2015年3月27日金曜日

【読感】なぜ川崎モデルは成功したのか?

 先日、津市役所主催による津市産業振興セミナーで、シンクタンク・ソフィアバンク代表の藤沢久美さんの講演を聞いてきました。

 最初はその講演内容をこのブログで取り上げようと思っていたのですが、この時のお話は、正直言ってあまり新味がありませんでした。
 藤沢さんが10年ほど前から参加しているダボス会議において、世界のエリートたちはどんなことを話し合っているのか、とか、変化が早い時代なので経営者は現状にこだわるのでなく常に変化を先取らなくてはいけない、とか、日本の中小企業はすばらしい製品やサービスを持っていてもアピールするのが下手なので知られることがないが、実際には世界中に大きな需要があるのだからどんどん海外に出るべきである、とかいった話で、要するに巷間よく言われているような一般的な内容でした。
 もちろん、経済の第一線に立っている藤沢さんの語る言葉だからこそ信が置け、いっそうの説得力が感じられるわけですが。

 まあしかし、講演を聞いたことがきっかけで、実はまだ読んでいなかった藤沢さんの著書 なぜ川崎モデルは成功したのか?(実業之日本社) を読むことにし、やっと読了したのでレビューしてみます。
 副題が「中小企業支援にイノベーションを起こした川崎市役所」とあります。きっとこれは川崎市は相当に画期的な支援方法を行っているのだろうと思いましたが、しかし同時に、わしは恥ずかしながら中小企業振興業界に長く身を置いていますが、いまだかつて「川崎モデル」など聞いたことがなかったので、どうなのかなーと半信半疑な部分もあったのですが。


 藤沢さんが川崎市(川崎市役所)の中小企業支援に関わるようになったのは、平成21年のことだそうです。あるきっかけから川崎市職員が市内の中小企業を訪問する機会に同行することになったのです。
 そこで彼女が見たのは、凡百の地方自治体が行っている、よくありがちな中小企業支援のイメージを覆す「血が通った」支援の実践でした。

 京浜工業地帯の中核都市として繁栄してきた川崎市ですが、工場の海外移転が進むと、市役所は大企業頼みでなく、むしろ地域に密着している中小企業の支援の重要性を再認識するようになります。
 平成6年ごろに市役所内で組織横断的な若手職員による「ものづくり機能空洞化対策研究会」という勉強会が開かれるようになり、中小企業経営者も交えて800回以上も行われるうちに、市職員と経営者の間には徐々に信頼関係ができるようになりました。
 このような積み重ねを経て、川崎市役所と、その外郭団体である川崎市産業振興財団がタッグを組んだ、「川崎方式」とか「川崎モデル」と呼ばれる中小企業支援策が徐々に形づくられてきたとのことです。

 では、川崎モデルとは何でしょうか。
 実は、この本ではその明確な定義が曖昧です。藤沢さん自身が
「川崎モデルを語る人にその意味を聞いてみると、その人それぞれが異なる川崎モデル感を持っている。・・・(略)・・・人それぞれに川崎モデルの定義は異なる。」
と書いているほどで、ちょっと頭がこんがらがってきます。
 藤沢さんの定義によると
1)支援する人々が企業のことをよく知っている
2)自分のことのように企業のために何をなすべきかを考え、実践する
3)一人の担当者がリードして動くのではなく、支援担当者それぞれが創発的に動き、多くの人を支援の渦に巻き込んでいく
 という3つが共通しているそうです。要するに市役所による「(企業の)御用聞き」や「隣組」の姿である、とのことです。
 その一方で、
「川崎市の取り組みを一つ一つ分解してみると、国や他の自治体の支援と相違なく見えるかもしれないが、全体を俯瞰すると各施策が連関しており、まったく独自のものとなっている。」
とも説明されます。

 ちなみに、上記のうちで「自治体は中小企業の御用聞きに徹すべし」という意見は、実はそれほど目新しいものではありません。
 たとえば山口義行立教大学教授などは大阪産業創造館がこの姿を実践しているとして、かなり以前から御用聞きの重要性は提唱していました。(以前このブログにもやや批判的に取り上げたことがあります。生意気言ってスイマセン。リンクはこちらです。)

 なので、藤沢さんの言う川崎モデルのポイントは、やはり後者の、つまり、通常なら細分化され、それぞれが単目的である中小企業支援策が、どのように現場で戦略的に、横断的に実践されているかという点のようです。

 本書によれば、川崎モデルによる「支援フロー」は次のような流れです。
① 元気な企業を発掘する
・企業へアンケートを行い、回答内容によって支援対象企業の目星をつける
・経営者のブログなどSNSをチェックし、人となりをした調査する
・企業経営者との勉強会などで口コミを収集する
・金融機関から良い企業を紹介してもらう  などなど
② 支援対象企業の強みを見つける
・市役所職員、財団のコーディネーター、金融機関など大人数のキャラバンで企業を訪問し、企業の現状を把握すると共に潜在力や可能性を検分
③ その強みを見える化する
・各種の認定制度への応募
・各種の受賞イベントへの応募
・認定、受賞した後のメディアへの露出支援
④オープンイノベーション
・大学との知財交流、共同研究、学生のインターンシップ
・異業種企業とのコラボレーション
・住民との交流
・地域金融機関のショールーム活用

