2014年12月8日月曜日

【読感】ビジネスをつくる仕事

 読書感想がたまってきたので、まとめて書いてみます。

 まずは、ビジネスをつくる仕事 小林敬幸著 (講談社現代新書) から。
 著者の小林さんは、東大卒業後に三井物産(株)に入社。シリコンバレー、マイクロソフトでの研修、台湾三井物産駐在、ネットライフ企画(株)の非常勤取締役などを経て、現在、三井物産(株)メディア事業部次長という方。つまり、起業家ではなく、エリートサラリーマンです。
 「ビジネスをつくる」というタイトルが、起業や独立開業の指南書のようなイメージを与えますが、この本の意図は必ずしも起業ばかりでなく、会社のような組織にあって新しい事業を立ち上げることも、ビジネスをつくる仕事と定義します。

 それは小林さん自身が、東京・お台場のパレットタウンにある巨大観覧車の企画・建設・運営に携わっていた経歴によるものです。
 小林さんが当時在籍していたデベロッパー企業にとって、観覧車の運営は単なる新規事業というだけでなく、まったく畑違いのレジャービジネスでした。しかし、大型商業施設の「目玉」としてばかりでなく、観覧車に乗って時間の消費を楽しむという、1999年の開業当時にはまだまだ一般的でなかった、今風に言えば「コト消費」の可能性にいち早く気付き、そのビジネス化を実現した結果、観覧車事業は大成功を収めたのです。
 そもそも事業自体に幾多の困難が伴ううえに、仮に失敗すれば個人保証によって全財産と社会的信用を失うリスクが高い個人起業よりも、企業の中で新規ビジネスを立ちあげ、それを大きく育てていくという「ビジネスのつくり方」のほうが、日本ではまだ成功の確率が高いと説きます。


 もう一つ、小林さんの成功体験は、日本で始めてのインターネット専業の生命保険会社 ライフネット生命 の創業に立ち会ったことです。それまでの日本の生命保険は、外交員が顧客に密着して営業を行う、きめ細かいもののコストは高い仕組みでした。そこで、「掛け捨て」「特約なし」そして「市価より3割安い掛け金」というビジネスモデルを構築し、短期間でネット専業の生保市場そのものを創造して、大きく成長させたのでした。

 このように独創的で、しかも行動力に裏打ちされた小林さんの成功体験を導いたのは、日頃のものの見方、考え方、情報収集の仕方、決断の下し方、仲間の集め方、といった彼自身の~そして彼を取り巻く優れた人々の~持っているノウハウです。
 この本は、そのノウハウを順序だてて紹介しているというのが、まあざっくり言って、内容です。

 日本のビジネス界に必要なのは「イノベーション」だとよく言われます。
 これは「革新」とか「創新」という意味で、技術やノウハウを組み合わせて、新しい製品やサービス、新しい市場などを作り出すことを意味します。
 それには技術革新も大切ではありますが、重要なのは科学技術の新規性よりも、アイデアやビジネスプランそのものの新規性と実現性です。このための原動力は洞察や発想であり、このブログでも以前触れたように、ある事象からイノベーションを洞察する暗黙知、すなわち「ビジネス・インサイト」と呼ばれるものです。

 イノベーションの重要性が日本で一般的に認識されるようになったのは、せいぜいここ10~20年のことですが、多くの企業や大学、行政機関がイノベーションを起こすことを目的にして研究や教育、事業を実施しながら、イノベーションを起こす方法は見つけられずにいます。
 というか、本質的に「インサイト」なので、そもそもマーケットインのビジネス発想からそこへ飛躍するか、教育によって身に付くか、行政が補助金を出して生まれるか、という矛盾をはらんでいます。
 もし、インサイトの創発が属人的な要素に帰せられるものだとするなら、その洞察や発想のヒントが列記されているのが本書の内容であると言ってもいいでしょう。

 くわしくは、多くの書評がネットやブログに出ているので、そちらをご参照下さい。(たとえば、「マインドマップ的読書感想文」2013年10月21日

 以下は蛇足ですが、わしにとって最も啓発的だったのは、小林さんが現代は「成熟社会」「成熟市場」であって、昭和型の方法は成功しないことを再三警告していることです。
 先進国という追いつく目標が存在した当時は、目標を実現するための技術革新や生産改善がイノベーションの王道でしたが、現代は「目標を見つけ出す」こと自体が大きなテーマであり、その手法としての事業創造(ビジネスをつくること)がより重要となっているのです。

 また、新しいビジネスが上手くいかないことが多い例を小林さんは幾つか挙げていますが、その中に「行政官庁主導によるビジネス普及」を挙げていることも注目すべきでしょう。政策は市場のニーズとは関係がないので、ニーズがなければ参入しても儲からないし、ニーズがあればみんなが一斉に参入するので過当競争になりやはり儲かりません。(小林さんは、その事例として、農業の構造改革事業としてかつて国策で進められたかんきつ栽培の例を挙げます。)
 官庁の言うことや世間に喧伝されている情報を鵜呑みにすることなく、自分で調べ、人に会い、判断する。このことの重要性を小林さんは何度も述べられています。これはわしらのような商工政策に関わる人間にとっても重いメッセージだと思います。

はんわし的評価 (★☆☆) 関心があれば一読の価値はあり 

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