2015年3月25日水曜日

日本の家計は本当にリスク回避的か?

 日本政策金融公庫論集の第26号(2015年2月)に、日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員 竹内英二氏による「中小企業やNPOの可能性を広げるクラウドファンディング」という論文が掲載されています。
 中小企業やNPO法人の資金需要には、不確実性の高い新規事業や、収益を目的としない慈善事業などのように銀行やベンチャーキャピタルといった既存の金融機関では満たせないものが少なくありません。
 しかしその一方で、日本の家計は多額の金融資産を保有しています。その一部でも起業や社会的問題の解決に振り向けられれば、既存の金融システムではミスマッチな資金需要は多くが満たされるかもしれません。
 この問題を解決するのが、今注目されているクラウドファンディングです。起業家やNPOなど資金ニーズを持つ者と家計を結びつけるには、互いの存在を知り合う機会がなく、多額の取引コストも必要でしたが、クラウドファンディングはインターネットを使うことで資金需要者と供給者のマッチング機会を作り出すことができます。
 日本でも10年ほど前からクラウドファンディングによる資金創出が徐々に浸透してきており、それによってビジネス的に成功した事例も輩出してきています。


 竹内氏によれば、クラウドファンディングは、供給者(投資家)が受け取るリターンによって、次の4種類の大別できます。

1.融資型
 資金を必要とする個人や企業(資金需要者)が、資金使途や金利、返済期間などをウェブサイト上に掲載し、資金供給者は掲載された人や企業のリスク、金利、返済期間などを勘案して融資するもの。
 日本では投資家が個別の融資案件を自ら選ぶのではなく、クラウドファンディング運営会社が複数の借り手を集めて組成したファンドに資金を提供するバスケット方式である。このため、投資家も借り手も互いの顔が見えず、確実に収益が見込めるビジネス目的での利用に限られてしまっており、従来のノンバンクと大差のないものになっている。

2.購入型
 資金需要者が、提供者に何らかの権利や商品、サービスを販売し、集めた代金でプロジェクトを実行するもの。資金需要者はプロジェクトを遂行しなければならないが、融資ではないので資金を返済する必要も、配当や利子を支払う必要もない。
 READYFORCAMPFIREMotionGallery などのサービスが有名。

3.寄付型
 資金需要者がウェブサイトに資金を必要とするプロジェクトを掲載し、資金提供者が自らプロジェクトを選んで支援する仕組み。購入型クラウドファンディングと同じであるが、資金使途は非営利の公益目的活動に限られ、ビジネスでは利用できない。寄付なので資金提供者へのリターンを用意する必要もない。Just GivingGive Oneなどのサービスがある。

4.投資型
 投資型には、さらに株式型とファンド型の2種類がある。株式型は日本証券業協会の自主規制によって日本では今のところサービスは提供されていない。
 ファンド型は投資家が企業と匿名組合契約を結んで出資するもの。企業が個々の投資家と契約を交わし、金銭をやりとりするのは困難なため、クラウドファンディング運営会社が双方から手数料をとって仲介する。
 ミュージックセキュリティーズの「セキュリテ」や、㈱クラウドファンディングのjitsugenがある。

 クラウドファンディングの実際の運用について事例も取り上げられており、詳しくはぜひ本文をお読みいただきたいのですが、活用のポイントとしては、
・プロジェクトの成果である製品やサービス、社会への影響に、投資家が共感するかどうかが最も重要である。
・資金需要者にとって、クラウドファンディングのメリットは資金調達に限らない。仮説の検証やテストマーケティング、広告効果や見込み客の確保といった効果も見込める。
・アイデアが盗用されるリスクなどデメリットもあるが、小規模な事業にとってはメリットの方が大きい。
 とされており、クラウドファンディングのマーケットが拡大するために、優れたアイデアをもった中小企業やNPO法人が積極的に利用することが期待される、と結んでいます。

 興味深いのは、竹内氏が本文の中で、日本の家計は本当にリスク回避的か?と問うている部分です。
 日本でのクラウドファンディング普及の理由の一つとしてあげられる「家計が持つ1645兆円もの膨大な金融資産」の蓄積の原因は、日本の家計がリスク回避的であるためと理解されています。
 家計の金融資産の5割強は「現金・預金」であり、リスクの高い「株式・出資金」は近年増加傾向にあるものの、これは株式相場の上昇が原因で、家計による株式の購入が活発になったためではありません。
 しかし、その一方で、日本政策金融公庫総合研究所が毎年行っている「新規開業実態調査」によると、開業資金を友人や知人、事業の賛同者から調達した起業家の割合は、つねに数パーセントあります。2013年度調査では6.4%の起業家が、平均で472万円を周囲の人から集めているのです。
 また、非営利団体では、投資や融資のほか「寄付」が重要な資金調達手段ですが、日本では寄付文化が根付いていないと言われる一面、日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2013」によると、15歳以上人口のうち寄付を行った人の割合は46.7%で、寄付金額は6,931億円にもなります。
 日本の家計がまったくリスク回避的なわけではなく、既存の金融システムになじまない資金の一部は、これまでも家計から供給されてきた事実は確かにあるのです。

 日本は成長から成熟へと経済トレンドが変わりつつあります。これは生産者側の意識だけでなく、生活者、資金提供者の意識もそう変わりつつあると見ていいでしょう。
 成熟社会では、モノではなく「モノガタリ」が重要で、作り手や提供者への共感がいかに消費者から得られるかが大事になります。
 この流れの中で資金調達を考える時、三重県の中小企業やNPOも、もっと前向きにクラウドファンディングの活用を考えても良いのではないでしょうか。
 また、行政によるいわゆる産業振興施策においても、クラウドファンディング活用スキルの向上支援などはもっと充実させていくべきかもしれません。

■日本政策金融公庫論集  https://www.jfc.go.jp/n/findings/kouko_ronsyu.html

0 件のコメント: