2015年3月9日月曜日

田舎暮らしがしたいというSさんへの手紙(その2)

(承前)田舎暮らしがしたいというSさんへの手紙(その1)

 地方が停滞している、ハッキリ言えば「衰退」しているのは、地方の「産業」が衰退していることとパラレルです。
 多くの人は、地方(田舎)の産業と聞くと、農林水産業を思い浮かべるかもしれません。しかし統計に当たれば明らかなように、地方でも農林水産業に従事している人はせいぜい1~3%ほど、生産している付加価値も数%に過ぎません。働く人の大部分は小売業やサービス業に従事しており、付加価値では建設業や工業(製造業)のほうがはるかに大きいのです。つまり、第1次産業はもはや地方の基幹産業ではないのです。

 もっとも、第1次産業は、その地方の自然環境や風土、歴史などに強く根ざした産業です。いわばその地方の顔であって、これを軽視していいわけではありません。
 しかし、地方の産業を活性化するという視点で考えた時、重要なのは、農産物、魚、海藻、木材、などを「素材」のまま提供する今までの第1次産業のあり方よりも、それらを惣菜、弁当、ジャム、ジュース、クラフト製品、家具、といった、高い値段で販売できて、利益も大きい、「商品」にすることなのです。
 こう考えると、農林水産業は、食品加工・製造業、製材業、運送業、卸売業、小売業、宿泊業などなど、波及する産業が広い、つまり裾野が広いものであることも再認識できます。

 そもそも、農産物や水産物の多くは、生産者が自分たちで値段をつけることができません。値段は現物を市場に持って行って、仲買人が決めるまで分からないのです。豊作貧乏という言葉どおり、たくさん取れたら値段が下がり、値段が高い時は品薄で売るものがない、という生の需給原理で成り立っているのです。(わしはこれを冗談で「市場原理主義」と呼んでいます。)
 せめて生産者が自分たちで値段を決められるようにならないか。あらかじめ、これだけの量をこの値段で買ってくれるとわかっていれば、生産者も計画が立てやすく、リスクも少なくなります。
 そこで、素材を商品にして販売する、第1次産業×第2次産業×第3次産業の「第6次産業」という解が注目されてきています。

 Sさんも、田舎に行くと産直市場とか、道の駅の特産品コーナーを見かけることがあるでしょう。新鮮な野菜や果物、魚介などを生産者が直接販売する。さらに、付加価値をつけて、惣菜やジュースとして販売する。単にその場で売るだけでなく、都会のデパートで物産展をやったり、ネット通販で売ったりする。その商品を食べたり使った消費者が関心を抱いて、その地方に観光や体験に来てくれる。これらの経済活動を通じて、地方がよその地域から「外貨」を獲得していく。
 こんな方向性に、地方の産業振興の考え方は大きく動いています。その真っ只中が、まさに今なのです。

 しかし、バラ色の夢にはまた、障害物も多いものです。
 美味しい惣菜に加工するにはレシピや調理技術が必要です。調理して包装する工場も必要ですし、食の安全安心にも配慮しなくてはいけません。これらはノウハウの塊で、設備も資金も人材も必要です。
 それらを誰にどうやって売るかも問題です。作りすぎて余ったり腐らせていては商売になりません。デパートの物産展に出展するにも、どんなチラシを作り、いくらで売ったらいいのか。もし追加注文やクレームが来たらどう対応したらいいのか。カタログ通販や、ネット通販をするにはどうしたらいいのか。わからないことだらけです。これもノウハウの蓄積が重要で、そういったスキルがある人材や、実際に試行錯誤して成功モデルを作り上げていける人材が必要です。

 何が言いたいのかというと、百姓や漁師のように生産する人はもちろん大事です。そうなのですが、それを加工して商品を作ったり、販売できる人はもっと大事だということです。
 付け加えれば、どのような商品を作るのか、作った商品をどこで誰に売るのかという「マーケティング」とか「商品企画」ができる人は、もっともっと大事になるということです。

 わしが、Sさんのような都会人に期待していることがある、と書いたのは、話がここにつながります。
 都会で生活していると、正直言って、各地の商品(特産品)などデパートの催事場に行けば全国のものがいつでも手に入ります。
 地方の人は、おらが村のお米が一番うまい、とか、おらが川で獲れた鮎が最高だ、と信じていますが、都会の消費者にとっては味の違いなどは分かりません。パッケージがオシャレだとか、値段が安いとか、知り合いに勧められたとか、店員さんが美男美女だったとか、そのような基準で選ぶことの方が多いものです。
 つまり、熾烈、苛烈な競争である全国の特産品市場において、善戦できるための課題は「マーケティング」と「商品企画」なのです。これには、ある程度、マーケットすなわち都会の人々の生活スタイルや意識を知っていることが有利で、現在、地方で最も不足しているのは、この分野の人材といって過言ではありません。言い換えると、地方で一番ニーズがあるのは、マーケティングができる人なのです。

 これは、言うは易しです。マーケティングや商品企画は、商品の製造や流通のプロセスが理解できて初めてできるものでしょうし、そもそも製造や流通には、生産、つまり農作業や漁にも理解がなくてはいけません。習得には時間がかかるでしょうし、多くの人からいろんなことを教えてもらわなくてはいけません。いずれにしても、若いSさんには相当な努力が求められることになります。

 しかし、どうでしょうか。都会の、100万人、200万人の人口の一人として生活するより、東紀州(三重県南部の、尾鷲市、熊野市、紀北町、御浜町、紀宝町の2市3町からなる地域)の8万人の一人のほうが、いや、熊野地方のせいぜい十数万人の一人のほうが存在感は得られるかもしれません。
 社員が1000人、2000人の会社より、熊野の小規模な企業や工房のほうが自由にやりたいことができて、しかも組織に貢献しているやりがいは数段高いのではないでしょうか。

 もちろん、熊野の山間部や沿岸部の小集落には、実際に全世帯が数戸、人口が10人というところもあります。人よりサルやシカやイノシシのほうが多い。そんなところで、自給自足的に暮らすのも素晴らしいことです。わしはそのことを否定しません。
 しかし、熊野地方でも人口の大部分は都市部(人口密度が高い地域)に住んでいて、そこには商店街も飲み屋もあり、幹線沿いにはスーパーもコンビニもパチンコ屋もあります。その意味では、多少は不便かもしれませんが、日常生活は大都会とそれほど変わるわけではありません。

 ただ、せっかく熊野に関心を持ってもらったのなら、6次産業の分野で働くことも意識してもらえば ~仮に百姓になった場合は、1+2+3の6次産業農家となってもらえば~ 活躍の場が広がるのではないか、と思うのです。
 Sさんの不安に対してあまり答えになっていないかもしれませんが、わしがアドバイス、というか田舎暮らしに関して考えているお教えできることはこんなところです。

 では、また。どこかでぜひお目にかかりましょう! 

(余談ですが、以前、こんな本も読んだことがあります。参考になさってはどうでしょうか。) 

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