2015年2月4日水曜日

国主導による「地方創生」の危険性

 本日(2月4日)の日本経済新聞朝刊の「経済教室」に掲載された、片山善博慶応大学教授 による 地方創生策を問う(上) 富の域外流出防ぐ工夫を という小論文には快哉を叫んだ関係者も多かったのではないでしょうか。(日経新聞記事へのリンクはこちら

 政府が提唱する地方創生は、消滅可能性自治体などといったセンセーショナルなキャンペーンが起こってきたこともあって、ほぼすべての道府県と市町村にとって避けられない同調圧力になっています。
 政府が有利な交付金制度を準備(予算措置)するこの時期、地方再生計画が提出できない地方自治体は、日ごろから問題意識を持たない低レベルな自治体であって、今後は淘汰され消滅することも避けられない、という意見すら公然と出てきている状況です。
 このような、政府による前のめりの姿勢と、それに迎合する(という表現が悪ければ、否応なく同調せざるを得ない)自治体関係者に対して、大きな危惧を示しているのが片山論文です。
 そのポイントは、論文最後の「まとめ」にある
○過去の対策の検証なく失敗繰り返す懸念
○再生エネは有望だが地元運営が必須条件
○国は地方に結果をせかす前に自ら改革を
 という3つに集約されるのですが、これは非常に示唆に富む内容なので、ぜひ多くの関係者にお読みいただきたいと思います。
 このダイジェストとわしの個人的感想をメモしておきます。


1)過去の対策の検証なく失敗繰り返す懸念(はんわし抄)
 疲弊する地方経済の立て直しや雇用の創出に、政府はこれまでも、地域活性化、過疎対策、地方拠点都市構想、離島振興、半島振興などさまざまな対策を講じてきた。しかし巨費が投じられ続けてきた結果が、今日の地方のありさまである。
 ならば今回の地方創生はこれまでの施策とは違ったものでなくてはならず、いみじくも安倍首相が「これまでとは異次元の施策」と語ったことは認識としては正しい。
 ところが、実際には今回の地方創生も、施策の大筋は従来とほとんど変わるところがない。これまでの施策の悪かった点、欠けていた点の点検が不可欠なのに、それをした形跡がない。過去の検証がなければ、今後に生かすべき教訓もない。これまでと似たことが今回も繰り返されるのではと懸念せざるを得ない。
 その理由は、政府のあまりの性急さである。
 政策を具体化するのは国ではなく地方自治体だが、いついつまでに計画を作って提出すべしと国は自治体をことさら急(せ)かす。知恵を出せ、工夫せよとやたらせっつかれ、補正予算だから早く着手し、執行せねばならないと言われても、妙案がにわかに出せるはずもない。そもそも地方経済が停滞している原因は何か。地方はまずその要因を把握することから始めなければならない。それをしないでやみくもに箱物やイベントに予算を投下しても事態は一向に好転しないだろう。

2)再生エネは有望だが地元運営が必須条件(はんわし抄)
 多くの地方に共通する構造的な問題は、「国際収支」が大赤字なことである。一つの県(市町村)を独立国と見立て、域外への「輸出」と域外からの「輸入」を比較すると、「輸入」が「輸出」を大幅に上回っている。「輸入」が「輸出」を上回れば、地域からは金も雇用も失われる。「国際収支」が大赤字な地域からは、(ギリシャのように)若者が都会へ(域外へ)流出していく。
 この構造を変えるには「国際収支」の改善しかなく、それには「輸出」を増やすか「輸入」を減らすかしかない。しかし企業誘致や特産品開発、観光振興で輸出を増やすことは、地域間競争が厳しい現在では容易ではない。
 最も確実なのは、「輸入」を減らすことであり、「輸入品」の代表は石油や電気などのエネルギーなので、「輸入エネルギー」を「国産エネルギー」に代替させること、つまり風力発電、小水力発電、木質バイオマス利用を進めて「輸入」を減らすことである。地方創生予算は再生エネルギー開発費にも充てられるそうなので、「国際収支」を少しずつ改善することはできる。
 その際に重要なのは、開発の成果が地元に還元されるべきことで、それには資本の地元調達が不可欠である。発電施設の維持管理も、地元の企業などが引き受けることでこそ新しい雇用が生まれる。このような調整をまとめるには時間を要するのに、短い期間で計画を提出せよと言われたのでは、段取りはできずじまいに終わる。結局、地方自治体は計画をコンサルタント会社に丸投げし、事業は東京などの企業に進出してもらうしかなくなり、成果は域外に持っていかれる。なので「国際収支」の改善にはつながらない。

3)国は地方に結果をせかす前に自ら改革を(はんわし抄)
 国は地方自治体を急かす割には、自らがやるべきことには悠長で、サボタージュとさえ言える。国がやるべきことの一つは東京一極集中を是正すべく、政府などの機能を地方に移転させる「首都機能移転」である。そのための法律が、20年ほど前に制定されているのに、ほとんど何も手がついていない。自民党の平成27年度税制改正大綱には「企業の本社機能などの地方移転を促進するため、法人税の優遇措置を講じる」とあり、趣旨には賛同する。しかし企業本社の多くが東京にあるのは東京に政治や行政の中枢機能が集中しているためで、国は企業の尻をたたく前に、自らの本社機能ともいうべき首都機能を地方に移転させるのが先決ではないか。
 北海道を道州制のモデルにするために政府の権限を北海道に大胆に移譲するとされた北海道道州制特区もそうだ。特区により地域の実情に応じた自主的な地域づくりが可能になれば、まさしく北海道の地方創生の切り札になるはずである。しかし、これまで北海道に移譲された権限は「商工会議所の定款変更の認可権」くらい。特区指定以来8年たつのに、この体たらくである。国にはまったく取り組む姿勢が見られない。地方自治体に対しては、やれ知恵を出せ、工夫せよというが、国はいったい何をしているのか。

 以上が抄録です。本質的な問題点が見事に指摘されています。

 かねがね関係者が(わしも含め)指摘しているのは、これらの地方活性化事業はあくまでも「国の事業」であり、「国が地方に恩恵を与える」というコンセプトで作られていることです。
 事業の予算やスケジュールはすべて国の都合で決められ、地方の事情は斟酌されません。時間切れになるとそもそも予算がもらえなくなるので、自治体は生煮えの(ほかならぬ地域住民が初耳だったりする)事業を計画に盛り込んでまでまずは予算の獲得に奔走します。
 知事や市町村長、議員なども基本的に予算の分捕り、それも華々しい、マスコミ受けする事業での予算獲得しか念頭にないので、注目するのは量であって質には無関心です。
 そんな彼らに対して、地域住民は数年ごとに手を変え品を変え生まれてくる地域活性化施策に翻弄され、疲れ切ってしまっていることさえ珍しくありません。

 単年度予算主義、予算の使い切り主義、成果検証の不十分さ(PDCAサイクルの欠如)を克服しない限り、安倍内閣の地方創生も無駄な浪費に終わるのではないか、というのは片山さんを始め、関係者に共通している危惧ではないでしょうか。

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