2015年2月2日月曜日

20分でわかる、ピケティ完全理解

 流行に乗って、トマ・ピケティの特集を組んでいる週刊東洋経済を買ってみました。
 ピケティ氏はパリ経済学校教授で、昨年4月に刊行された著書「21世紀の資本」が世界的ベストセラーとなっている、話題の人物です。

 日本語訳も昨年末に出版され、わしもあるとき書店で見かけたのですが、数百ページもあるという大書で、しかも6千円近くもする高価な本なので、到底読了する自信はなく、日本でも学術書としては異例のベストセラーになっていると聞いたのですが、本当にこれを読んで理解できる人がいるのかしらんと思い、おそらく数年前のマイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」のように、一時期は熱気で買ってしまうのだけれど実際にはほとんど読者はついていくことができず、ブームが去ると古本屋に大量に出回っていた、きっとあんなことにピケティ先生もなるであろうと、購入は断念しました。

 そんな中、大部の本冊は読めないけどエッセンスは知りたいという人のために、解説本、いわゆるアンチョコもたくさん出版されるようになりました。週刊東洋経済の1月31日号もその一つで、なんとあの世界的ベストセラーが20分でわかるというのです。これならなんとかなるかもしれん、と考え、購入してみました。
 かなり有名ですが、この本で言うピケティ氏の説は次のようなものです。


 20世紀初頭まできわめて大きかった所得や資本の格差は、第一次、第二次世界大戦や、各国政府による富裕層への課税強化などで次第に圧縮されてきた。
 しかし1970年代以降は、金融自由化や累進課税の緩和によって先進諸国の国内格差は再び増大してきている。
 最も格差が大きいのはアメリカで、上位0.1%の富裕層が国民所得の約8%を取っている。上位1%まで広げると、国民所得の20%はこの人々が得ている。
 また、アメリカは資本所得と労働所得の差だけでなく、労働所得にも大きな格差がある。少数に過ぎない大企業のトップ重役は超高額の報酬を得ており、現場社員との格差が固定化している。
 ヨーロッパや日本は、アメリカよりはマシなものの、累進課税などの制度が破壊されれば富の格差は広がるだろう。

 それではなぜ、富裕層はますます富裕になり、資産を持たない一般労働者は豊かになれないのでしょうか。
 ピケティ氏は税務資料を300年間の過去にさかのぼって分析した結果、r>gという不等式を結論付けました。

 株とか不動産、債券などへの投資による資本収益率(r)は、経済成長率(=国内のあらゆる経済活動によって生み出される付加価値(GDP)の毎年の伸び率)(g)を常に上回るという歴史的事実がある。

 というのです。

 東洋経済の記事によると、資産への投資や運用による利益である資本収益率はおおむね4~5%で推移していますが、先進国の経済成長率は今やせいぜい2~3%くらいです。資産と労働の格差である「資本/所得比」は20世紀の半ばのヨーロッパでは低かったのですが、これはこの時代の経済成長率は比較的高かったことと、国民の貯蓄率が低かったためです。
 高度成長期を過ぎて経済が成熟してくると、経済成長率は低くなる一方、国民の貯蓄率は高値安定しています。これにより「資本/所得比」が反転傾向となり、これから先、先進国の経済成長率はますます低下するので、貯蓄率が今の水準で推移すれば、ますます「資本/所得比」が大きくなる=資産を持つ人と持たない人の格差が広がっていくことになるであろうとのことです。

 なんだかけっこうややこしいのですが、まあ、原理は何となく理解できる気はします。21世紀の資本が大部なのは、過去3世紀に渡るデータ解析の実証に多くのページが割かれているためだそうです。

 で、結論。
 ピケティ氏は格差を抑止するために、資本に対して国際的な累進課税を行うことを提唱しているとのことですが、ここまでくるとスケールが大きすぎて理解不能だし、ピケティさん自身も「世界的な資本課税というのは空想的な発想だ」と自嘲的なコメントもしているそうです。
 タックスヘイブンとか、一部の大企業の行動が問題になっている海外子会社とのやり取りなどで租税を回避するテクニックへの規制といった、複雑で政治的にも難しい課題になってくるためでしょう。

 まあ、学術書なのでこれを読んで明日からのわしらの生活が何か変わるかと言うと、それは考えにくいのですが、ただ、日本でも根強い「格差論」に新たな火が付く可能性は高いでしょう。
 日本でも持つ人と持たざる人の格差は開いていると言われています。しかし、ジニ係数のような実証的なデータを見ると、事実としてはそれほど深刻ではないという反論もあって、しかも日本は急激な高齢化とか、若者の就労が不安定であるとかの問題も加わり、格差が「世代格差」とか「地域格差」、「正社員と非正規社員(いい表現ではありませんが)格差」など論点が広がっています。

 一般的に考えて、資産を持つ人は安定的な運用を望むため社会の変革は希望しません。一方で、硬直化した社会では持たざる人にはチャンスが生まれないことから、そのような人々は新規参入やルール改正などの社会変革を望むようになります。日本は世代間バランスが崩れているせいもあって、社会全体の改革期待が低く、活力も弱い社会になってしまっているのは事実かと思います。
 このような日本の現状に一石を投じる意味では、ピケティ氏の本を掘り下げて読むことは有用なのかもしれません。
 資産家というと大株主とか不動産王のようなイメージを持ちがちですが、ミクロでは、各地域地域にも地主とか山持ちのような中小資産家がいます。彼らは長らく地域経済や地方行政をリードしてきましたが、産業構造の変化によって衰退していきました。資本収益率が高い水準で安定推移しているというのはマクロとしてはそうなのでしょうが、資本の中身が具体的に何を指しているのかも知りたい気がしました。まあ、原本を読めばわかるということか。

■東洋経済オンライン  ピケティ「21世紀の資本論」が指摘したこと(リンク

■山形浩生 の「経済のトリセツ」  ピケティ『21世紀䛾資本』訳者解説(PDFファイル。リンク

0 件のコメント: