2015年3月3日火曜日

【読感】地方自治体に営業に行こう!!

 中小企業の中には、新たな顧客の開拓や販路の拡大を目指して日々営業にいそしんでいるところも多いでしょう。
 しかし、この本 地方自治体に営業に行こう!(実業之日本社) の著者である経営コンサルタントの古田智子さんによれば、中小企業を含めた民間企業の多くが、国や地方自治体といった役所向けの営業努力が不十分か、そもそも営業をかけていません。

 都道府県庁や市・区役所、町・村役場といった地方自治体からは、実際には、地域活性化や女性の社会進出、観光PRや特産品のマーケティング、職員研修などなど、多種多様な業務が民間企業に発注されています。わしも仕事柄、自分の業務に関連する分野で業務委託(民間発注)の仕事を担当することがありますので、このことは熟知していますし、個人的な感覚としては、少なくない民間企業にとって、そのようなことは常識かと思っていました。
 しかし古田さんは、民間企業には、「国や自治体が発注する仕事は建設・土木の仕事だけである」「これら公共の仕事は入札金額の安さだけで受注先が決まる」という誤解が多いと言います。

 実は多くの仕事で門戸が開かれており、自社の持つ商品やノウハウが十分に活用できる業務がたくさんあることを、この本で伝えたかったのが執筆動機とのことです。
 大変わかりやすい文章で、役所への販路開拓に関心がある企業やNPOなどにとって、最良の入門書だと感じましたので、簡単に紹介しておきます。

 本書は、まず古田さんが東京都の港区役所から発注されていた「港区中小企業ワーク・ライフ・バランス支援業務」のプロポーザルに応募し、実際に受注を勝ち取るまでの過程がドキュメンタリー風に紹介されているところからスタートします。
 中小企業の社員に向けたワーク・ライフ・バランスの普及啓発のための講演会、個別相談会、セミナーの開催とハンドブック作成をパッケージにして、予算180万円で公募されていたものです。
 古田さんの顧客である子育て支援のベンチャー企業が、創業して間もないことから社会的信用力を高めたいということで、公共の仕事を受注したいと希望したことがきっかけで、古田さんの仲間である会計士、中小企業診断士、行政書士たちとアライアンスを組み、企画提案書作りから支援をしていくという話なのですが、こういった発注は、いわゆる「企画提型コンペ」として公募されるもので、企画提案書の作成と、プレゼンテーションという2つの大きなハードルがあります。古田さんたち専門家が、これに向けて結束したはいいが、何から手をつけたらいいのか、という部分から丁寧に苦心談が書かれており、このエピソードにこの本のエッセンスが凝縮していると感じました。
 
 本書の後の章でも出てくるのですが、わしも時々感じることの一つに、民間企業が行政の発注に応募してくる際、この業務の政策的な意図をあまりよく理解されていないのではないか・・・と思うことがあります。
 行政が行う仕事には、建前としてどのような仕事でも政策的な目的があります。それは、ある県が、たとえば男女共同参画というテーマで業務を発注する場合、一般的な共同参画という意味はもちろんなのですが、その県に特有の男女共同参画の課題とか、その県の現状、そして執っている施策や設定している目標、などと整合していなくてはいけません。そうでないと、県の発注する業務として一貫性がないし、成果の測定もできないからです。
 しかし、往々にして企画提案を寄せてくる企業は、そのあたりの理解とか事前の調査が不足しており、県にとっては通用しにくい手法とか実情に合わない目標設定、県の今までの考え方とは全く違っているアプローチ、などを寄せてくることがままあります。このような作り込みが甘い提案は、残念ですが俎上に乗る前に却下せざるを得なくなります。

 古田さんがこの本で披瀝するのは、まさしくこのあたりの話です。
 申請書(提案書)の書き方とか申請(提案)方法、入札資格審査といった形式的にこまごました部分も実務上は大変重要なのですが、公共事業(繰り返しますが、これは建築や土木の事業のみではありません)を受託する「ツボ」は、この「行政の考え方をよく理解した上での提案であるかどうか、その地域の実情をよく把握したうえでの提案であるかどうか」といった部分です。

 そのための基礎知識として、地方自治体にはどのような外注業務があるのかの事例紹介や、そもそも役所とはどんなところか、役人は何を考えていて、民間企業のどのようなところを警戒し、注視しているのか、そして、役所以外の人には非常にわかりにくい概念である「予算」に関する知識の紹介なども詳しく、そしてわかりやすく書かれています。

 それでは具体的に、どうやって地方自治体に営業をかけたらいいのか、どのような点に留意すべきか、そして、発注される多種多様な仕事を受注(落札)するにはどうすればよいのか、についても説明されるわけですが、これは本書の核心部分なのでぜひお読みいただきたいと思います。

 本書でも紹介されていますが、ある意味で当然ながら、21世紀の日本は、世の中の森羅万象、あらゆることに行政が関わることは難しくなっています。現代社会は複雑化、多様化していて、家族や地域コミュニティーも変質しています。しかも多くの自治体は財政難で人員削減も進んでおり、予算的にも能力的にもあらゆる住民ニーズには対応しきれなくなっているからです。
 このように行政環境が大きく変化している中では、業務の民間発注は、民間企業のノウハウ活用とコスト削減の両面から今後も否応なく増大していくと思います。
 行政は、予算と法律・規則によって活動が厳しく制約されており、公務員も保守的なタイプが多いのは事実ですが、この分野が中小企業の営業にとって一つのフロンティアなのは間違いありません。
 関心がある方は、本書を参考にしてみてはいかがでしょうか。

はんわし的評価 ★☆☆ (実務の良質な入門書。関心がある方にはおすすめ。)

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