2015年1月3日土曜日

高速道路開通が東紀州にもたらしたもの

 紀南新聞 onlineを見ていたら、昨年12月28日付けの「安全・物流・経済など各方面で効果を発揮 高速道路開通」という記事を見つけました。
 三重県東紀州地域(三重県南部の、尾鷲市、熊野市、紀北町、御浜町、紀宝町の2市3町からなる地域)は、平成25年9月の熊野尾鷲道路(尾鷲南IC~熊野大泊IC)の全線開通と、平成26年3月の紀勢自動車道(紀勢大内山IC~尾鷲北IC)の全線開通により、交通の利便性が大きく向上しました。その結果、交通需要の増加、交通事故の減少、地域経済への波及効果など、各方面において効果を上げていると報じています。(紀南新聞へのリンクはこちら

 この記事の元ネタは国土交通省紀勢国道事務所が12月19日に行った各マスコミへの資料提供のようです。
 紀勢国道事務所のホームページによると、高速道路の開通による交通安全・物流・経済面等の変化について調査したものを、東紀州地域高速道路整備効果検討会なる組織(三重県と地元の2市3町、NEXCO中日本及び国交省紀勢国道事務所から構成)が取りまとめのうえ公表したものだそうです。
 この資料で示されている調査結果項目は以下の5つです。

1)交通需要の増加
・紀勢自動車道・熊野尾鷲道路の開通に伴い、既に開通していた紀勢自動車道の有料区間(勢和多気JCT~紀勢大内山IC)の交通量が約1~2割増加している。
2)走行経費の削減
・国道42号の難所であり、急カーブ・急勾配が連続する4つの峠(荷坂峠・鷲毛峠・矢ノ川(やのこ)峠・佐田坂(さださか)が回避され、距離も短縮されたことにより、燃料消費量・タイヤ損耗などの走行経費が削減されている。
3)交通事故が減少
・高速道路と国道42号を合わせた交通事故件数は約3割減少するとともに、死傷事故件数も約7割減少している。
4)アクセス向上による地域への経済的波及効果
・紀南中核的交流施設として整備された「里創人 熊野倶楽部」では、遠方からの宿泊者、初来館の宿泊者が増加するとともに、売上額が約3割増加している。
5)地域の主要産業の安定供給を支援
・アクセス性の向上や災害時のダブルネットワークが確保されたことにより、地域の主要産業である「さかな・みかん・牛乳」などの安定的出荷に効果の声が寄せられている。


紀勢国道事務所HPより

 わしが個人的に関心を持つのは、高速道路は開通しても、ほとんどの区間は従来の幹線国道であった42号線と並走する形になっているので、高速道の交通量は増えても42号の通行量は減っているのではないか、すなわちトータルとしての通行量は変わらないのではないか?ということです。
 もしそうだとすると、今まで国道42号沿いで営業していたドライブインや小売店などはそもそも商機が減ってしまい、最悪の場合、東紀州は愛知や静岡などから勝浦や白浜や熊野三山といった(和歌山県の)有名観光地に向かうための通過地点になってしまう可能性さえ出てきます。

 この資料によると、実はそのあたりが明確ではありません。交通需要が増加したとありますが、これは紀勢自動車道の入口の部分(勢和多気JCT以南)が全通によって増加したというだけのことで、本当の意味での東紀州の総需要が喚起されたかどうかはこの資料ではわからないからです。
 しかし、少なくとも昨年はユネスコ世界遺産の熊野古道が世界遺産に指定されて10周年だったという効果もあって、熊野古道への観光客数が統計開始以来最高の40万人以上になる見込みであることは、確かに高速道路の成果といっていいでしょう。

 興味深く思ったのは、2の「走行経費の削減」とか、5の「地域の主要産業の安定供給」という部分です。高速は42号に比べてカーブも起伏も各段に少ないので、コスト削減と時間厳守が重要課題である運送業者にとっては、2は喜ばしい結果でしょう。また、もともと雨量が多い東紀州では大雨のたびに42号が通行止めになるので、比較的通行止めになりにくい(ただしこれは検証必要?)高速の持つ安定感というか安心感は、やはり運送業者や観光業者にとっては大きなメリットだと思います。
 さらに、3の「交通事故の減少」というのも、一般道が険しいうえにドライバーの高齢化が進む東紀州地域だからこそ特にクローズアップされてきたメリットかもしれません。


 以下は余談。
 国土交通省が、かつての公共工事ムダ遣い論の批判を浴びて、ここ十数年は情報提供に積極的になっていることは、大変いいことだと思います。(この点はわしも同業者として見習いたいです。)
 この紀勢自動車道、熊野尾鷲道路の建設には、間違いなく数兆円規模の国費が投ぜられています。しかも大部分(紀伊長島IC以南)は無料通行区間なので、建設費の償還と、今後の維持管理・補修にも半永久的に巨額の国費の支出が続きます。
 これは政治的な決断でやむを得ないこととしても、道路の活用状況や各種の波及効果についてこれからも定期的に調査を行い、きちんと評価・検証していくことが、この道路に関わる全ての人の義務といっていいでしょう。

 一方で、「経済的な波及効果」については、今回のこの調査に限らずインフラ整備に関しては、やや眉唾的なものがあります。
 この調査では、顕著な波及効果の例として高級ホテルである「熊野倶楽部」や、ドライブインの「おとと」(尾鷲物産(株))、農産物直売所「さぎりの里」などを挙げていますが、これらの調査地点は任意な選択で、実際には開通によって寂れた、つまり一般道から高速道へクルマがシフトしたため商機を失った商業施設の事例も東紀州には少なくありません。事業所や事務所、学校の流出といった「ストロー現象」も、どこかで生まれていることは間違いありません。
 そのマイナスをプラスで相殺したとして、その結果、トータルで経済効果は増加しているのか。実際の調査は非常に難しいのですが、本当の論点はそこにあります。

 もっとも、優勝劣敗は資本主義のルールであって、企業が新陳代謝していくのも避けられないことではあります。今後の地域活性化にどれだけ高速道路を活用していけるか、皆で知恵を絞る必要があるでしょう。

3 件のコメント:

熊野市民 さんのコメント...

東紀州の人口減少が止まらない中、高速道路は地域活性化の手段と言うより衰退していく苦しみを緩和するために不可欠なものだと思います。
例えれば、体を鍛える筋トレ器具ではなく、弱った体を助ける介護ベットのイメージです。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 ホンネは「介護ベッド」だとしても、そのために投じた建設費と時間は膨大すぎます。
 今まで東紀州は、高規格道路もないので産地間競争に互角に戦えないという言い訳が許されていましたが、もうその理屈は通用しないのですから何とか反転攻勢する地域振興モデルを作っていただきたいと思います。

北海道民 さんのコメント...

はんわしさま

いつも、記事を師匠の金言と思い楽しく拝見しております。
高速道路と一般道の共食い現象に関する経済の一考察、ごもっともと思います。
わが、北海道も巨額の国費が投下されあまねく開発されておりますが、いつかツケを払う日が来ると思います。
私は真の活性化策は、資本投下ではなく資本創造だと考えております。

今後も楽しく拝読させていただきます。