2015年3月30日月曜日

地域経済分析システムって使えるの?

 やや旧聞に属します。昨年の冬あたりから、平成27年度より、政府がビッグデータの活用によって地域経済の競争力強化に本格的に取り組むと各紙が報じていました。
 このビッグデータとは、経済産業省が開発していた「地域経済構造分析システム」のことで、全国70万社の企業の取引情報や人口動態、地方税収の推移などを地図上に落とし込んで可視化したシステムです。
 具体的には、たとえば、地域の中核となる企業を中心に、県内外のどの地域の企業と取引が盛んに行われているかや、どの産業がどの地域に集中しているかといった情報が地図に示される仕組みであり、これに人口の転入・転出や地方税収の推移などを重ね合わせることで、地域の経済実態や産業構造が一目で分かるというものです。
 政府は、これらのデータを各自治体が活用できるようにするため、創生本部や各経済産業局の担当官などをデータ分析官として人材育成し、都道府県庁や市町村などに出張したり電話相談などを受けるほか、自治体職員の研修も今年4月以降実施されるとのことです。
 民間企業ではPOSデータのように、顧客情報をベースにさまざまな付帯データを組み合わせ、課題分析や企画立案を行うことはもはや常識ですが、行政、少なくとも地方自治体ではこのようなデータ活用はほとんど行われてきませんでした。
 ビッグデータが有望で、さまざまな分析が可能になることは間違いないでしょうが、では実際にそれが行政や政治の世界でどれくらい活用できるものなのでしょうか。

 平成26年11月12日付けの内閣府まち・ひと・しごと創生本部の資料によると、地域経済分析システムでは次のようなことできるのがわかります。長くなりますが引用します。(PDF本文へのリンクはこちら

1)産業マップ
◯どの産業が、域外から「稼いでくる」産業か、どの産業を強化すべきか、都道府県・市町村が産業戦略を立てる際、産業の全体構造がわかります。
◯行政区域を超えて、どの産業がどう広がっているかがわかります。これによって、どの産業分野で、どの自治体と具体的な政策連携を検討すべきかがわかります。
◯具体的な企業名もわかりますので、誘致したい企業がどこの企業と取引しているかなど、事前に情報収集が可能となります。
◯地域の経済を支える「地域中核企業」の候補企業名をビッグデータから検索できるため、企業ヒアリングなどの効率が格段に上がります。
◯自治体が支援した企業の取引先企業の売上や利益の変化がわかるため、講じた支援策の地域への波及効果などがわかります。

2)観光マップ
◯観光客が、どこの都道府県・市町村から来て、主にどこを訪れているのかがわかります。これにより、より効果的な観光戦略を立てることができます。
◯観光客が、家を出てから帰るまで、どの市町村を経由して、自分の地域に来てくれたかがわかります。これにより、他の自治体と広域観光ルートの検討などが可能となります。

3)人口マップ
◯都道府県・市町村の単位に、男女別・年齢層別に、現在と将来(2040年)の人口構成を把握することができます。これにより、今後のインフラ整備や医療福祉政策、教育政策の検討時の参考となります。
◯自分の都道府県・市町村からの人口流出の現状を、男女別・年齢層別に把握することができます。これにより、より現実的かつ効果的な「人口流出防止策」を検討することが可能となります。

4)自治体比較マップ
◯様々な指標に基づき、全国約1800ある自治体の中でのランキングを「見える化」します。これにより、自治体は、例えば、5年後の目標設定やPDCAが立てやすくなります。また、自分の自治体の強み・弱みもわかります。
◯例えば、起業・創業の活発度を示す「創業比率」において、自分の市町村は全国第何位なのかがわかります。また、全国上位ランキングの自治体がどのような「創業施策」を講じているかも、「施策マップ」で見ることができます。
◯他にも、黒字赤字企業比率、従業員数の増減率、経営者の平均年齢、有効求人倍率などのデータも、市町村間で比較できます。

 このうち、「産業」に関する地域経済分析システムについては、実はすでに、昨年公表された中小企業白書2014年版でかなり詳細に記述されていました。
 疲弊する地域経済活性化のためには「コネクターハブ企業(地域中核企業)」がカギを握っていると提言していたのです。(中小企業白書該当部分はこちら

コネクターハブ企業とは、地域の中で取引が集中しており(取引関係の中心となっているハブの機能)、地域外とも取引を行っている(他地域と取引をつなげているコネクターの機能)、両方の機能を持つ企業を指します。つまり、地域内から多くの仕入を行って、地域外に販売している(つまり、「外貨」を獲得してくる)企業をコネクターハブ企業と定義しています。

 現実の企業活動は、当然ながら非常に複雑なので、往々にして企業自身、仕入れた商品が何県何市にある企業の商品なのか、そしてその商品の原料は何県何市で製造されているのかについて知りません。と言うか、知らないのも当然と言えます。
 一方で、仕入れ先や販売先の具体的な企業名は往々にして営業秘密なので、これもなかなか企業はオープンにしたがらないケースがあります。
 なので、コネクターハブ企業とが具体的にどの企業なのかについては、地方自治体も含め、一般の人は知ることがありません。もちろん、このような企業は地域でも優良で有力な企業なのは推測できます。中小企業白書によると三重県には29のコネクターハブ企業があるそうですが、おおよその想像はめぐらすことができます。もちろん、それに確たる証拠はありません。あくまでわしの感覚ですが。

 従って、民間調査会社「帝国データバンク」の企業間取引情報などを活用して構築されているという「地域経済構造分析システム」によってその具体的な企業名を知ることができれば、まち・ひと・しごと創生本部が言うように、自治体はその企業に支援を集中すれば効果的かもしれません。これはビッグデータに大いに期待できる効果です。

 その一方で、もちろん、不安もなくはありません。
 まず一つは、これも中小企業庁などが明記しているように、企業の秘密をどう保持するかという面があります。国から地方自治体に提供される時点で個別情報は分からないようにされるそうですが、上述のように、地方では母数が少ないので、関係者には何となくわかってしまう可能性もあるからです。
 もう一つは、ビッグデータの持つ宿命ともいうべき問題です。ビッグデータはあくまでも過去の蓄積なので、不確実性が高い今のような経済情勢では、過去の知見に従って選択と集中を行うと、それがコケる可能性も決して少なくはないことです。
 セブンアンドアイの鈴木会長の著書にもありましたが、ビッグデータ(POSデータ)は小売業の革命ではあったが、それは瞬時に陳腐化するもので、それをいかに使いこなすか、つまり、過去の知見をベースにしていかに将来を正しく予測し、対策を打つかが重要になります。
 これが行政は最も弱い部分であることは、わしのブログをお読みいただいてくださる方はよくお分かりだと思います。この意味で、ビッグデータも今までの施策の延長の正当化に使われてしまう可能性が大きいとわしは思います。

 繰り返しますが、ビッグデータの可能性は非常に大きいものがあります。これは確かにその通りですが、データを正しく使いこなすには、それを処理できるスキルと共に、数字に基づいて、客観的合理的に施策が考えられ、実践できる「論理的な思考力」が最も重要なのです。それがなく、施策の発案や企画、具体的な予算化のプロセスが旧態依然のままならまさしく宝の持ち腐れでしょう。

 

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