2015年2月21日土曜日

象とネズミ

 時事通信社の官庁速報に、NPO法人に信用保証=雇用創出など考慮―中小企業庁 という記事が載っていました。(平成27年2月19日付け)
 中小企業庁(はんわし注:経済産業省の外局)が、中小企業が金融機関から運転資金などを借り入れるときに、公的な機関が債務保証を行う「信用保証制度」の対象に、NPO法人も加えることとした、というものです。
 NPO法人は非営利活動を行う組織であり、営利を目的としている株式会社などと行動原理が異なっています。しかし、誤解されがちですが、これは収益事業(営利事業)を行ってはいけないという意味ではなく、事業で得られた収益を出資者に分配(配当)してはいけないという意味です。
 よく知られているように、現実にはNPO法人が介護事業とか保育事業など、または、地域の課題を解決するビジネス(コミュニティビジネス、ソーシャルビジネス)といったような収益事業を行い、地域で雇用を生んでいるケースは無数にあることから、これらのビジネスを行政も経営面、資金面で支えていく必要性が高まってきていました。
 中小企業庁は中小企業の信用保証制度を規定している中小企業信用保険法を改正して、NPO法人を制度対象に加えるとともに、制度の運用については、中小企業と同じく「事業を行っているNPO法人」に限り保証を行うこととし、寄付金などが中心のボランティア活動ではなく、コミュニティビジネスのような収益事業を継続して行っていることや、収益によって雇用を創出していることなどを適用の判断基準とするとのことです。
 実はわし、このニュースを見て喜ばしかったと同時に、少しく複雑な気持ちに打たれました。

 それは、わしがコミュニティビジネスの振興に初めて関わった10年ほども前から、有識者や関係者の間で指摘されてきたこと、その当然のことが、ようやく実現したからです。
 三重県庁は、全国の他の道府県より比較的先駆けた時期にコミュニティビジネスの重要性に着目し、商工政策、つまり地域産業の活性化施策の一つとしてコミュニティビジネスの振興を位置づけ、有識者による研究会の開催や、支援人材(インターミディアリー)の育成などを行っていました。
 その当時から、日替わりシェフによるレストランや、外国人との共生事業の実施、就農体験を通じた若者育成などのコミュニティビジネスに取り組んでいるNPO組織は多くあり、これらの経営者や関係者は、次のようなことを指摘していました。

1)コミュニティビジネスは地域の資源や地域の人材を活用して課題を解決する事業なので、最初から大きな投資をして起業するのでなく、小さく始めて大きく育てるという経営戦略が重要。

2)起業資金などの初期投資は行政による補助金や低利融資があるが、実際に資金需要がひっ迫してくるのは、事業が軌道に乗って、次のステップに上昇して行こうという、起業からおおよそ3~5年後であるケースが多い。

3)しかし、個人事業主やNPOによる事業の場合、会社組織でる一般的な中小企業に比べて信用力が低く、なかなか融資してくれる金融機関がない。また、行政による支援メニューも少ない。

4)行政がコミュニティビジネスを支援するのに有効な手段は、起業する人への支援もさることながら、彼らの事業が進んできた時に経営相談ができるアドバイザーの養成や、事業者向けの運転資金、設備投資資金の融資制度の充実である。

 この指摘は現在でもほぼ通用する内容と思います。
 しかしながら、県庁という縦割り組織の行政機関の中では、企業を支援すべき商工部局がそもそも商工政策としてNPOを支援するのはいかがなものか・・・といった意見は根強く、NPOが果たす雇用創出機能や、地域内でヒト・モノ・カネが循環するコミュニティビジネスの重要性についての無理解が横行していました。
 
 その結果、これらの重要な指摘、特に資金需要に関する指摘は行政に提言されっぱなしのまま放置され、いつの間にか三重県自体がコミュニティティビジネス先進県の座から消えてしまったという事情がありました。

 それがやっと今回の中小企業庁の法改正によって解決することになるわけで、これは間違いなく喜ばしいことです。

 同時に、わしが思ったのは、やはり三重県のような政策立案・実行力も財政力も中位の県では、国(中央省庁)が動かないと、なかなか独自の先進的な施策はやりにくい組織風土であるということです。
 もし県というネズミが、10年前に小回りを利かせて、県独自の ~小さな取り組みにせよ~ NPO法人への信用保証制度を創設・拡充していたら、介護、育児、教育、多文化共生、防犯防災といったようなコミュニティビジネスはもっと活発であり、より多くの雇用が創出されていたことでしょう。
 しかしネズミの時計はそのままでした。大きな象(国)がのっしのっしと歩み出すと、顔色をうかがっていたネズミもようやっと後ろを歩き出すのです。

 このような事象は、なにもコミュニティビジネスに限らず、地域産業振興施策に限りません。ほとんどあらゆる行政分野において、ネズミは象を見つめているだけなのです。決して先を走って行こうとはしません。そのことが今回、はからずも再認識できることとなったわけで、わしとしては少々複雑な思いに駆られたのです。
 

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