 これらの内容の詳しいことについてはぜひ本書をお読みいただきたいのですが、このように行われる川崎モデル型の支援によって数多くの中小企業支援の成功例が生まれているとのことで、そのいくつかは本書で具体的な企業名も明らかにしたうえで紹介されています。

 確かに川崎モデルは、個々の支援ツールは全国の都道府県や市町村とほとんど共通しています。つまり、補助金や融資、相談業務、表彰などといった支援のスキームに取り立てて違いはありません。
 では、なぜ川崎市はうまくいっているのでしょうか?
 逆に言えば、他の地方自治体による中小企業支援には何か問題があるのでしょうか?

 川崎モデルの素晴らしい成果は認めたうえで、川崎モデルに対してわしの個人的な感想(推測を含む)を書いてみたいと思います。

その1
 川崎市は人口約140万人、面積142.7km²の政令指定都市であって、人口とか企業の集密度が高く、行政も施策が有効に打てる土壌があります。
 これは都市集積が散在している地方都市や、面積が広い道府県と大きく異なる点です。企業のほか、大学や研究機関も多く、連携のネタもそもそも豊富です。

その2
 多くの自治体では、中小企業支援担当の職員はルーチンの人事異動でたまたまその仕事をしているに過ぎず、長期的なキャリアをにらんだ能力開発が行われていません。また、多くの自治体は職員の実務能力の明確な評価基準がないので、専門的な事務処理能力よりも、要領が評価されるため、川崎市役所的な思考になかなかなりません。

その3
 昨今の自治体は、地味でなかなか成果が出ない、そのため、細く長くやり続けないといけない施策は予算がカットされがちです。華々しく、流行に乗った、議会やマスコミに受けそうな施策とか、国が「成長戦略」などと称して予算を重点配分してくるような施策に関心が向きがちで、看板がコロコロ変わります。(なので中小企業サイドも混乱するのです。)
 中小企業支援とは地味で変わり映えしない施策の典型です。これを川崎市のように、同じスタイルでやり続けられるには、市長と市議会のレベルが相当に高いものがあると思わざるを得ません。

その4
 中小企業を支援する業務は、自治体はもちろん、その外郭団体(中小企業振興機構とか、中小企業支援センターとかのたぐい)、商工会議所や商工会、中小企業団体中央会、商店街振興組合連合会、金融機関、信用保証協会などなど実に多くの機関が行っています。
 これらはそれぞれに設立背景が異なるので、なかなか連携できないのは長年の懸案です。川崎市は属人的な偶然がきっかけだったにせよ、連携がうまくいっているのは確かに驚嘆すべきことです。

 なので、川崎モデルを普及させるにはこれらのボトルネックを解決する必要があるでしょう。

1)その自治体に応じた中小企業支援の姿や活動領域を明確に設定しておく。

2)中小企業を自治体が考える「あるべき姿」に押し込むのでなく、行政はあくまで伴走に徹する。

3)長期的な視点で中小企業支援人材の育成を行い、彼らの業績はきちんと評価・検証する。

4)中小企業支援は予算のシーリングなどの庁内政治介入を行わず、企業の自立を基調としたベーシックな施策に徹する。

5)中小企業支援のステークホルダーに横串を刺す施策(予算、制度、人事)を行うとともに、支援ノウハウは各職員に共有する。

 このように書くと、何だか当たり前のオンパレードで、行政の仕事や組織を知らない人にはできないことが不思議にさえ思えるかもしれません。
 ただし、繰り返しますが、この当たり前のことがほとんどの自治体ではできていないのです。そして、それは職員がサボっているわけでは必ずしもなくて、予算、職場の風通し、首長や議会の理解と応援、などいわば「地方自治体の総力」のレベルの高低が如実に出ているということなのです。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

川崎方式ですが・・・
こんなのは相性の問題ですからねえ。そもそも市の支援に何なんて全然関心がない企業もあるでしょうし。
成功例だけをあるものの見方で一括りに分類しただけではないでしょうか??

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 コメントありがとうございます。
 わしも率直に言ってあまり目新しい発見ではありませんでした。今ある支援ツールを活用し、組織横断的に対応するということぐらいでしょう。
 ポイントは職員の意識とか能力の高さ、市の方針が「決してぶれない」こと、などの体制作りと組織マネジメントだと感じました。これが川崎市は比較的うまく行っており(もちろん、これは素晴らしいことです)、それを藤沢さんのような有名人にうまく取り上げてもらえたということかと思います。