2015年3月23日月曜日

地方間格差と見るか、地方の個性と見るか

 別冊宝島の 図解ひと目でわかる地方消滅 がなかなかわかりやすかったのでご紹介します。

 日本創生会議なる民間団体が昨年公表した「ストップ少子化・地方元気戦略」(いわゆる増田レポート)が、2040年時点において総人口が1万人を切る523の地方自治体を「消滅可能性自治体」と呼んだことが大きな反響を呼び、この1~2年は政府をはじめ全国の地方自治体は人口維持対策に躍起になっています。
 自治体による対策の目標は「出生率の維持と向上」に集中する傾向があり、その具体化のために若者の定住促進、雇用就労機会の増加、子育て環境やインフラの整備、公教育の充実などの施策に巨額の予算が投じられつつあり、過去に何度も繰り返されてきたような全国の自治体間での競争の様相を呈してきています。

 各自治体の焦りと不安がもっともなのは、この本でビジュアル的に分かりやすく紹介されているように、高齢化、少子化は今に始まったことでなく高度成長期にはある程度予測されており、生半可なことでは押しとどめようがないことです。
 その残酷な結果として、2040年には北海道、東北、山陰、四国、九州などの各地方では人口が5割減となることも珍しくはなく、大都市やその周辺部であっても人口減少と4割を超える激しい高齢化が起こる予測が詳細にデータで説明されています。関心がある方はぜひご一読いただいてはどうかと思います。
 この本が有用だとわしが思うのは、さらに以下のような視点での解説があるからです。


 まず一つ目は人口減少によって、わしたちが生活している日常光景がどう変わるかの予測が各分野ごとに紹介されていることです。
 住宅の7件に1軒は空き家となります。道路や橋、トンネル、水道などの公共インフラも老朽化で50%以上が維持不能となるので、ゴーストタウンが全国に広がるでしょう。
 大都市圏以外の鉄道やバスは減便と路線廃止が相次ぎ、メーカーの海外移転や金融機関の統合化などによって働く場も減っていくので、通勤ラッシュも見られなくなるでしょう。
 長寿医療が発達で高齢者の人口(絶対数)は莫大です。公的年金制度は事実上崩壊しており、70歳になっても働き続けなくてはいけません。一方で介護業界は慢性的な人手不足と予想されており、外国人介護士か大胆なロボット化を導入しなければ、介護難民どころか「姥捨て山」が各地に出現するでしょう。
 これらはあくまでも予想であり、過去の歴史をひも解いても前世代の予想や予測がそのまま当てはまった例は少ないので、絶望的になってはいけません。しかし客観的なデータでこれらの事象を再確認しておくことは必要です。

 有用だと思う2つ目は、有識者による地方消滅に対する見解や知見が披瀝されていることです。
 猪瀬直樹氏は、意外なことに江戸時代にも農村は江戸への人口流出と生産力の低下に悩んでいたと指摘します。このため統治者(藩など)も多くは財政破綻しており、いかに地域経営を立て直すかが大きな課題であり、全国各地で競争になっていました。つまり、平成の今の状況に似ているのです。
 猪瀬さんはここで、二宮尊徳に注目します。二宮尊徳(二宮金次郎)は、疲弊した故郷と、近郊都市の小田原では物価の違いがあることに気づき、故郷で採取した薪を、高価で売れる小田原に行って販売するビジネスで、破産寸前だった生家を再興させます。(なので彼の石像は薪を背負っているのだそうです!)
 これらの手腕によって尊徳は小田原藩士となり、関東一円で「地域再生モデル」の請負人になったのです。尊徳は産業振興による収入増だけでなく、支出の切り詰めも断行しました。ポピュリズムの現代では難しいですが、猪瀬さんのこの記事は参考になります。

 増田レポート批判の第一人者である山下祐介首都大学東京准教授は、地方消滅と言うが、これは今のままの(自治体による)行政サービスの維持が困難になるというだけで、過剰になった行政サービスを人口縮小に合わせてスリム化することで対処は可能であり、一連の議論はその方向に向かうべきだと言います。そして、増田レポートが(そして政府や多くの自治体が)向かっている(生き残る自治体とそうでない自治体の)「選択と集中」ではなく、多様なものの共生を目指すべきと主張します。
 山下さんは「地方消滅の罠」(ちくま新書)という批判本も著しており、実はわしもこの本を読んでいるのですが、なかなかに難解で内容がよく理解できない部分がありましたので、読み解きとしてこの記事は参考になりました。

 このほか、社団法人AIA代表 木下斉氏による、人口減少と財政難への対応例として、岩手県紫波町(しわちょう)が取り組んだ公民(自治体と民間企業の意味です)連携による地域開発「オガールプロジェクト」が紹介されます。
 現在政府が主導する地方創生事業でも、多額の公共事業予算がばら撒かれる気配ですが、オガールは補助金ありきでなく、将来的にわたって運営が持続可能となるよう「収益が上がる」ことを当初から厳格に貫き、民間主導により開発、運営されたことで大きな効果を上げているとのことです。
 補助金だのみの自治体は2040年を待たず潰れるほかなく、稼ぐための知恵とノウハウを官民挙げて絞る覚悟が求められるという指摘は重要です。

 最後にこの本全体のわしの感想です。
 基本的には以前にこのブログに書いた

30年後、500余りの自治体は消滅!?(2014年5月8日)  とか、

少子化で自治体が消えて何が困るの?(2014年7月15日) で

書いたことや感じたこととよく似ています。

 日本国としての人口減少くい止めと経済成長の持続には、東京に対する集中投資が最も合理的です。これは疑う余地がありません。
 同時に、地方は地方ならではの良さがもちろんあり、人々の生活が続いていけばいいのですが、行政は財政的に支援できなくなります。そうであれば、程度の問題はあれ、住民が自立的に暮らしていくほかはありません。今の日本は(猪瀬氏の言うように江戸時代の後期と同じく)社会が成熟しており、そのための資源やチャンスはあるのです。
 それには、増田レポートを批判する論者の意見も参考にし、自分たちが、そして自分たちの地域がどう存続していくかを、他地域との役割分担や負担分担を含めて模索していくことが必要でしょう。
 当然ですが、正解はないし、最適解も一つだけではないはずです。地域間の格差は当然生まれます。それをどう「個性」と考え、伸ばしていけるかが問題になるのです。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

貴方のお名前は?

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 名乗るほどの者ではございません(笑)