2015年3月5日木曜日

蛭子サンにキレない太川サンの強さの秘密は?

 昨年の秋ごろだったか、FMラジオで70年代のアイドル界についての対談番組をやっていて、ゲストで出演していた太川陽介さんが芸能生活38年にして初めての著書を出した、という話題が出ていました。
 で、先日、その本 ルイルイ仕切り術(小学館) をやっと入手し、読了したのでレビューします。
 太川さんと言えば、わし的には「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」の英明なリーダーとしての姿がインプットされていますが、言うまでもなく70年代にLui-Luiなどのヒット曲で人気絶頂だった元アイドルです。
 人気商売ゆえいつかは人気も落ち、テレビにも出られなくなる日がやってきます。凡百のアイドルであれば、人気の低落と共にひっそりと芸能界を引退し、消えていくのでしょう。
 しかし太川さんは10年前に放映が始まった路線バスの旅シリーズで、テレビ東京的ではあるけれど、「視聴率男」として人気を復活させています。

 この本は「仕切り術」と銘打たれており、それは番組の中でも、場の空気を読まない言動で独自の存在感を放つ蛭子能収さんに対する、太川さんによる「あしらい」の驚嘆すべき上手さからヒントを得たことは間違いなく、実際に本文の中でも蛭子さん絡みの記述に多くのページが割かれています。しかし実際には、浮き沈みの激しい芸能界を、笑顔で泳ぎ切っている太川さんの人生観の紹介と自伝が「仕切り」をキーワードにしたエッセイにまとめられているのが本書の主内容です。

 蛭子さん対策といっても、太川さんが何か特別なことをしているわけではありません。目次には「蛭子さんのような人へのアドバイス」とか、「蛭子さん級にイライラする人に対処する」などの章はあるのですが、まあ、書かれているアドバイスや対処法は極めて常識的なことで、「うそは絶対に表情に出る」とか、「リーダーの決断は独断であってはいけない」とか、「リーダーはみんなの、ほんのちょっと先を行くべき」とかいったような、本当に普通の仕切り術が続きます。
 蛭子シフトのような、何かものすごい工夫があるわけではないので少々ガッカリはしますが、でもまあ、基本的に対人関係に特効薬などあるはずがないのであって、蛭子さんがカメラが回っていても何も反応しないとか、荒天でバスが運休(=ロケが中断)しそうになっても顔色一つ変えないとか、要するにテレビタレントにあるまじき挙に出ても冷静に対応できるのは、太川さんが今までの人生で築いてきた人格で、全人格的にぶつかっているからにほかなりません。

 なので、やはり本の流れとして自然に、では太川さんってどんな人なの? なんでアイドルやめたの? 仕事がなくなった時はどうやって食べていたの? というような関心へ進んでいきます。
 この辺は、関心がある方はぜひ本書をお読みください。わしは「レッツゴーヤング」という言葉を間違いなく35年以上ぶりに思い出しました。わしはその頃からヒネた小~中学生だったので、いわゆるアイドル歌番組はほとんど見ていなかったのですが、中学校の時に好きだった子が天馬ルミ子(だったか)というアイドルのファンで、その人も出ていたレッツゴーヤングの話をよくしていたので、話題を合わせるのに時々見ていたという、甘酸っぱい記憶も蘇りました。

 太川さんは、初めてのレギュラー出演となった「レッツゴーヤング」で、わずか2年目というスピードで司会者に大抜擢されます。20歳の時でした。これは偶然ではなく、Lui-Luiの大ヒットに加え、普段から自分が司会ならこう言うのに、などと考えており、ディレクターにも時々相談したりアピールしたりと彼なりの努力を続けていた結果でした。
 アイドル歌手に限界を感じた25才くらいの時に、かねて志望していた役者へ転身するためにすべてのテレビのレギュラーを降板します。しかしその途端ほとんど仕事がなくなり、スケジュール帳は真っ白。経済的にも困窮し、あまりの落差に自暴自棄、引きこもりにもなったと言います。
 その後、ある大女優のアドバイスもあってミュージカルに挑戦したことから次第に役者魂に目覚め、以後は舞台を中心にバイプレーヤーとして活躍されてきました。

 テレビ東京の旅番組によく出演するようになったのもこのころだそうで、確かに、太川さんのポジションは、テレビ東京の旅番組にふさわしいというか、つまり、まったく忘れられたわけでもないけど、最近全然テレビで見ない人だなあ、的な立ち位置だったわけです。

 それが一気にブレークしたのがローカル路線バスの旅というわけですが、最初に太川さんに「本当に台本がまったくない旅番組をやりたい」というオファーが来た時も、そうは言ってもそんな番組が成り立つはずは絶対にないので、こっそりルートや宿泊場所のヒントはくれるものと思っていたそうです。
 しかし、本当にそれはないのだそうで、収録の2~3日前にスタッフと太川さん、蛭子さん、それと毎回替わるマドンナの女優さんで打ち合わせをするのですが、A4サイズの日本地図に、スタートとゴールが赤丸で書かれている、それだけの資料しかもらえないとのことです。事前調査や、ネットを利用した情報収集も禁止。スタート時に渡される道路地図帳だけを使ってルートを決めなくてはいけないそうです。これで3泊4日、バスに乗り続け、本当に目的地に着くのですから、やはりこの読みの深さとか決断力は相当なものであると認識させられます。

 この本、所詮はタレント本なので数時間で読了できますが、もしローカル路線バスの旅のファンであれば、番組の裏話が多く載っていて、太川陽介さんの人となりもわかる、なかなか嬉しい一冊です。

 

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