後、月1回の返済さえもなくなり、元上司の携帯に電話しても本人にほとんど繋がらなくなったことです。仕方がないので、今まではあくまでプライベートな問題と思って自粛していた、彼の職場へ電話してみることにしました。
 しかし、彼はいつも休暇を取っているか、出張しており、職場にいないのです。電話に出た同僚の方々に聞いても、いつ出てくるかわからない、どこへ(出張に)行っているか自分たちも知らない、という答えばかり。さすがのわしも、これは怪しいと疑い始めました。

 携帯は料金滞納のためか不通になっており、職場への電話が何回目かとなったある日、やはりこの日も元上司は休暇を取っているとのことだったので、わしは思わす「課長と替わってもらえませんか、大事な話があるので。」と、つい大きな声を出してしまいました。

 何か電話口でごにょごにょやり取りをしているのが聞こえ、しばらくして課長が出てきました。わしは、元上司にお金を貸しており、返済がないので困っていること、そして、すぐにわしのほうへ連絡するように課長さんからもご協力をいただきたい、と話しました。
 しかし、課長の回答は意外なものでした。
「あのねえ、うちの課も今週はこんな電話ばっかりかかってきて困っているんですわ。彼にも自分の始末は自分できちんとつけんといかんとは言っていますが、あくまで個人的な問題なので私がどうこうすることはできません。彼が出勤してきたらこんな電話があったことは伝えます。」
 そこで、初めて ~本当に愚かなことでした~ 自分は騙されたのだと気が付いたのです。

 よくテレビの報道番組で、金銭のトラブルになった人が相手を「こんなやり方はまるで詐欺じゃないか」などと罵っている光景が映されます。しかし、刑法上の「詐欺」に当たるためには、本人に相手方を騙そうとする意思があり、その上で実際に騙したという行為(欺罔行為)が必要です。
 多くの金銭トラブルでは、借り手は騙そうと思って借りたのでなく、返す意思はあり、そのための努力もしていたが、どうしてもやむを得ない事情があって払えないのだ、という抗弁をします。この場合、刑事事件(詐欺罪)にはなりにくいのです。本人が騙す気はなかったと言っているのに、いやそれは嘘だろう、最初から騙すつもりだったのだろうと罵倒するのは簡単ですが、客観的な証拠によってそれを証明することは非常に困難だからです。

 借用証があるではないか、といっても、無い袖は振れないので、返せなくなったら、こんなもの何の役にも立ちません。(なので、事前に担保を取るか、公正証書を作って返済が滞ったらすぐに財産を差し押さえられるようにでもしておくのがプロの金融業のやり方です。)

 わしは、なまじそんな知識だけはあったものだから、警察に言うべきかどうか、弁護士にでも相談してみようか、などとぐずぐず逡巡していました。お金で揉めていることを他人に知られたくないと思ったのも正直なところです。

 そんなこんなしているうち、ある日、仕事から帰るとポストに弁護士事務所からの手紙が入っていました。中を読んでびっくりです。元上司が裁判所に自己破産を申し立て、債権者集会のための債権調査依頼が、管財人となった弁護士から送られてきていたのです。
 もし自己破産されれば、債権(借金)はちゃらです。わしにはお金は戻って来ません。正確に言えば、元上司にも資産があり(彼は今から思えば、分不相応な高級車に乗っていた)、誰かにお金を貸している債権があるかもしれません。そんなプラスの財産をかき集め、一方でマイナスの財産(借金)も合計して、プラスからマイナス分を差し引いて、残りがあれば、それを債権者で分配しようというのが破産制度です。なので、まったくゼロではないかもしれませんが、全額戻って来ることは間違いなく可能性ゼロでしょう。

 わしが貸した金額と借用証のコピーを弁護士事務所に送り、何週間か後、債権と債務の調査結果一覧表が送り返されてきたのですが、これを見てまたまたびっくりしました。
 何と、わし以外に、県職員の名前が数十人分、債権者(つまり、金を貸した側)としてずらずらとリストアップされていたからです。少ない人でも十万円くらい、多い人は200万円以上も貸しているのです。
 わしは本当に頭に来ました。200万円近く貸している人は、わしと同じ時期に同じ職場で部下だった同僚で、一番若い職員だったのです。そのようなヒエラルキーが下の人間から、上司だった権威をかさに着て金を借りている。なんという卑劣な人間でしょうか。

