2015年1月24日土曜日

「伊勢やまだ大学」特別講座に行ってみた

  伊勢やまだ大学が開催している特別講座「伊勢の海文化」が開催されたので行ってみました。

 伊勢やまだ大学とは、伊勢市内に10カ所ある商店街が構成している商店街連合会青年部の活動から生まれた組織であり、伊勢神宮・外宮(げくう)の門前町(鳥居前町)として発展してきた、そして今も駅や官公庁などがあって伊勢市の中心市街地となっている山田地区の賑わいを復活させようという趣旨で、山田のまち全体をキャンパスと見立てて「学びと交流の場」を提供していこうとするものです。

 わかりやすく言うと、賑わい再生に意欲のある全国の商店街で取り組まれている「まちゼミ」の一種と考えていいと思います。
 まちゼミは、商店街の商店主が講師となって、お客さんや地域住民を対象に、お店で扱っている商品やサービスの知識を披露したり、レシピや製法を教えたり、といったように、商店と顧客をつなげる取り組み(ゼミナール)がメインです。
 伊勢やまだ大学にもそのようなゼミはあるのですが、これとは別に、伊勢神宮・外宮のお膝元ということで、神宮の歴史や伊勢の街の歴史・文化、産業などについて識者から学ぶ特別講座も開かれています。
 わしが行ったのも、この特別講座ほうで、「伊勢の海文化」をテーマに北村物産(株)の北村裕司さんからお話をお聞きしました。


 北村さんが社長を務めている北村物産は、伊勢市内で200年も続く、海藻の加工や販売を行っている会社で、北村社長で十代目になるそうです。
 伊勢市は遅くとも明治時代には海藻の加工メーカーが沿岸部に集積していた一大産地で、「伊勢ひじき」は地域特産品として有名です。(三重県が地産地消の産品を認証している「三重ブランド」にも伊勢ひじきは選定されています。)
 現在は、中国や韓国から大量のひじきが輸入されていますが、これら輸入分と、三重県や九州など国内で収穫しているひじきの総取扱量の半分は、伊勢市内とその周辺に集積している海藻メーカーが取り扱っているとのことです。

 伊勢神宮は、内宮も外宮も海から遠く離れた場所に建っているので海とのつながりはあまりピンとこないのですが、伊勢神宮、そして伊勢のまち(なかんずく山田地区)と意味は切っても切り離せない関係にあります。
 日本書紀によると、その昔、天照大神の鎮座地を探し求めて全国を巡行していた倭姫命(やまとひめのみこと)が、現在の伊勢市に来た時、「この伊勢の国は常世の波がしきりに打ち寄せる国である。大和の傍わらにある国で、美しいよい国である。この国におりたい。」と大神がご託宣を述べられたことから鎮座が決まったとされています。
 つまり、東に面した海があったことがご鎮座の理由なのです。(史実としては、5世紀ごろの大和政権の統治の東限がこのあたりだったことと関係しているそうですが。)

 北村さんによると、伊勢神宮と海との関係は、神様の食事である「御饌(みけ)」のメニューからもうかがえます。御饌に使用される食材は、酒、米(飯、餅)など30種類以上ありますが、このうち海産物は半分近くを占めています。具体的には、伊勢海老、カマス、サメ、サザエなどの魚介と、のし鮑、干鯛、干ナマコ、鰹節、こんぶなどの加工品(乾燥品)などであり、これは伊勢神宮の近くに広がっている伊勢湾がいかに豊かな漁場であったかも示しているそうです。
 江戸時代には多くの庶民がお伊勢参りをしましたが、その旅日記などの記録を見ると、参宮客をもてなした料理は、やはりアワビやサザエ、伊勢海老、鯛、ボラ、ナマコなど非常に豪勢な海の幸だったようです。

 ではなぜ、伊勢湾は豊かな漁場なのでしょうか。北村さんのお話は非常に興味深いものでした。
 豊かさの大きな理由の一つが、伊勢湾は(今でも)日本最大の河川水流入量がある湾であるということだそうです。伊勢湾には、木曽川、長良川、揖斐川のいわゆる「木曽三川」の豊かな水が流れ込みます。さらに鈴鹿山脈からの鈴鹿川と雲出川、大台山脈からの櫛田川と宮川も流れ込みます。これが山からの豊富なミネラルを伊勢湾に届ける働きをしており、多種多様な海の幸を育んでいます。
 また、伊勢湾の湾口部に当たる志摩半島はリアス式海岸で、遠浅な岩場であるためアマモなどの海藻が繁茂し、魚の成育や海岸環境の保持に大きな役割を果たしていました。志摩半島周辺で今でも海女漁が盛んなのは、やはりアワビやナマコなどを豊富に育てる海だからです。

 しかし、そのような伊勢湾の環境は、戦後の高度経済成長期を迎えると大きく変貌してしまいます。河川水はダムや堰の建設で流入が減少してしまいました。海岸の埋め立てや水質の悪化でアマモの繁茂区域も激減し、これらによって水産資源が減少して、十分な水揚げが得られないために漁業が衰退し、それによってさらに海が荒れ、という悪循環に陥ってしまいます。

 関係各位の尽力によって伊勢湾の水質はだいぶ改善しましたが、海文化を回復していくための象徴的なものが、海女漁の再興です。北村さんは、海女漁を世界遺産登録しようという活動に携わっておられますが、志摩半島や鳥羽の離島での海女漁は5000年前から続いていると考えられており、生業であるとともに、漁村の文化を体現している生活様式そのものです。海女同士で厳しいルールが設けられ、乱獲を防いで水産資源を守る知恵が伝承されており、さらに体力的にもきつい仕事に一緒に従事する仲間として連帯感が育まれ、地域コミュニティも強固に残っています。北村さんによれば、これらを後世に伝えていくことは重要であり、これからも世界遺産登録に向けて努力していくとのことでした。

 同時に、海女さんたちの所得を引き上げるために、獲ったアワビなどをただ市場に降ろすだけでなく、自分たちで加工し、付加価値を付けて高く販売することで収入をアップするお手伝いもしているとのこと。
 このように海女さんが自ら加工したり、プロデュースした商品を「海女もん」としてブランド化し、販路拡大に取り組んでいるそうです。

 これら、「伊勢と海文化」(正確には「伊勢志摩と海文化」というべきでしょうか)のお話しに加え、北村さんの本業である、ひじきの知識もいろいろ披露してくださり、全部で10名ほどの聴講者からの質問や意見交換も活発で、大変有意義な特別講座でした。北村さんを始め、関係の皆様に感謝いたします。

 なお、伊勢やまだ大学では、2月からまちゼミ(お店ゼミ)を本格的にスタートします。
 内容は、着物店が教える着物のたたみ方講座や、帯と小物の合わせ方講座、園芸店が教えるフラワーアレンジメント講座など、34講座が開かれます。中には銀行員が教えるお札の数え方教室なんていうのもあります。参加申し込みは1月23日からスタートしており、受講料は原則無料だそうなので、ご関心がある方はぜひ伊勢やまだ大学ホームページをご覧ください。

■伊勢やまだ大学   http://ise-yamada.jp/

■北村物産株式会社   http://www.hijiki.jp/

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