2014年12月6日土曜日

最先端にある製造業の現場は

 万が一、差し障りがあるといけませんので名前を出すことは控えますが、先日、日本を代表する(というか、世界でも間違いなく5本の指に入る)、メガサプライヤーの拠点工場を見学する機会がありました。
 工業団地レベルではなく、ひと山がまるっとそのメーカーの工場になっているような規模です。面積は巨大な野球ドームが20個近くも入るほどの広さで、数千名の従業員が昼夜三交代で働いています。全国には人口が5千名程度の町や村も多くあるので、この工場は、それらの地方自治体よりも大きな規模ということになります。
 主力の生産品は自動車関連部品ですが、自動車は特に高い品質と安全性が求められていることから、この工場も技術力には定評があり、さらには自動車産業は、金属、プラスチック、ゴム、ガラス、電子部品など多様な技術が集合する分野でもあるため、それら蓄積を生かして、エネルギーや医療、ロボットといった分野の製品も製造しているとのことです。
 グローバル経済競争の真っただ中で、最先端を走っている生産現場はいったいどのようなものなのか、わしも大いに興味がありました。


 構内に入ると、まず工場の規模の大きさにあらためて圧倒されました。敷地にはいくつかの工場建物が点在しているのですが、建物の壁一辺の長さは数百メートルもあり、床面積に直すと20万~30万㎡もあるスケールです。大型ショッピングセンターがいくつも隣り合って建っているようなイメージといったらいいでしょうか。
 工場は、敷地外の外周道路も含めて緑が多く、よく手入れされていて、清潔感というか清涼感というか、景色の優しさにも強く印象付けられます。
 工場緑化は、そもそもはかつての「工場イコール公害」のイメージを払拭する意味で促進されてきたものでしょうが、今はそれよりもむしろ、地球温暖化防止とか省エネとかといった、大工場が対応すべき環境問題に前向きに取り組んでいる、その象徴としての緑化だと理解すべきかもしれません。
 しかも、日本の製造業の構造は公害の時代からはすっかり変わってしまっています。この工場も、製品の超小型化、超精密化、超省エネ化によって付加価値を生んでいます。なので、緑化(緑地確保)は生産設備を制約するマイナス要因ではなく、むしろ従業員に快適な作業環境を与えることで意欲や能率を高めるプラス要因と捉えていることもあるでしょう。

 工場の内部はもちろん大変に広いのですが、空調が完備されており、快適です。もっとも、当然ながら工作機械や組み立てラインがびっしりと並んでおり、向こう側を見通すことなどまったくできません。音は、もちろん静寂ではありませんが、耳をつんざくような騒音では決してありません。
 製造している品目が比較的小型の部品であるせいか、生産設備はほとんどすべてが自動運転されており、工員は整然と並んだ設備の中にポツン、ポツンと点在しているだけです。主要な業務は機械に異常がないかを複数台見張っていることと、原料の供給、できた製品の取り出しなど。
 ただし出来上がった製品の外観のチェックは、一つ一つ人間が手に取って行っていました。もちろん後で機械でのチェックも行うのですが、目でないと見つけられない不良もままあるそうで、この工程だけは機械化できないそうです。

 しかしながら、一般論としては、製造業で働く労働者の割合はこれから先もどんどん減っていくでしょう。コスト削減の厳しいグローバル競争の中では、人件費が高い日本で稼働を続けようとすれば人件費を削減するほかないからです。どうしても自動化や機械化ができない工程を除き、ますます人は減っていき、無人工場が近い将来の日本の製造業の姿になるのでしょう。

 今回注目したのは、いわゆる日本型生産システムと言われる「5S」とか「カンバン方式」と呼ばれる生産方式でした。これらについては、中小企業も含め日本の工場の基本哲学となっていますが、本家とも言える自動車のメガサプライヤー企業では実際のところどうなのか、と思っていたからです。
 これは結論から言えば、間違いなくこの工場の(この企業にとっての)血肉となっていました。整理、整頓、清潔、清掃、躾という5Sは工場と工員の行動の基本原理になっています。また、基本に忠実に、日々の業務を繰り返すことが原則の中で、よりよく作業を改善できないかを話し合うQC活動とか、社員による業務改善提案制度もしっかりと浸透しています。
 上で決められたことや、昔からやっていることも鵜呑みにするのではなく、何のためにやっているのかを疑い、考え、改善に結びつける。このボトムアップこそが日本のグローバルトップ企業の強みであることは、やはりこの工場でもその通りでした。

 わしなどよく知らない頃は、5Sとか改善活動とか、あるいは工程全体がきっちりと決められて動いているカンバン方式などは、窮屈なもので、かえって作業者の自主性を阻害するのではないかなどと思っていましたが、これはそうではありません。
 日本ののグローバルトップ企業の組織運営(マネジメント)は本当に洗練されており、従業員個人個人の役割と達成目標が絶えず話し合われ、共有され、本人にフィードバックされています。これはチームとしての力の発揮を最大の目標においているためで、組織のパフォーマンスが最重要目的で工場が動いているのは確かですが、チームを効率よく動かすための個々の構成員のモチベーションの確保や能力の開発なども車の両輪となっているからです。

 組織のチームワークの磨き上げよりも、個人の能力や属性に頼っているのは、グローバルトップ企業よりも、製造業では中小企業のほうによく見られますし、製造業よりも小売業やサービス業の企業にむしろ多く見られるような気がします。
 これはマニュアル化とは別次元の話です。マニュアルに従って作業することが、チーム全体にどういう役割を果たすのかが一人一人に納得されており、従業員もどう知ればさらにモチベーションが上がり、スキルアップもしていくかが企業単位や工場単位で共有され、話し合って改善する余地が設けられていることが重要なのです。

 これは、突き詰めると「生産性」の問題に行き当たります。日本の企業は、生産性(労働者一人が生み出す付加価値の額)が製造業は世界でも上位なのに、サービス業は製造業より劣っており、さらに国際的に見ても日本のサービス業の生産性は欧米に比べて低いという大きな課題を抱えています。サービス業の付加価値を高めることは喫緊の課題といってよいのですが、そのためにはこの工場のような5S活動や改善活動など、製造業の手法をサービス業に移転していく必要もあるでしょう。

 わしが工場見学したのはわずか1時間足らずでしたが、このように多くの気づきを与えてくれた機会でした。惜しむらくは、このような工場見学は、工場内の制約や秘密保持、安全確保等の観点から、関係者による少人数のものしか実施できないことです。もちろん、三重県を始め全国の、ほとんどの企業は中小企業なので、この工場のようなグローバル企業のマネができるはずはありません。できない理由はいくつも並べられるでしょう。しかし、自社にできる範囲で取り入れていく意欲のある中小企業経営者や従業員も決して少なくないはずです。これらの求める人々に、もっと工場見学の機会や、もしできるるなら経営や、従業員同士の意見交換の機会などが設けられれば、県内商工業の底上げにつながるのではないか、と強く感じました。

 

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