 債権者集会の当日、会場には全債権者の1/3くらいに当たる20名ほどが出席していました。ほとんどがわしとは顔見知りで、お互いバツが悪く、「なんや、あんたも貸しとったんか」「そうなんさ、あのガキにうまいこと言いくるめられて貸してしもたんや」みたいな会話があちこちで展開されています。元上司本人は出席せず、全権を委任されている管財人の弁護士が事務的にお詫びを伝え、すぐに財産処分についての説明になりました。
 弁護士からは、本人は深くお詫びしており、県庁を退職して退職金を返済に充てる。自宅も売却してその代金も返済に充てる。その結果、債権者には6割程度の返済ができる見込みである。当人としては精いっぱいの誠意かと思うので、どうかこれで了承してもらい、自己破産がスムーズにいくように同意をお願いしたい、というような説明がありました。

 わしも再認識したのですが、自己破産しても破産者は身ぐるみはがされるわけではまったくありません。プラスの財産から、まず本人が当座生活するための資金を優先的にもらうことができます。自己破産とはあくまでも、借金をちゃらにしてあげることで破産者の生活再建を手助けすることが制度の目的なので、何でもかんでも債権者に有利なようにはできていないのです。むしろ、債権者は過去のことは水に流して、破産者の生活再建を認めてやりなさい、という制度なのです。
 わしら債権者は、この内容に同意せざるを得ませんでした。貸した金の4割は二度と戻ってこないことになったのです。

 その時に噂で聞いた話では、元上司は子供が高校に推薦入学したなどと言っているが、それでお金が必要になったわけではなく、結局はよくあるようなギャンブル狂だったとのことです。
 日ごろのうっ憤をギャンブルで解消するのも、たまにはいいのかもしれませんが、彼は週末は松阪や津に入りびたり、車券や舟券を一日で何十万円分も買い、当たった時は何百万も儲かるかわり、当たらないときは何十万円の損失となり、当然ながらギャンブルはほとんどは負けるので、到底月給では賄えないほどの借金が雪だるま式に増えていったとのこと。
 もともとギャンブルは好きだったようですが、何か家庭の事情があり、そのストレスから次第にエキセントリックな賭け方になってきたとのことです。
 いつしかコワい人たちからも高利で借りるようになり、数年前からはとうとう県庁の同僚や部下からも手当たり次第に借りまくっており、その金で利息を払うというパターンだったそうです。故意と言えば故意、おそらくわしに声をかけてきた時点で、返済する見込みがまったくないことは本人も分かっていたでしょう。

 ただ、「ギャンブルが理由で自己破産したい」と裁判所に申し立てても、それは本人の不行跡であって破産を認める理由にならない(破産は認められたとしても、債務放棄は認められない)と判断される可能性があり、それでは誰もハッピーにならないので、あくまでも表向きの理由は生活苦ということで破産申し立てになったそうです。

 何か月後か、元上司本人から「破産が認められました。皆さんには大変ご迷惑をかけました。」と下手な字で書いた手紙が届きました。

 政府が発行する「官報」には毎日のように、数十人から数百人の破産者が破産宣告を受けた旨の公告が掲載されています。破産する側も気の毒ではありますが、もっと気の毒なのは、ほとんど、いや、まったく返済を受けられない債権者のほうです。それによって人生が狂う人もいるでしょう。わしは6割近くは弁済が受けられたので、まだ幸せなほうかもしれません。

 ありきたりな結論ですが、人にお金を貸してはいけません。
 親兄弟、親戚であってもです。

 ましてや、電話で頼んできたり、全然知らない人が受け取りに行くから、などという話は100%嘘なので、絶対に乗ってはいけません。詐欺師はもっともらしい理由をつけて、「急いで」「早く」とせかしてきます。冷静に考えさせないのです。その場では絶対に判断せず、必ず誰か知人や警察に相談しましょう。

 もし、どうしても貸さなくてはいけないときは、弁護士や司法書士を入れて、担保や差し押さえ条項も入れた契約書を作っておくべきです。
 しかし、原則、お金を貸してはいけません。これだけはわしの教訓として書き残しておきます。

2 件のコメント:

まろ さんのコメント...

心中お察しします。
少し事情は違いますが、昨年事業資金として
貸したお金が返ってこなくなりました。
結論はそのとおりですね(赤字のところ)。
 

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 そうですねえ。無責任なことを言うと、日本でベンチャーが発展しないのは、仮に事業に失敗すると経営者が個人保証で身ぐるみはがされてしまうから、という説明がよくなされます。
 これはもっともなのですが、しかし同時に日本人の感情として、人に借りたお金を返さない、返さなくても枕を高くして寝ていることが許せない、というものは根強くあると思います。